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A whole new world【第01巻】~プロローグ・破壊と創造篇~  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
18/41

18 ショッピングモールⅡ

「――しかし、本当にやりたい放題だな、特に高級ブランド店の荒らされ方がひでぇ……もうこの新世界に今更ブランド品なんて何の価値もないのに………………」

「旧世界の価値観から脱却できない人もたくさんいるのでしょう」

「高級ブランド店もそうだが、食料品店もひどいな、これが人間の本質なのかもな……」

「哲学的な話はどうでもいいさ、とにかくめぼしい物と何か食いモノを探そうぜ、もし今日、何もみつからなかったら、明日、食うモノもないのが現状なんだからな……」

「今のあたしたちには本当に余裕がないのね」

「希望を捨てずに前へ進みましょう……あっ!? 陸さん、あそこに寄ってもらっていいですか」

「ん? いいけど……DIY?」

「はい、工具とか日曜大工とかのお店です」

「そんなモノ何に使うんだよ?」

「まぁ、色々と………………」

「琥珀くんには何か考えがあるんだよ、陸、いいから行こうぜ」

「琥珀ちゃんは機械とか化学とか難しいことが大好きですわよね」

「難しいことが好きってわけではないですよ、役に立つものがありそうな気がするだけです」

「わかったよ、さっさと行こうぜ」

 確かに知恵と経験、技術さえ伴なえば工具の類は魔改造して何にでも使えそうではあるが、いかんせん、これといって知恵もなければ経験もない……特に機械類に関しても無知な俺には工具店にめぼしいものがあるのかどうかさえピンと来ない状態だった。


「――ここも意外と荒らされているな」

「やはり考えることはみんな一緒ってことですね」

「一緒って?」

「やっぱりそれなりに強力な武器が欲しかったって事さ」

「定番なところだと釘打ち機とかはまっ先にみんなが考えるでしょうね」

「なるほど……、飛び道具は確かに強力だもんな」

「日本では銃火器はなかなか手に入りづらいですから、尚更です」

「ということは釘打ち機は望み薄だな」

「他の何かを探しましょう」

「他の何かって言われても……肉弾戦で使うような刃物類くらいしかもう残ってないぜ」

「やはりどこもかしこも、略奪が横行していたようですね……」

「琥珀君、こんなのはどうかしら? 武器にはならないけど生き残るためには役立ちそうよ」

「詩織里さん、お手柄です、そういうの欲しかったんです」

「バーナー?」

「はい、しかもガソリンが使えるやつです」

「ガソリンバーナーか、ガソリンは確保したばかりだからタイミング的にはお宝かもな」

「お宝かぁ?」

「陸ちゃん、ガソリンは確保してますから、きっと何かに使えますわよ」

「まぁ、なんでもいいですけど……他に何かねえかな」

「チェーンソーとかあれば非常によろしいですわね」

「……姉さん、怖すぎます」

「何か適当な物があったら各自持って行けばいいさ」

「とはいえ、欲しいものっていうのは、なかなかね………………」

「時間はまだあるわ、探索していないお店もあちこちにあるから、ゆっくり探しましょう」

 ガラス窓から外のショッピングモールを見渡す詩織里はどこか、覇気のない目をしている。俺は、今日の詩織里は詩織里らしくないなと感じていた……。次は必ず何かいいものがあるさ、といってやりたかったが、それもなんかお門違いな気がして、口下手な俺は何もいわずにただ黙って店の外に出た。探索はまだ続けなければならない、こんな所で落ち込んでなんかはいられない。俺たちは僅かずつ膨らみ始める焦燥感の中、次のポイントへと歩き出す――――――。


「――!? なんだ!?」

「どうした優馬!?」

「みんな静かにしろ………………」

「どうなさったんですの、優馬ちゃん?」

「桜華さん……お静かに」

「マジでどうしたんだよ、優馬?」

「みんな、身を低くして、ゆっくり下の連中を観てみろ……」

 俺たちは言われた通り身を低くし、モールの階下をおそるおそる覗き込む――。

「……? なにかしら?」

「おそらく……浄化教会ですね」

「浄化教会って、あのラジオ放送の連中か………………」

「以前にオレは同じような光景を見たことがある、このことは確か前に話したと思うがな」

「……ってことはあいつらもこの辺を荒らしまわっているってことか」

「それだけじゃないぞ、一番後ろのトラックの荷台をよく観てみろ」

「……例によって捕まった人間たちでしょうかね?」

「おそらくはな………………」

「どうするよ、優馬」

「陸、下手に動くなよ」

「このまま静かにやり過ごすのが賢明でしょう」

「あの人たちを助けなくていいのかよ?」

「陸、助けるってなんだよ……オレたちが彼等を助ける義務なんてない」

「陸さん、残念ですが、今の僕たちには彼等を助けることなんて出来ません……自分たちの事だけで精一杯なんです………………」

「陸、一番手前の信者の手元をよく観てみろ」

「一番手前のって……!? 銃!?」

「どうやって手に入れたかは知らないが……間違いない」

「どうして銃なんか………………」

「おそらく警察官から奪った物でしょう」

「わかったか、戦力的にもオレたちは圧倒的に不利だ、それに助けてやる義理もない」

「わかってるよ………………」

「陸さん、残念ですが……これが現実です」

 確かに彼等を助けてやる義理もなければ義務もない……そんなことは当然にわかっている、ただ自分の無力さに憤りを俺は感じていただけだった――――――。


「しかし、トラック三台に武装信者が六人か……、意外と組織的に動いてるみたいだな」

「効率的に物資を掻き集めているみたいですね」

「奴隷もな………………」

「……このままやり過ごすのはいいけどよ、あいつら何時になったらここを動くんだよ」

「下手に動くと気付かれます、陸さん、しばらくの辛抱です」

「――!? 優馬、あれ……優馬なら見えるでしょ?」

「なんだ……子供? ……か?」

「子供だけは別車両で移動……?」

「優馬先輩!? また白装束の連中が……」

「さらに三人……合計九人か………………」

「見つかったら勝ち目はないわね」

「おい、優馬……、子供の奴隷が追加みたいだぜ」

 メタルパイプの槍を握りしめ、俺は顎で後から合流した白装束の三人組を指し示した――。


「――妹を返せッ!!」

 そう叫ぶ少年の抵抗も虚しく、あっさりと少年の妹と思しき少女は、長い髪を掴まれたまま引きずられ、連れ去られていく。

「お兄ちゃん! お兄ちゃんッ!!」

 妹と思われる少女は次の瞬間には声をなくしていた。子供相手にも容赦なく大人の前蹴りが少女の腹にめり込む……非力な少女に抵抗する術などない。

「おめぇも少し大人しくしてろ!」

 そう白装束の男が叫んだ次の瞬間、少年は大人三人がかりで袋叩きにあっていた……そして辺りは再び静けさを取り戻す――――――。

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