12 室内会議Ⅰ
「………………誰もいないか」
「ご両親はどうしたのかしら?」
「うちの両親は共働きだからな、仕事に出てから帰っていないという事さ………………」
「……無事だといいわね」
「そう願うよ………………」
――バッグをテーブルの上へと置き、優馬は近くの椅子に腰をおろす。それに倣い、俺たちもバッグをテーブルの上へ置き、そして、適当なところに落ち着いた。
「ここは全く荒らされていないけど、この先も大丈夫かしら」
「絶対に安全なんて事はいえないさ、本当に何があるかわからないからな」
「そう……じゃあ、今夜も安心して眠れないのかしらね」
「大丈夫ですよぅ、詩織里先輩! 萌衣がついてますッ!! はい、どうぞ先輩!! お菓子でも食べて元気出しましょう!!」
「そうね……萌衣ちゃんの言うとおりね」
「マジでちょっと腹減ったし、みんなで何か食べないか?」
「そうだな、まともに食事もとってないしな、何か食べるとしようか……え~と、そちらのお二人も一緒にどうぞ」
「申し訳ありませんですわ……本当にありがとうございます」
「……そういえば、まだお名前を伺っていませんでしたね」
「あっ!? すみません、申し遅れましたわ、わたくしは紋帝院桜華と申します」
「僕は、弟の紋帝院琥珀といいます、よろしくお願いいたします」
「紋帝院だって!? ひょっとして、あの紋帝院グループの?」
「………………奇妙な偶然もあったものね」
「なんだってそんな二人がこんなところに………………」
「残念ながら僕たちの家は地元の人たちから随分と疎まれていたようで……混乱の夜に一斉に襲撃されてしまったんです」
「きっとわたくしたちの家には金目の物があるとでも思ったのですわね、家の美術品や骨董品、貴金属の類はすべて盗まれてしまいましたわ」
「まぁ、あれだけ目立つ家でしたから……仕方がありません」
「でも、命があっただけでも良かったじゃんか」
「助かったのは僕等ふたりだけですけどね……父と母は目の前で殺されました………………」
「……なんか、ごめん」
「いえ、気を遣わないでください………………」
「……みんな元気出してください! はい、お菓子を食べましょう!!」
「萌衣が早く食いたいだけだろ」
「違いますよ~、陸先輩」
「萌衣ちゃんの意見に賛成よ、お菓子でも食べながら明るい未来の話をしましょう」
詩織里はそういうとお菓子の包装紙を丁寧に破き始めた。
「そうだな、希望を捨てずに明るい未来の話をしようか………………」
「……みなさん、ありがとうございます」
紋帝院の兄弟はそういって萌衣の手渡したお菓子を申し訳なさそうに受け取った……たぶん、このふたりはこんなものを普段は口にしないのだろう。しかし、嫌な顔一つせずにいてくれるふたりの人間性を俺は少し嫌味にも感じたが、しかし同時に憧れに近い複雑な感情も覚えた。
「お菓子もいいが、これからどうするか………………」
「これだけの食料があるんだから、数日は安心していいわよね?」
「問題はその後だな」
「また、食べ物を探して冒険かよ……」
「そうなる前に計画的に行動したいものだがな」
「食べ物の問題だけじゃないですよぅ、先輩」
「そうね、他にも身の安全も確保していかなければならないわよね」
「それもそうだが今、世界で何が起きてるのかも知りたいしな」
「情報収集も課題のひとつか……こんなもん俺たちだけでどうにかなるとはとても思えないぜ、神の啓示とかさ……まったくわけがわからないぜ」
「そうは言っても現状は把握したいわよね」
「そりゃ俺だってそうだけどさ………………」
「あの、すみません……一言いいでしょうか………………」
「ん? どうしたの紋帝院さん、何かあるのかしら?」
「琥珀でいいです、紋帝院は二人いますから面倒ですし、皆さんも琥珀って呼んでください」
「じゃあ、わたくしも桜華でよろしいですわよ」
「そう、ありがと……じゃあ琥珀くん、何か良い案でもあるのかしら」
「案ってほどのものではないですが、ここは安全そうですから、しばらくはここを拠点にして行動したいと思いまして………………」
「安全かどうかなんてわからないぜ」
「確かに保障はありませんが、比較的安全だと思われます」
「は? なんでだよ?」
「はい、あくまで僕個人の見解ですが……まず同じような高層マンションが周りにあって特別目立つ建物ではない事と、エレベーターが止まっているのがラッキーだったと思います」
「エレベーターがないと萌衣つらいですけど?」
「皆、同じはずですよ。ですから階段で十五階まで上がってこようとはまずしないはずです、それに最上階じゃないところもいい感じです、どういうわけか最上階にみんな行きたがりますからね、最上階に拠点を構えるのは避けるべきです」
「なるほどな、利発そうな少年だとは思ったが、本当に頭がいいようだな」
「いえ、そんな……たいしたことは何も」
「うちの琥珀ちゃんは天才少年ですのよ、わたくしの自慢の弟ですわ」
「……でも、まだ十分ではありません。僕たちがここまであがってくる時に確認したのですが、八階までは荒らされた形跡がありました。九階から上はわりと綺麗に残っていたので、単純に考えて最上階を除いて九階から上はあまり荒らされていないと思われます」
「……だからなんなんだよ?」
「はい、ですから念のためカモフラージュでこの十五階までは荒らされたように演出したほうが多少安全度は増すかも知れません、気休め程度ですが……」
「この建物は荒らされて、もう何もないですよって演出ね」
「そうです、さらに十五階から上の十八階までは綺麗に残しておきましょう」
「それはどうしてですの?」
「あえて、気を引くために餌を残しておくんです、もし敵がここまで上がってきた時に十五階から上の餌に食いついてもらったほうが安全かもしれませんので」
「……他に代案がない以上は君の意見に従うしかないな、そうしよう。君のような人が仲間にいてくれて助かるよ、これからもよろしく頼む」
「あらためてよろしくお願いします。姉さんが信じた人たちですから、僕も信用してます」
「サンキュ、よろしくな琥珀! 俺のことは陸でいいぜ」
「はい、陸さん、よろしくお願いします」
琥珀はそういうと丁寧に頭をさげる。ずっと恐縮しっぱなしで見ていて少し滑稽だった――――――。




