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A whole new world【第01巻】~プロローグ・破壊と創造篇~  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
30/41

30 スメラギの影

「――動くな!!」

 片目を閉じたまま、優馬は弓に矢をつがえる。

「そのまま動かないでください!」

 続けて琥珀が銃を突きつけながら言い放つ、にもかかわらず悪党たちは反抗の色をみせる。俺たちをまだガキだと思って侮っているのか、それとも銃がニセモノとでも思っているのか、こいつらは不遜な態度をあらためようとはしなかった。

「何だこのガキども! 俺達をスメラギのメンバーと知って喧嘩売ってんのか! 殺すぞ!!」

 今さらクズどもの恫喝にたじろぐ俺たちではなかった。スメラギだかなんだか知らないが、図に乗る悪党どもにかける情けなどはない……車を降りた俺はマチェットを抜き、ハッタリをかますため切っ先をこいつ等の首元に突きつける。

「動くなって言ってんだろ!!」

「わたくしたちは本気ですわよ………………」

 冷静にいわれた方がこういう時はきっと怖い。桜華さんの静かな物言いでやっと悪党どもは両手を上げて降伏のサインを出す。そして、ふと見ると詩織里と萌衣が女性と子供を車内へと保護していた――。

「優馬、こいつ等どうする……殺すか?」

 矢をつがえながら鋭い目つきで優馬が悪党どもを睨みつける。もちろん、俺たちは最初から本気でこいつ等を殺すつもりなどはない。

「ま、待ってくれ! ほ、ほんの出来心だったんだ!!」

「萌衣はこんなの殺しちゃってもいいと思います!!」

「そうね、女の敵を生かしておく必要はないわよね………………」

「ま、待ってくれ、頼む!」

「謝る相手が違うでしょう?」

 侮蔑のまなざしで悪党どもを見下ろし、詩織里は被害女性をあごで指し示した。

「「すいませんでした! 本当にすいませんでした!」」

「謝ってすむ問題かよ、ふざけんな! 骨の一本や二本で済むと思うなよ!!」

「陸、ちょっと待って……あんたたち、今すぐ海に向かってあたしたちから見えなくなるまで全力で走り続けたら許してあげるわ、どうする?」

 その言葉を聞いた途端に躊躇なく悪党たちは俺たちに背を向け、全力で海へと向かって走り始めた。いくら小悪党にしても驚くほどの小者っぷりが微笑ましくも思えてしまった――。

「……もう大丈夫よ、赤ちゃんは無事かしら?」

 震える女性に詩織里は優しく声をかけ、そして毛布にくるまれた赤ん坊の顔を覗き込んだ。

「――あらあら、将来きっと大物になるわね」

 こんな状況下にもかかわらず、赤ん坊は毛布にくるまれたまま、何事もなかったかのようにすやすやと眠っていた――――――。

「女性一人でこんなところをふらふらと……、危ないですよ」

「すみません。でもどうしても、この子のために漁場の倉庫に行きたくて……もう粉ミルクもまともな食べ物も切らしてしまい、漁場の倉庫に何か残ってるかと思いまして………………」

「その途中で悪漢に襲われたと……もうこの世界はクズ野郎ばかりなんだから気をつけないと」

「元々はあんな人たちではなかったんですが……」

「元々はって、お知り合いですか?」

「はい、主人と共に働いていた漁師仲間でした」

「それがどうしてこんな……仲間割れか何かですか?」

「仲間割れといいますか、主人が亡くなってから誰も組織をまとめる者がおらず……まっ先に敵に投降した彼らは、もはやただの蛮族になってしまいました」

「……ご主人、亡くなられたんですか」

「はい……最初は漁師仲間たちと海産物や魚をとって暮らしていたんですが、ある日、突然、オートバイに乗った連中に攻められて何もかも奪われてしまいました。もちろん主人は必死で抵抗しました、漁師仲間たちももちろん必死で……ですが抵抗する者は容赦なく殺され、投降するもの以外はすべて殺されてしまいました。最後に主人はせめて私と赤ん坊だけでもと思い身を盾にして時間を稼ぎ、私たちを逃がしてくれたんです………………」

「勇敢で素敵な旦那さまですわね………………」

「……萌衣、赤ちゃんでも食べられるものって何かねえかな」

「赤ちゃん専用の物はないですけど、砕いてドロドロにすれば大丈夫じゃないでしょうかね?……ん~………………冷たいままですけれど、ひとまずこれを……」

 バッグの中をゴソゴソとまさぐっていた萌衣は、赤ん坊でも食べられそうなレトルト食品を見つけ、赤ん坊のお母さんに手渡した――。

「よろしいのですか!? ありがとうございます! ありがとうございます!!」

 母親は涙ながらに何度も何度も頭を下げた――――――。


「――オレたちは、これから行くところがありますので出発しますが、今後、単独行動は絶対に控えた方がいいですよ。貴女も早く仲間の所に引き返した方がいい……」

 母親は優馬の言葉を聞いて深々と頭を下げ、仲間たちの集落に引き返していった。俺たちの稚拙な正義感からのこの独善的行動は行きがけの駄賃のつもりだったのかもしれない。しかし、この独善的行動が後に、あまりに高くつく事を今の俺たちには知る由もなかった――――――。

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