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A whole new world【第01巻】~プロローグ・破壊と創造篇~  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
14/41

14 探索

「――――さてと、陸……いつから動く?」

「いつからでもいいけど、善は急げっていうし、真っ暗になる前に早速動こうぜ」

「わかった、じゃあオレと陸は下に行ってラジオを探してくる」

「それなら、わたくしも行きますわ、薙刀さえあれば戦力になれますわよ!」

 いうだけあって急ごしらえのメタルパイプ薙刀にもかかわらず、薙刀を構えた桜華さんは、気高く凛々しくサマになっていた――。


「姉さん、狭い室内で薙刀は使えませんよ」

「探し物くらい俺たちふたりで大丈夫ですよ。優馬、いこうぜ」

「じゃあ、僕たちは十五階までを軽く荒らして演出をしてきます」

「わかった、じゃあ二手に分かれよう、もし何かあったらすぐに大きな声を出せよな」

「わかりました、どうかお気をつけて……」

「………………琥珀もな」

 こうして俺たちはチームを二手に分け、階下に降りていく――――――。


「――八階から順に探していこうぜ」

「ドアの鍵も開いているし、楽に入れるな……陸、室内とはいえ一応は用心しろよ…………」

「わかってるよ……で? どこから探す?」

「入口に遠い方から順に探していこう」

「了解っと……」

 こうして俺たちはラジオ、電池、他に何かめぼしい物を探していく……慣れというのは怖いもので、俺はもう『宝探し』に罪悪感をほとんど感じなくなっていた。

「ラッキー!! いきなりラジオ発見!!」

「随分とあっさり見つかったな」

「まあラジオなんて特別珍しい物でもないし、あっても不思議じゃないだろ」

「確かにそうだが、ちょっと拍子抜けだな」

「いいじゃないの、優馬はもうちょっと楽観的に生きた方がいいと思うぜ」

「参考にさせてもらうよ………………」

 参考にする気など毛頭ない口ぶりだ、優馬が楽観的になれるはずがない事もわかってはいる。

「よっしゃ……、あとは電池だな」

「まだ下の階もある、じっくり探すぞ……」

「なあ、優馬……気付いたんだけど、下に行けば行くほど荒れ方が酷い気がする」

「当然、そうだろうな」

「手近な所からってことか……みんなやりたい放題だな」

「下の階は、特に一階は危険だからな、お目当ての物が見つかった場合はスルーしよう」

「正解だな、何とかして早いところ見つけたいもんだぜ」

 さらに俺たちは階下に降り、三階のフロアの探索を始める。八階から同じことを淡々と繰り返し、ひたすら電池を探し求めた――――――。


「優馬……俺たちは本当にツいてるぜ」

「ああ、大量に確保だな」

 幸運にも俺たちが入ったこの部屋には、モデルガンやレプリカの軍服、そして、サバイバル用品などが所狭しと詰め込まれていた――。 


「キャンプとかサバイバルゲームのマニアなのかな?」

「いわゆる軍事ヲタクとかそんなのだろうな」

「なんかすげぇナイフ? 鉈? みたいな物があるぜ! これって銃刀法違反だろうな」

「もうこの世界に法律なんて一切、意味を持たない……それも持っていこう」

「優馬、電池もいっぱいあったぜ、あと、なんかごついラジオも発見!」

「いいぞ、陸!! 全部持っていこう、各階で見つけた電池とここの大量の電池とを合わせればかなりの量だ、電池はもう十分だろう」

「オッケー、じゃあ早く上にあがろうぜ!」

 こうして俺たちは必要なものを確保し、十五階まで小走りで駆け上がっていく。この世界がどれだけ過酷な世界かをまだ知らなかったこの時は、俺は心のどこかで果てしない自由を得たような、そんな解放感に酔っていたのかもしれなかった――――――。


「――ふう、しんどい、さすがに十五階まで階段はきついな」

「おかえりです、陸先輩」

「萌衣、ただいま! 電池たくさんあったぜ! あと、これも……」

「ラジオもゲットですね! しかもふたつも!」

「さすが陸さんですね、僕らの方もカモフラージュの方はやっておきました。それといくつか収穫もありましたよ。缶詰にインスタント食品、それに電池式のランプに蝋燭もありますよ」

「すげえな! とりあえず、リビングに全部ひとまとめにしちゃおうぜ」

 獲得した戦利品を全てリビングに集め、一か所にまとめる。分け前を分配する海賊ってのはこんな気分なのかな、などとくだらないことを俺は想像していた。

「これだけあれば、しばらくは籠城出来るかしら……とりあえずは落ち着いた感じよね」

「ラジオに電池入れておこうぜ、二台あるから一台は誰か頼む」

「了解です~先輩!」

 俺と萌衣は二台のラジオにそれぞれ電池を入れた――――――。


「――何にも聞こえてこないですねぇ」

「いろいろな周波数をさがして気長にやろうぜ」

「陸さんと優馬さんのおかげで電池はたくさんありますから、ラジオでの情報は常にチェックして探していきましょう……僕はまだ槍の製作が終わっていないのでこれからやっちゃいます」

「そうだ!? 槍で思い出した、すげえの見つけたぜ!!」

 そういって俺は三階で見つけた大きな刃物を取り出し、見せびらかす――。


「これは……ウォーマチェットですね、随分と凶悪な物がありましたね」

「なんか三階の一室がこういった物ばっかりだったからな、一つ拝借してきたんだ」

「それはいい情報です、後で使えそうなものは全部こっちに運び込みましょう」

「了解、この建物内にあって使えそうな物はすべて集めていこうぜ」

「そうですね、今の僕たちには少し時間の猶予が出来ましたから、僅かでも確実に地盤を固めていくのもいいかもしれません」

「なんか、少しだけほっとしたわ……」

「今夜はぐっすり眠っていいぜ、詩織里」

「ありがとう、陸………………」

 たった一日、まともな休養を取れなかっただけで人間はこんなにも参ってしまうものなのか、俺に対する態度らしくもなく詩織里はやけに素直だった――。


「すみませんが優馬さん、そろそろ暗くなってきましたからカーテンを閉めていただけますか、内部の光が外に漏れるのだけは絶対に避けたいですから」

「確かにそうだな、この場所だけは誰にも見つかるわけにはいかない」

「助けを求めて誰かが来るか、それとも俺たちを殺しに敵が来るか………………」

「どちらにしても僕たちに出来ることは限られています。残念ですが……今は自分たちのことだけで精一杯です」

「ああ、わかってるさ………………」

 外の景色を儚げな顔で見つめ、優馬は静かにカーテンを閉めた――――――。


「今日はみなさん早めに休みましょう、僕も細かい作業を終わらせたら休ませていただきます」

「夜はちゃんと休んだ方が電池の節約にもなりそうよね」

「女の子はお肌のためにも早寝早起きは絶対ですわよ!」

「姉さん……、確かにお肌の為にもよさそうですが、明日からもまだまだやることは山積しておりますので、なるべく体力は温存しておいてくださいね」

「やることってなんだよ?」

「必要な荷物の運び入れや、それと周辺状況の観察もしたいです」

「荷物の運び入れなら今からでもできるぜ」

「この暗闇の中どうやってやるんだ……、陸」

「そんなの懐中電灯持って……あっ!」

「そういうことです、陸さん……」

「そうか、目立ちすぎるな……すげー危険かも」

「そうです、リスクが高すぎます。ですから明日の夜明けから、明るくなってから静かにやるのが得策かと思います」

「なるほどな……、了解だ」

「それと周辺状況の観察も大事ですよ、双眼鏡や望遠鏡などがあれば遠方も見渡せますから、特に屋上からなら全周囲を見渡せます、今後の行動の判断材料が得られるかもしれません」

「なるほどね、双眼鏡か……じゃあ早速、明日にでも俺と優馬で建物内部をさがしてくるよ」

「すみません、よろしくお願いします。それと、女性陣にお願いなんですが……、明日からで構わないので、様々な周波数帯でラジオからの情報を常にチェックしていて欲しいんです」

「わかったわ、やるしかないものね」

「じゃあ萌衣と詩織里先輩でがんばります!」

「お二人とも、すみませんがお願いします。食料が尽きるまでにそれなりの情報や判断材料が得られればいいんですが……まあ数日はかかるでしょうね」

「数日は地味な作業が続きそうですわね………………」

「すみません……みなさん、しばらく我慢してください」

「謝ることはないさ、琥珀君は間違っていないと思うよ」

「むやみやたらに動き回るよりは、この方があたしもいいと思うわよ」

「萌衣もそう思いますぅ」

「本当にありがとうございます……さて、今日は早めに休んで明日に備えましょうか、そして全員でこの世界で生き残りましょう………………」

 琥珀の瞳は、とてもの子供の瞳とは思えない力強さを感じさせる。そして同時にいつも思う、琥珀は常に、俺には観えない何かを観ているような……もしくは、特別な人間にしか見えない何かが見えているような、そんな清廉な瞳をしていると――――――。


「じゃあ、女子はそっちの部屋を使ってくれ、オレたち男はこっちの部屋を使う」

「萌衣は陸先輩と同じ部屋でもいいですよぅ」

「ゆっくり眠れないから、萌衣はそっちの部屋で寝てくれ………………」

「……陸先輩のいけず~」

 こうしてこの日は早めに休むことにした。そして明朝から数日の間、俺たちは地味な作業を繰り返していく――――――。


 役に立ちそうな物は全て十五階の部屋まで運び込み、目の良い優馬は三階で見つけた双眼鏡を持って屋上で常に周囲を観察し、詩織里や萌衣は恒常的にラジオ放送を何とか受信しようと努めていた。みんな、少しずつ食料の備蓄が減っていく焦燥感に苛まれながらも出来ることを精一杯やっていた……ただ生き残るために――――――。

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