41 みたことのない世界
「――陸……あなた、一体なんなの………………?」
バケモノでも見る様な、おびえた様子で詩織里が俺に語りかける――。
「詩織里……おまえが無事でよかったよ………………」
「陸のおかげよ……子供の頃から、危ない時はいつも陸に助けてもらっていたわね…………」
お互いに、なぜかその先の言葉がみつからなかった……それに、この時の俺にとってはもう言葉なんて無意味だった。ただ彼女が誰にも汚されず、無事でいてくれるだけで、俺の存在には意味があったのだと感じさせてくれた………………。
俺は世界で最も美しく、愛おしい存在をただ抱きしめた………………損壊した死体の乱雑に散る、寒く、暗く、微かに錆びた鉄のにおいが入り混じる、退廃した、そして最も醜悪なこの新世界で――――――。
「見せてやるよ……輝く新世界を……夢のような新世界へ、君を連れていくよ。誰も俺たちを止められない、縛れやしないさ。初めての世界、夢に満ちている世界、素敵な世界を見つめて……君といつまでも――――――」
「……ぷッ! あっはっは!! 一体なんの歌詞なのよ~、くさい台詞ね、陸らしくもない……頭でも強く打ったのかしら?」
「空飛ぶ絨毯はねえけどな……見せてやるよ……きっと………………」
――チカラの本質はすべて暴力……権力も、財力も、武力も、その本質の行き着くところはすべて暴力だ。勿論これは物理的な意味も含めて、強制力という意味でだ――。
突如として崩壊した旧世界……世紀末も過ぎ去り、核戦争が起こったわけでもないのに人間の本質が露呈する新世界。三文小説にも満たない様な、独創性の欠片もないありふれた世界観があまりにもバカバカしくて笑えてくる。でも、その新世界こそが現実なんだ……。今いる、この新世界こそが現実なんだ……。損壊した死体の乱雑に散る、寒く、暗く、微かに錆びた鉄のにおいが入り混じる、退廃した、そして最も醜悪なこの新世界こそが……それこそが、今の俺たちの新世界だった――――――――――――。
「陸……大丈夫………………?」
「……ん!? あぁ……、なんだか段々と痛みの感覚が戻ってきた………………俺の『皇の太刀』もいつの間にか起動をシャットダウンしている……YM9―MBXX―KYT……ご丁寧に型番まで付いてやがるのか……、まったく良くできてるぜ、ホントに………………」
「皇の太刀? あぁ……刀のことね、まるで陸と一心同体ね………………陸、そのチカラ……あなたはどう使うつもりなの? あいつ等みたいに暴力にうったえて、欲しいものはチカラで奪っていくの? そうやって陸も新世界の神を目指すの?」
「………………わからない、でも俺は別に神なんかになろうなんざ思っちゃいない……俺は、ただ……、俺は、ただ大切なものを守りたい………………」
「そう………………………………」
詩織里はただ一言だけ呟き、そして長い沈黙の後、こう続けた――。
「………………でもね、陸……きっとこの新世界はもう、陸にそれだけを許してはくれないわ」
「どういうことだよ……?」
「陸にはチカラがあるじゃない、普通の人間を遥かに超越したチカラが……そのチカラ……、あなたは正しく使うべきよ!!」
「正しくってなんだよ……この新世界にはもう、正義にも悪にも正解なんてないんだぜ」
「いいえ、必ずあるわ! 陸……あなたがそれを見つけなさい! そして、あなたは新世界の神を目指すのよ!!」
「俺が……神に………………!?」
「陸、あなたはあなたのこたえをみつけて……陸の創るあたたかい世界を………………あたしにみせてちょうだい………………」
そういうと詩織里は、俺の胸元に顔を埋める様に耳をあて、俺の心臓の鼓動を聞いていた――。
――俺は別に神になんてまったく興味はない。狂える神モドキ達、独善不遜な神候補生どもの織り成す、神への出世レースに参加するつもりなどは更々なかった。でも俺は、彼女の望む新しい世界をみせてやりたい――――――。
京羅雨刹が死ぬ間際に言っていた。世界中に散らばる御神物を……究極の御神物を探せ、と――おそらくもう今現在、能力者たち……ウェイクラムだのオーバーサリアンだの、なんだかよく解からない、得体のしれない連中たちは世界中に分散して新世界の神となるべく動き始めているのだろう。そして、未知なる能力を秘めた、ありとあらゆる御神物も――――――。
――これから遭遇するであろう様々な艱難辛苦、まだ見ぬ能力者たちとの邂逅……そして、この世界で俺たちが生きる事の意味………………俺は、こたえをみつけださなければならない。彼女の願う新世界はきっと、そのこたえの中にあるはずだから………………それが俺たちの新しい世界――――――。




