32 紋帝院別邸Ⅱ
「――ふえ!? 陸先輩、一体どうしちゃったんですか!? 大部隊ですぅ!」
「……陸、こちらの方たちは?」
「ここの別邸の執事さんたちだってさ」
さすがに詩織里も唖然を通り越し、只々、ポッカーンとしていた。
「これだけの人数が集まるとさすがに賑やかだな」
「とりあえず自己紹介でもしていきましょうか、これから僕たちは共に生きる仲間ですから」
そういうと琥珀はまず俺たちに執事やお手伝いさんたちみんなの紹介をしてくれた、そして各々が順番に簡単な自己紹介をしていった――――――。
「――さてと、あいさつはこれ位にして本題に入りましょうか、これからまず僕らが成すべきことは……多すぎて何から手を付けたらよいのか正直、混乱していますが、やはりまず最優先すべき事項は食料の確保でしょうね。それから電力の確保もしておきたいですし、いつ何が起こるかわかりませんから武装の強化もしておきたいですし、それに燃料の確保もしなければなりません、さらに情報も欲しいですね、それから………………」
「おいおい、琥珀、あんまり一度に言われてもわかんねえって」
「琥珀ちゃん、焦らずゆっくり順番にやっていきましょう」
「失礼いたしました……それもそうですね、ではまず食料の問題から考えましょう」
「ぼっちゃん、それでしたらこのあたりは魚が獲れますぞ。それと少し遠出をすれば畑もありますが……ただ、畑は荒らされているやもしれませんな。どうも村の連中同士で田畑を巡って戦争があったようですからな………………」
「魚ですか……、生ものは保存がきかないのが難点ですが、仕方がないですね」
「ぼっちゃん、冷蔵庫を動かせばよろしいのでは?」
「動かせるんですか!?」
「大型の発電機が二台に、通常サイズの発電機が確か二台ありましたぞ。芝刈り機を使うためにも必要でしたし、旦那様がキャンプ遊びの時などによく使っておりましたな……」
「発電機に芝刈り機……いろいろ希望が見えてきましたね!!」
「となると……より一層ガソリンが貴重になってくるな………………」
「車を動かすにも発電機を動かすにもガソリンが必要なのね」
「ガソリンでしたら地下にストックがあるはずですぞ、旦那様の船の燃料にということで……地下には旦那様の趣味でいろいろな物が眠っておりますからな」
「じゃあ、船の燃料と僕らの集めた燃料とで一時的ではありますが、とりあえず発電機は使えそうですね、車を改造して発電機を造るしかないと考えていましたが……父の道楽好きが役に立つ日がまさかくるとは思いませんでした」
「てことはさ、これからは冷蔵庫が使えるということを前提に食料をゲットできるわけか……冷蔵庫が使えるんだったら暮らしぶりが劇的に変わるな、大量に魚獲ろうぜ!」
「はい、これからは大概の物なら保存が出来るはずですよ」
「冷蔵庫に電気……文明の利器がこんなにもありがたいとは思わなかったわね」
「じゃあ食料はなんでもいいとして、あとはガソリンも出来うる限り確保すれば安泰だな」
「外敵さえいなければそうなりますね………………」
「外敵って……ここら辺は安全そうだけどな」
「陸、もうこの世界に安全な場所なんてないぞ、油断はするな」
肩の力を抜くことを知らないのか、優馬は相も変わらずのリアリストぶりを発揮する。
何時だって優馬は正しかった。俺みたいに調子にのってふざけた事を言ったりはしない……その事をこの時の俺は、口だけだはなく真剣に肝に銘じておくべきだったのに――――――。
「これだけの人数がいるんだから大丈夫そうな気もするけどな……一応、肝に銘じておくよ」
「――とりあえず今、僕らの持ってる食料を全員分で割ると……二日と持たないですね」
「では早速、この瀬戸源三めが魚を獲ってまいりますぞ!」
「ちょ、瀬戸さん! ちょっと待ってください! ……組織で動きましょう。やることは他にもたくさんありますし……明日からでも遅くはありません」
「それに、そろそろ日が落ちて真っ暗になりますわよ……リスクは冒さないで欲しいですわ」
「はッ! それでは明日の早朝から漁に出るということで!!」
「何人かで漁をしてください、単独行動は今後一切禁止です」
こんな世界で単独行動が危険すぎることは当然、全員が理解している。琥珀の指示を受けるまでもないが再び強く俺たちは認識させられる――。
「とりあえず今日は室内を今後のために整理しましょう、地下はどのみち昼でも夜でも真っ暗ですから各自灯りをともして頑張りましょう」
そういいながら荷物を漁り、琥珀はガソリンバーナーを取り出した。
「そういえばそんなのゲットしてたな」
「本当は別の目的があって持ってきたものなんですが……まぁ、使えるものは使いましょう」
「琥珀ちゃん、それで何をするのかしら?」
「何はともあれ火を焚きましょう。瀬戸さん、外の暖炉裏にたしか薪が積んでありましたよね、悪いんですがみんなで運んできてくださいますか」
「かしこまりました、ぼっちゃま!」
お手伝いさん数人と共に瀬戸さんは大量の薪を運んできた。すると琥珀はガソリンバーナーを点火し、一本の薪を燃やしはじめる。
「これで火種はできました、あとは暖炉に少しずつ薪をくべていってください」
薪を少しずつ燃やし、俺たちは自然と暖炉脇に集まった――。
「あたたかいですぅ」
「ひさしぶりに今日はみんなであたたかいディナーにしましょう、たまには贅沢しないとね、瀬戸さん、一番大きな鍋を……」
「はッ! ぼっちゃま!」
そう返すと瀬戸さんはすぐに大きな鍋を持ってくる。
「この暖炉は上が窯になっていて料理が出来るんですよ、ガスや電気が使えなくてもこの窯があれば何でも料理できます。これも父の道楽でよくわからないものをこの窯で作ってましたね……まぁ、今日はカレー風のごった煮ですから、あまり父のことは言えませんけどね」
鍋にレトルトのカレーや煮込めそうなものを放り込み、そして琥珀は鍋を窯に入れた。
「――さて出来上がるのを待つばかりです、誰か人数分の食器を用意してください」
「はッ! ぼっちゃま!」
こうなるともう瀬戸さんってなんなんだろう……疑問に思いながらも、いつの間にか時間は経過し料理が出来たようだった――――――。
「やっぱり薪で熱を通したものは違う感じがするわね」
「萌衣、お腹ペコペコですぅ!」
取り出した鍋をテーブルの上に置き、各自が食器をもって鍋の周りに並ぶ。そして、ひとりひとりが料理を食器に盛っていった。
「これを食べて明日からの活力にしてください。やることは山のようにありますから、今日は早めに休みましょう――」
琥珀のその言葉を聞いて、みんなの士気が上がったのだろうか……なんだかみんなの表情が力強く変わった気がした。ひさしぶりに暖かいまともな料理を食べたからか、それとも仲間が増えたからか、俺たちもこころなしか少し、楽天的になっていたかもしれない。この時はまだスメラギの族どもが俺たちを探していることなど夢にも思っていなかったから――――――。




