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A whole new world【第01巻】~プロローグ・破壊と創造篇~  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
34/41

34 地下倉庫

「――みんなまだ戻ってないのか」

「そろそろ帰って来るわ、お昼までにとりあえずみんなここに戻ることになっているから」

「そうなんだ……じゃ、少し待たせてもらいますかね」

 こうしてしばらくの間、俺は時間を持て余し、優馬たちの帰りを待っていた――。


「――あら? ……優馬たち帰って来たわよ。おつかれさま、何かあったかしら?」

「ただいま……ガソリンスタンドがあったから、燃料とかは意外と確保できそうだったが……食料はまだ何とも……田畑はどういうわけかひどく荒らされていたよ」

「そう………………」

 力なく一言だけ詩織里はつぶやき、目線と共に少しだけ肩を落とした。

「それと、いろいろわかったことがあります、燃料よりもそちらの方が個人的には収穫でした。……残念なことに信号や渋滞、それとスピード違反を取り締まる警察がいないこの新世界は、想像以上に狭いということがあらためてよくわかりましたよ」

「どういうことかしら?」

「どうも愚連隊の連中がこの周辺までツーリングに来ていたようなんです、この間と同じ『皇』のメッセージ付きの死体が何体もありました」

「バイク飛ばして突っ走ればそりゃそうか、国中どこでもすぐにいけるな、今の世界は……」

「……ええ、高性能な足さえ確保できればどこでもすぐです」

「良い事なのか悪い事なのか………………」

 開放的で自由な気もするが、ひどく恐ろしい気もする――――――。


「――ところで階下は見てきましたか?」

「おう、見てきたぜ、なんだかよくわからないものが多かったけど、一番下は使えそうな物がたくさんありそうだったぜ。ただ、暗くてよく見えないし、人手が少な過ぎたから照明を確保してから、またみんなで探索してくれよ」

「わかりました、瀬戸さんたちが戻ってきてからそうしましょう」

「あと、変な銃を見つけたからそれだけは先に持ってきた。萌衣、バッグから銃を出してくれ」

 瞳をキラキラさせて萌衣は銃を取り出す、まるで虫を捕まえてきて自慢をする猫のようだ。

「これは……本物の水中銃ですね、これは本当に掘り出しものです」

「こんなのが地下倉庫にいろいろあったから、使えそうな物はみんなで上に運んで来ようぜ」

「わかりました、父の悪趣味な道楽が本当に役に立ちそうですね」

「他に掘り出しものがどれだけあるか……、お楽しみって所だな」

 水中銃を興味深げに扱う琥珀、まるでおもちゃを与えられた子供のようだった――。

 琥珀と今後の話をして、そんなこんなで時間を潰していると瀬戸さんたちも戻ってきた。

「――何か獲れましたか?」

「それが、たいしたものは……でも何匹か魚は獲れましたぞ、とはいえ全然人数分には満たないですが……また午後になったら漁に出ますから、今度こそは………………」

「じゃあ、午後は漁に出かける班と地下を探索する班にわかれようぜ」

「そうですね、では、とりあえずお昼にして、食べ終わったらまた午後に行動しましょう」

 ――暖炉に火をともしながら琥珀はそういった。さっき獲れた魚と俺たちの今までの備蓄がこのお昼のすべてだった………………。


「――ごちそうさまでした……っと、これで完全に崖っぷちだな」

「背水の陣ってやつね」

「食料は完全に底をついてしまいましたから、午後の収穫がなければ今晩は水だけですよ」

「じゃあ瀬戸さんたちに期待ってことで」

「お任せください、では早速行ってまいります!」

 なぜか自信満々で、瀬戸さんは食後にもかかわらず平気でバタバタと動きまわる。

「慌ただしいな、少し休んでから行けばいいのに……じゃあ、俺たちも地下の探索を始めるか」

「そうね、これだけ人手があれば仕事がはかどりそうね」

「では僕らも動きますか」

「その前に、照明を確保してくれよ、地下は真っ暗なんだよ」

「了解です……といっても懐中電灯や松明じゃ不十分でしょうから、どうしましょうかね……」

 立ったまま腕を組んで悩む琥珀、そしてそのまま目を閉じて動かなくなってしまった。

「ねえ、琥珀くん、この間の発電機って動かせないかしら」

「燃料はありますので動かせますが……」

「だったら各階の電気スタンドや照明器具を集めて明りを照らせないかしら」

「なるほど、燃費が気になりますが良い思いつきです、それなら簡単で今すぐできますしね」

「なかなかやるじゃん詩織里、じゃあ早速各階の照明器具を集めて一番下に集合な」

「では僕は何人かで発電機と燃料を持っていきます」

 こうして俺たちは各階の照明器具を集め、最下層で琥珀たちを待つ――そしてしばらくの後、琥珀が少し息を切らせて地下倉庫に遅れて合流する――――――。


「……遅かったな」

「電源タップをついでに探してから来たので……すみません」

「んにゃ、別にいいからさ、早く始めようぜ」

「わかりました。でもその前に、一番奥の扉を開けて下さいますか。暗くて気が付かなかったでしょうけど、実は扉があるんですよ」

 まだ少し息を切らせながら、琥珀は奥の扉を開ける――――――。


「――うわぁ、すげえ、洞窟? なのか?」

「船でここから海に出られるんですよ」

「本当に呆れるくらいの金満っぷりだな……君たちには驚かされてばかりだ………………」

 暗がりの先をのぞいてみると、船とさらにその奥の奥に、かすかに海が見えた。サプライズが多すぎる紋帝院家の財力には、さすがの優馬も未だに慣れないようだ。

「とりあえず発電機を扉の外に置いてください、換気はこれで十分なはずです」

「――照明のセッティングもバッチリだぜ」

「ではコンセントをさしておいてください、その間に発電機を動かしますので」

 俺たちは照明のプラグをコンセントに差し込み、後は発電機の稼動を待つばかりだった――。

「――では、動かしますよ」

 想像以上の騒音を発しながら発電機が動き出し、そして次の瞬間に地下倉庫は明るくなる。照らし出された地下倉庫は思いのほか広く、そして宝の山のようだった――――――。

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