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A whole new world【第01巻】~プロローグ・破壊と創造篇~  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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22 浄化教会

「――さて、浄化教会の方々にお聞きしたい事があります……僕らは浄化教会のラジオ放送を聞きましたが、あれは一体なんですか?」

「………………あれは、信者獲得のためのプロパガンダだ」

「日々の糧を保障するともいっていましたが……」

「内部の事情は詳しくはおれたちにもわからない、古参の上級信者ならわかるかもしれないが『新世界の創造』現象が始まってからの信者たちはほとんど何も知らされていないはずだ」

「あなたたちも最近入ったばかりだと?」

「………………そうだ」

「わかる範囲で結構です、浄化教会はこの世界をどうするおつもりで?」

「そんな事はおれたちの知ったことじゃない、少なくともおれはただ、その日を生きるために入信しただけだからな………………」

「入信して幸せですか?」

「幸せ? そんなわけないだろうが、新参の信者は割り振られた仕事をしなければならないし『奴隷』たちほどではないが、劣悪な環境下にいるのは間違いない」

「ではラジオ放送はすべて嘘だと?」

「いや、あながち嘘でもなかった、一応は毎日一食は食わせてくれた………………」

「よくそんなに物資があるものだな、それだけ効率的に略奪をしているって事か………………」

 何気ない優馬の一言に、もう一方の信者が少し目線を落とし、驚愕すべき話をはじめる。

「………………多分、浄化教会の連中は信者に人肉を食わせている」

「――!? なんだとッ!?」

「確証はないが、少なくとも自分はそう考えている………………」

「その根拠はあるんですか……」

「自分たち物資調達係はとりあえず使えるもの、食えるもの、価値あるものはすべて回収しろと命じられている……」

「奴隷にするための人間たちもですね」

「そうだ、そして、その中には明らかに労働力にはならない老人や子供も含まれている……」

「………………だからといってそれがすぐにカニバリズムに直結するとは思えませんが?」

「……浄化教会にはそれぞれ部署があって、食料を加工する部署や機械等を改造する技術部、それに戦闘訓練をしている部署まである」

「大きな組織ですから、当然そうなるでしょうね」

「………………気づかないか? 今、食料を加工する部署があると言ったろ?」

「――まさか!?」

「そのまさかだ。おれたち物資調達部は、調達した物資をトラックで各部署に配送することも仕事のひとつだ、若くて美しい娘や子供達は教団の本部、機械製品は技術部、そして使えない老人たちやハンディキャップを背負った人間たちは食料加工部へと運ばされていたんだ」

「マジかよ、嘘だろ………………」

「本当だ、まず間違いない。おれは食料加工部に老人たちを毎日のように運んでいたが……、出てきた人間をまだひとりも見たことがない」

「………………浄化教会、やはり新興宗教なんて悪党たちの巣窟かよ」

「悪党なんてかわいいものじゃないですよぅ………………」

「そういうお前らこそどうなんだ、お前らは何も悪いことはしてないとでも言うつもりか……ここまでやっておいて………………」

「確かに他人のことは言えませんね……ですが、僕らは浄化教会よりかはマシだと思います」

「マシね……なるほど、みんなそうやって自分たちを正当化しているってことか」

 ――悔しいが俺たちは何も言い返せなかった………………。


「………………とにかく浄化教会は危険だ、それだけわかれば十分さ」

「言っておくがな、危険なのは浄化教会だけじゃないぜ」

「どういうことだ……?」

「お前ら今迄よく生き残ってこれたな、ついでだから教えといてやるよ」

「………………一応、聞こうか」

 冷静さの中にも秘めたる激情を感じさせ、優馬は信者の言を待っていた――。

「この地域は浄化教会だけじゃないぜ、軍人崩れの連中やヤクザ崩れの連中も地盤を固めてる、それに、十代の族だかギャングだか知らねえがイカレタ若造たちのグループもあるぜ」

「……にわかには信じらんねぇよ」

「本当だ……、どの勢力も我先にと好き勝手やってるぜ」

「………………勢力は幾つあるんです?」

「詳しくはおれも知らないが、お前らみたいな小さいグループも含めたら数えきれないくらいあるだろうな……今のところ、最も大きな組織は浄化教会に軍人崩れにヤクザ崩れ、それから若造たちの愚連隊どもの四つがメインだろう」

「陸……きっとこの話は本当だ。若造たちの愚連隊ってヤツをオレは何度か見ている、下手をしたら過去に遭遇していたかもしれないぞ………………」

 新世界の創造現象が始まってからの過去の暗澹とした経験が蘇る……女の首を荷台に乗せ、バイクで暴走する連中、老人も情け容赦なく殺める連中に俺たちは確かに遭遇していた――。

「他にも聞きたい事は山積しているが、あまり目立つ場所で長居はしたくないのでな……解放してやる……何処へでも好きな所へ行け………………」

「へへへ、恩に着るぜ……、ありがとよ」

 背を向けさせたまま、優馬は信者たちを立ち上がらせ、解放を約束する――。意外にも一言礼をいうと、白装束を脱ぎ捨て身軽になった信者たちはショッピングモールの外へと向かって走り出した――――――。

「……いいのかよ? 優馬」

「あぁ………………」

 ただ一言、優馬は呟いただけだった――――――。


「――さて、トラックの中の人たちも解放してあげましょうか」

「そうね、このまま閉じ込めておくわけにもいかないわよね……」

 疑問も当然感じたが、見捨てるわけにもいかない。俺たちは『奴隷』たちの荷台を開けた。一部を除いてみんな一様にして俺たちに礼を言ってくる、でも俺は特別にこいつらを助けようとしていたわけじゃない……なんだか例えようもない複雑な気分だった――――――。

「――集団でここにいると目立ち過ぎますので、みなさん適当に解散してください」

 琥珀の声と共に、みんな思い思いに散っていく……、こんな世界でもみんなそれぞれ帰る家でもあるのだろうかと不思議に思いながら、俺たちも人目のつかない場所へ移動しようとしたちょうどその時、ひとりの男が話かけてきた――。

「あの……、先ほど浄化教会の信者たちと何かお話をされておりましたよね? 詳しく内容を教えていただけませんか?」

 妙に丁寧な口調でその男は訊ねてくる。一見、穏やかな佇まいとは逆に、その男は鬼気迫る目で訴えかけてきた。

「……それは構いませんが、ここを早く離れたいので移動してからでよろしければ」

「それもそうですね、なら目立たなくていい場所が近くにあります、そこへ行きましょう」

「………………おい、優馬、こんなおっさん信じてもいいのかよ」

「陸、声がデカい、聞こえているぞ……」

「はははっ、おっさんですか……まぁそういう歳ですから仕方がないですが………………」

 明らかに落ち込んだ様子だったが、そういっておっさんは笑った。悪い人ではなさそうだ。

「まぁ、悪い人ではなさそうですから、そこまでお供いたしますが……もし妙な真似をしたら容赦はしませんよ」

「ええ、いつでも殺してくださって結構ですよ、君たちのような子供を貶める様なまねを私は絶対にしませんから、ご安心ください」

「………………わかりました、早くここを離れたいですし……、いきましょう」

 なんだか妙なおっさんに出会ってしまった。独特の穏やかな佇まいに加え、どういうわけか憎めない空気を醸し出すこのおっさんに連れられ、俺たちは移動を開始した――――――。

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