21 ショッピングモールⅤ
「生きてる………………勝ったのか、俺たちは………………?」
「そうです、僕らの勝ちです!」
「そうか………………勝ったのか………………」
「陸ちゃん、貴方のおかげですわよ、本当にありがとう……」
「陸先輩、大丈夫ですか? ……陸先輩? 陸先輩!? 先輩、瞳が……どうしたんですか!?」
「――瞳? 別にどうもしねえけど……」
「陸先輩の瞳に……文字? 人間の目って……こんな事………………」
「どうかしましたか、萌衣さん?」
「い、いえ、なんでもないです………………」
どういう訳か萌衣は怯えた瞳でジ~っと、俺の顔を凝視している。元々、変わった娘だから特に何とも思わなかったが、今回ばかりは異様なまでに俺の事を不思議そうに見つめていた。
「これ以上抵抗はするな、不審な動きさえしなければ殺しはしない……まず武器を捨てろ」
優馬にいわれるがまま信者たちは武器を投げ捨てる。そして続けて、丁寧な口調ではあるが、語気を荒くして琥珀が次の指示を出す。
「――両手を頭の上に乗せてください。そして、そのまま動かないでください」
「詩織里ちゃん、銃を下ろして……もういいんですのよ。詩織里ちゃん、銃を………………」
半ば放心状態のような詩織里は、そういわれると震えたまま銃を下ろす……焦点の合わない目をしたまま、詩織里は琥珀に銃を手渡した――。
「まずはトラックの荷台の鍵を開けていただきましょうか」
「お、おれたちは鍵を持っていない、お前等が殺した仲間の誰かがまとめて持ってる」
「………………みなさん、鍵を探してください」
琥珀にそういわれ俺たちは倒した信者たちの死体をまさぐり、鍵を探す。死体から鍵を物色するなんて事に慣れているハズなどないのに、妙に冷静に萌衣は死体を弄繰りまわす……萌衣は物を探すのが得意なのだろうか……探し物はなぜかいつも萌衣が見つけてくれる。
「お手柄です、萌衣さん……さて、食料が入っている荷台の鍵はどれですか?」
「それはおれたちにもわからない、鍵の管理はリーダーの運転手がやっていたから……」
「琥珀、めんどくせえから、一個ずつ鍵を挿していこうぜ」
「……そうですね、その方が早そうです」
俺たちはトラックの荷台の鍵を順次、開けていこうと行動を起こしたその時だった。荷台に積みこまれた『奴隷』たちが我先にと、助けろ助けろと再び騒ぎ始めたのだ――。
「あんたたちは自分のことしか考えていないのかよ! お前らのせいで、俺たちは……」
「陸さん、無駄です………………」
――!? 何を思ったか、琥珀は荷台の『奴隷』たちに銃を向けた。
「これ以上騒いだら撃ちます……本気ですよ」
「うるせぇ、とっと開けろよ!!」
完全に冷静さを失った『奴隷』たちのひとりがまるで狂気を帯び、騒ぎ続けていた。刹那、琥珀がその『奴隷』目がけて発砲する!!
「言ったはずです、これ以上騒いだら撃つと………………」
そのあまりの気迫に押されてか『奴隷』たちは叱られた子犬のように急に大人しくなった。
「おい! 琥珀!! やりすぎだぞ!!」
「ご心配なく陸さん、単なる威嚇ですから……」
撃たれた『奴隷』の方をみやると、琥珀の放った弾丸の餌食になった者は誰もいなかった。
「落ち着け、陸……あんまり騒がれるとヤバいだろ? 琥珀君はいつも冷静だ、心配するな。この場合はオレでもそうしていたさ…………とにかく急ごう、モタモタしている場合じゃない、とりあえず物資が入っていそうな荷台からあたってくれ」
つい先ほどまで、俺たちは命のやり取りをしていた……その事実が嘘のように感じられる。心臓の鼓動はいまだ治まらないが、冷静さを取り戻した俺たちは順次、作業に取り掛る――。 そして作業に支障が出ないように『奴隷』たちに睨みを効かせ、優馬は少しずつ荷台の『奴隷』たちを落ち着かせていた――。
「彼らの解放は最後にしよう、パニックで何をしでかすかわかったものではないからな」
「優馬も常に冷静だな………………萌衣、鍵開いたか?」
「――開きましたぁ」
「良し……詩織里、萌衣、中に入ってくれ」
「了解ですぅ、詩織里先輩、足元に気を付けてくださいね」
「ありがとう、萌衣ちゃん」
俺は詩織里たちを先にトラックの中へと押し込む――――――。
「………………思っていたほどではないわね」
「何もないよりはマシさ、何か食い物は?」
「奴等も考えることは一緒ね、缶詰やカップ麺……あとはレトルト食品があるわ」
「オッケー、じゃあ詩織里と萌衣で食い物を入るだけバッグに詰め込んでくれ」
「……そうするわ、萌衣ちゃん、少しならお菓子もあったわよ」
「萌衣、クッキー大好きですぅ」
「そう、よかったわね………………」
「それじゃ、ここはお前らに任すよ。向こうのトラックの荷台の鍵も開けておくから、適当に向こうも何かないか探しておいてくれ」
「わかったわ、まかせて………………」
詩織里の返事を聞いた後、琥珀と別トラックの荷台の鍵を開け、俺は優馬と合流した――。
「――陸、そっちはどうだ」
「一応、食べる物は少しだけどあったぜ」
「……そうか、なら良かったよ」
アーチェリーを小脇に抱え、優馬は鋭い目つきのまま、大きく息を吐いた――――――。




