17 ショッピングモールⅠ
「――う~ん、この辺のことは優馬にまかせるしかねえなぁ」
「そうね、このあたりに詳しいのは優馬だけだものね」
「優馬さん、安全に食料を確保できそうな所はありますか」
「安全にって……そんな所あるわけないだろ」
「ですわよね………………」
「でも、いくつか心当たりはある……だが、はたして食料が残っているかどうか」
「でも、俺たちに残された食いモノはあと僅かなんだぜ、迷ってなんかいられない」
「………………オレたちには選択肢なんてなかったな」
「楽しくいきましょうよぅ、萌衣お菓子がたくさん欲しいですぅ」
「そうですね、お菓子が沢山あるといいですね、萌衣さん」
「いっぱいあったら琥珀くんにも分けてあげるね」
「ありがとうございます……」
「……深く考えるのがバカらしくなってきたよ、そうだな、明るく楽しくいこう」
「優馬、行くのはいいけどさ、具体的にはどうするんだよ」
「大丈夫だ、考えてはある」
「なにか良いアイデアでもおありですの?」
「……まぁ、アイデアってほどではないですがね」
「じゃあ、早速これから行こうぜ!」
「待ってください、陸さん……みんなで慎重に行きましょう」
「琥珀は慎重すぎるんだよ、善は急げだぜ」
「たしかにそうですが、陸さん、そのまま手ぶらで行くおつもりですか?」
「陸、戦利品を詰めるバッグくらいは持って行きましょうね~」
「そ、それくらいわかってるよ!」
「それと、みなさん……きちんと武装もしていってください。外に出たらもう……お遊びではありませんから……本当に危険です………………」
「……あぁ、解かっているさ」
力強く拳を握りしめ、優馬は涼しげに言葉を発する……しかし、優馬のその物静かな佇まいからは想像もつかないほどの熱い、何か決意じみたものを俺は感じた。
こんな世界に堕ちてしまってからも、ここ数日はそれなりに穏やかに過ごせていたほうなのだろう。それが原因なのかどうかは定かではないが、俺たちはこの新世界ではあまりにも簡単に人が死ぬという事、今や人の命などは、テレビに出演している文化人気取りのタレントが発する言葉よりもさらに軽いものなのかもしれないという事を俺たちは忘れかけていた――――。
「――武装……武装か………………」
「はい、いざという時は迷いを捨てて下さい。特に陸さん、あなたが死ぬという事はみんなの死ぬ可能性が急激に高まるという事です」
「陸、今のあたしたちの中で戦える男は貴重よ」
「戦える男……ね」
「陸、オレたち男は体を張って女たちの前に出るしかないぞ」
「わかってるよ………………」
殺らなきゃ殺られる。そんな緊張感漂う空気が今までとは一転して、あたりを覆い始める。
「……上に戻ってバッグと武器を取って来る、オレは車に積んだ弓を持って行くからみんなは何か他の武器を頼む」
「琥珀が作ってくれた槍と薙刀と……あと、なんだっけ? マチェットとかいうやつか」
「薙刀はわたくしにお任せくださいまし」
「それでは、各々が得意な武装でいきましょう。萌衣さんと詩織里さんは申し訳ありませんが荷物持ちをお願いします」
「わかったわ、残念だけどあたしたちじゃ戦力にはならないものね」
「萌衣がんばって荷物持ちます!」
「準備を整えて、慎重に焦らずにゆっくり行こうぜ」
「なんだか陸さんらしくない発言ですが同感です、慎重且つ、冷静にいきましょう」
――必要な荷物を上から運び込み、俺たちは気休め程度の武装をし、出来得る準備をすべて整えて出発することにした――――――。
「――で? 優馬ちゃん、まずはどちらに行かれますの?」
「……ショッピングモールに行こうかと考えています」
「ショッピングモールですって!?」
「正気かよ!? ぜってぇ何にもねぇだろ!!」
「しかも危険じゃないかしら………………」
「そうかも知れないけど、行って見る価値は十分あると思うがな」
「確かに行ってみる価値はあるかもしれませんが、何が起こるかわかりませんよ」
「どう考えてもショッピングモールなんて荒らされた後に決まってるぜ」
「そんな事はオレだってわかってはいるさ」
「それでも行くんですの?」
「はい………………」
「……わかりました、優馬さんがそこまで言うのでしたら行きましょう」
危険なエリアだが、なんにせよ、今の俺たちに選択肢はない………………。
「――結構歩いたな、去年に優馬と来た時はもっとすげー近いと思ったけど」
「去年は桜専学園から電車で直で来たからさ、歩きだとさすがにな……」
「しかし、こうも変わっちまうかね」
「もういい加減に慣れろよ、予想はしていたはずだろ」
「まぁわかってはいたけどさ……」
「あの……おふたり共、そろそろ静かに………………」
「……わかってるよ琥珀、みんな、辺りを警戒しながら探索を始めようぜ」
「くれぐれも個人的な行動は控えてください、特に萌衣さん」
「かしこまりー、ってなんだけ萌衣だけ!」
「萌衣ちゃん、お手てつないでいきましょう」
「きゃー、詩織里先輩ラブです!」
「おまえら、あんまり騒ぐなよ………………」
「わかってるわよ、慎重に行きましょう」
「とりあえずオレと陸と桜華さんは前へ、琥珀君と詩織里たちは後方へ」
「後ろは僕が警戒しながらついていきます……さぁ、行きましょう」
弥が上にも高まる期待と緊張感だった。お宝に遭遇できる可能性が低そうなことは承知の上だったが俺たちはショッピングモールに入り、周囲に散乱する、さすがにもう見慣れた死体をよそにモール内の探索を開始した――――――。




