23 木崎邸
「――着きました、ここの裏です」
「こんな細い路地の裏に……?」
「恥ずかしながら、私の家でして………………」
「あっ、いや……すみません」
「いいんです、いいんです、気にしないで下さい、そのおかげで私はこうして生きながらえることが出来たんですから………………」
「確かにここなら悪い奴等に見つからないかもですぅ」
「こらこら、萌衣ちゃん!」
「いえいえ、いいんですよ……」
頭をポリポリと掻きながら、おっさんは苦笑する――――――。
「――狭い家ですがどうぞ」
路地裏のひどく狭い家に俺たちは了承を得て、いざという時の為に靴のまま室内へと入る。
「………………外観も中身もオンボロですねぇ」
「こらっ、萌衣ちゃんってば!」
「いいんです、いいんです、本当のことですから……」
確かに中もオンボロだ、飾りっ気のない室内で贅沢品など何もない。それどころか嗜好品の類は一切見当たらない、ただテーブルと最低限の家具、家電品があるだけのように思えた――。
「――さて、何もお構いできませんが、お茶くらいはありますので、どうぞ」
人の良さそうなおっさんは人数分のグラスにお茶を注ぎだした。
「水分だけは確保しておいたんですのね………………」
「ええ、こればっかりは生命線ですから………………」
そういわれるとなんだが申し訳なくて、お茶が飲みづらくなってしまった……。
「じゃあ、お返しにお菓子をあげます!」
「ほぅ、バタークッキーですか……懐かしいですね。よろしいのですか?」
「気にしなくていいでよぅ、みんなで仲良く食べましょう」
「……クッキーなんて久しぶりです、本当にありがとうございます」
萌衣の差し出したこのクッキーは、命がけで獲得した戦利品だ。秩序と混沌……殺し合いと平和な日常……急激に変わる環境とあまりの落差についさっきの命がけの戦闘がなんだか遠い過去のように感じられた――――――。
「――さてと………………。」
自分の両指を絡め、優馬は重々しくテーブルに肘をついた。
「何からお話しましょうか……といっても大した情報はありませんがね」
「知っていることを教えて下さい、私も知っていることはすべてお話しますから………………」
俺たちが今まで、如何にして生き残ってきたか……思い出したくない過去も含めて、優馬はこれまでの事をすべて話した――――――。
「――そうですか、皆さんも大変な目にあわれて来たんですねぇ、どこもかしこも……まるで地獄のようですねぇ………………」
「それはそうと、そちらの……えーっと………………」
「木崎です、木崎修一と申します」
「ありがとうございます、では、木崎さんの知っていることも教えてください」
「私も特別なことを知っているわけではありませんが、いろいろ調べまわっていたので君たちよりかは情報を持っているかも知れません……ですが、にわかには信じ難い話もありますので真意のほどは定かではありませんが………………」
「それでも結構ですから教えてください。今後、僕たちがどうするべきか、それも含めて参考にさせていただきます」
情報に対しての食いつき方が貪欲で、いかにも琥珀らしかった。
「わかりました、では何からお話しましょうかねぇ………………………………」
――ほんの暫くの沈黙がやけに重苦しい。
「……みなさんは『新世界の創造』や『神の啓示』、『ウェイクラム』とかはご存知ですか?」
「「「「「「――!?」」」」」」
驚きを隠せない様子でみんなが顔を見合わせた。
「……その様子ですと聞いたことはあるみたいですね」
「以前に聞いた事が何度もあります。特に『新世界の創造』とか『ウェイクラム』とかは浄化教会のラジオ放送で聞きました」
「あのラジオ放送を聞いたってことは、どこかこの辺に潜んでいたということですね……」
「そうです、僕たちはここから割と近い場所で数日過ごしていました」
「今迄よく御無事で……この言葉を信じて浄化教会に行こうとは考えなかったのですか?」
「それはさすがに………………」
「なるほど……賢明ですね、確かにみなさん賢そうな顔をしています」
「新世界の創造ってなんなんだよ? 一体、何がこの世界で起きているってんだよ!?」
「では、まずはそこからお話しましょうか………………」
勿体付けるように、木崎さんはゆっくりと話しをはじめた――――――。




