27 肌寒い明け方
「――そうですか、ありがたい話ですが……こんな私に出来るでしょうか………………」
「新しい世界をお創りになられるのでしょう? 娘さんをお探しになるのでしょう? 弱気は禁物ですわよ、男子なら邁進あるのみですわ!!」
「ちょっと、桜華さん……」
「いいえ、やると決めたら迷いは禁物ですわよ!」
「……そうですね、ありがとうございます、確かにここにいてひとりでウジウジしていても何も始まらないですし、具体的にどうしようかはまだ考えがまとまっていない状態でしたからね……そのお話、お受けしようと思います」
「暴力のないあたたかい新世界を創ってください………………」
こうして俺たちは、都心に出る前に、地元で新しい世界を創る手伝いをすることになった。暴力のない、木崎さんの新世界を創るために――――――。
「とはいえ、課題は山積しておりますね………………」
「ていうか、俺らは具体的に、まず何をすればいいんだよ」
「……そうですね、どこから始めましょうか」
琥珀が何か考えをめぐらせている間、俺たちは黙ったままだった。
「……とりあえずさ、紋帝院の別邸ってどこにあるの?」
「そうですね、優馬さんの家から車で約一時間半くらいですかね」
「車で一時間半って……、結構あるな」
「今の世界なら半分もかからないんじゃないかしら?」
「なんでだよ?」
「もうこの世界には信号も渋滞もスピード違反もないだろ」
「あ!? なるほど」
「陸先輩……いくらなんでも……もうちょっと頭を使いましょうよぅ」
「萌衣に言われるといよいよもって、俺って本当にヤバいんだなって実感するな……ホントにもうちょっと頭を使うようにするよ」
「えぇ、そうしてちょうだい」
――小刻みに肩を震わせ、詩織里は笑いをこらえていた。
「車で一時間半ってことはさすがに車を用意せざるをえないな」
「優馬ん家に戻ってあの車で行けばいいじゃんかよ」
「ではそうしますか、このまま朝方まで待って、木崎さんも一緒に僕らの拠点に戻りましょう」
「私は詳しいことは良くわかりませんが、みなさん、よろしくお願いします」
木崎さんは軽く頭を下げた。年下の俺たちに見栄やプライドを捨て頭を下げることが出来るこの人は、やっぱり悪い人ではない。この時、俺はあらためて思った。
「木崎さん、夜明けまでに荷物をまとめてください。ひょっとしたらここにはもう戻って来られないかもしれませんから………………」
「わかりました、私はもう失うものは何もありませんし、たいした荷物はありませんから……すぐに済みますよ」
儚げな面持ちで荷物をまとめる為、木崎さんはパタパタと動き始める――。
「――さて、オレたちはどうする」
「夜明け迄はまだ時間があります。少しでも休んでおきましょう……生き残るために、そして、新しい世界の為に………………」
夜明けまで俺たちは少しでも眠ることにした。新世界の創造が始まって以来、俺たちは心底安心してぐっすり眠ったことはほとんどないだろう。それでも眠らなければならない、ほんの少しでも生存確率を上げるためには無理やりにでも休息を取らなければならないことを俺たちは無意識のうちに身につけていた――――――。
「――――やっと夜明けですわね」
「いつまでもあの爆音が聞こえているような気がして……、全然眠れなかったわ」
「萌衣もですぅ」
「みんな一緒さ……行こうぜ」
俺たちは身支度を整え外に出る。俺は警戒しながら辺りを見渡した――――――。
「――よし、誰もいないぜ」
「それじゃ、行くか」
「外に出る時のこの緊張感は相変わらず慣れないわね」
「適度の緊張感は必要ですよ、一瞬の隙が命取りになるやもしれません……それと木崎さん、これを………………有事の際には迷わずに使ってください」
「槍なんて持ったの初めてですが……やってみます!!」
「迷いは禁物……気を引き締めていきますわよ」
メタルパイプの槍もどきを琥珀は木崎さんに手渡す。少し感慨深そうに木崎さんは槍もどきを暫らく眺めていた………………。
まだ日も昇りきらない肌寒い明け方、俺たちは優馬の家の地下駐車場を目指す――――――。




