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case5-1.騎士団は体育会系





 正式に第3騎士団に配属された私は、騎士団の宿舎で、規則正しい生活を送っていた。

いや体育会系並のシビアな生活を送っていた。



 宿舎は詰所の裏にあり、男子と女子で分かれている。男子は人数が多いため4人1部屋、女子は2人1部屋。


 女子は私が入団したことにより奇数人数になったため、最初私が1人で部屋を使えばいいと言われた。きっと侯爵家出身ということも考慮されたのだろう。でも私は拒否した。



「こういうのは先輩が優先されるべきだわ。私は新人らしく2人で使わせていただきます。」


「おや、元は侯爵家で優雅な暮らしをしていたご令嬢が大丈夫ですか?」


「こう見えて前世では陸上部に所属していたの。中学時代だけだったけどね。」



 ポルト先生が「あなたがそういうなら」と、女子団員を集め部屋割りを決めてくれた。



 高校も1年生の時は陸上部に所属していた。でもヤマトに出会って彼との恋愛にのめり込んでしまったのだ。あの時ずっと陸上を続けていたら、得意だったハードルで好成績を収められていたかもしれない。



 だから久々の体育会系並の生活に、私の身体は悲鳴をあげていた。


 今は宿舎に来て3日目の朝食を食べているが、疲れすぎて喉を通らない。




「シシル、額にスープがつきそうよ!」


「はっ!あ、ありがとうルチア!」


 隣の席で朝食を食べている彼女は、私のルームメイトであるルチア・ヴィオデッタ。子爵家出身で私よりも3つ上のお姉さんだ。


 赤いボブヘアが特徴で、幼少期より騎士になるための訓練を積んできたのだとか。騎士としては大先輩だが、煩わしいから敬語はやめてほしいと言われている。



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 ルチアのお陰で額にスープがつかなかった代わりに、ポニーテールの長い黒髪にスープがついてしまった。



 それを見て、クスクスと笑う3人の女子団員が、私に聞こえるような声で話している。



「あんなに真っ黒なんだからスープにつければ少しは綺麗な色に染まるんじゃない?」


「何であんなに伸ばしているの?切ればいいのに。」



 髪を伸ばすのは令嬢としての嗜みだった。どんなパーティーにも対応できるようにアレンジをするためだ。でも確かにもう伸ばす必要もないのかもしれない。スープのついた髪をハンカチで拭いとる。



「気にすることないよシシル。彼女たちはあなたにヤキモチを焼いているだけだから。」


「やきもち?」


「あなたが団長のお眼鏡にかなっているのが気に食わないんだよ。」



 そうだ、ここではポルト先生が、レオはヒーローみたいな存在だと言っていた。それに加えてイケメン。女子にモテないはずがない。それなのに学園での火竜事件で、皆の前で思い切り抱き合うなんて…。


 

 駄目だ、いじめの対象にならないよう、レオから距離を取らないと。



「シシル!」



 そう思った矢先、レオに呼ばれた。レオのいる席まで行くと、「随分疲れた顔をしているな」と言われた。



「はは、慣れない生活なもので。」


「それより今日の訓練開始時に、シシルの魔力を調べたい。」


「え?またですか?」


「ああ、今度は雷の魔力だけが使えるかどうかを試してみたいんだ。」


「そうですか。わかりました。」



 淡々と答えていると、レオが眉をひそめた。



「…何で急に敬語なんだ。」


「え?だって団長ですから。新人が目上の人に敬語を使うのは当たり前です。」



 さらにレオが眉間にシワを寄せる。



「…朝食を食べ終わったらなら、罰として今から俺と走り込みに行くぞ。」


「…え?罰??」


「忘れたわけじゃないよな?この間ここで待ってろといった命令を無視し、勝手に学園までついてきたことを。」


「…はあ。もちろん覚えています。」


「ではさっさと皿を片付けて外に行くぞ。」



 罰なら私1人でいいのでは?あなたがついてくる必要性がどこに?



 結局団長に外に連れて行かれる際、彼女たちに思いきり睨まれてしまった。眠いしだるいし睨まれるし最悪だ。



 

 詰所と宿舎を囲む石のレンガの周りを軽く5周した。駐屯地の周りを走れと言われたらどうしようかと思っていたからホっとした。




 それから訓練開始時間になり、レオが魔法の使える騎士を連れ、再び訓練場に足を運んだ。



 その中には、朝食で私を睨んでいた女子3人がいる。ルチアがいないから心細い。



「雷の魔法といえば、ロザンナ、一度手本を見せてくれ。」


「はいっ。」



 レオが指名したロザンナこそ、まさに3人の中の1人で、いつも真ん中で腕を組んでいる女子だ。


 ミルクティー色のミディアムヘアをポニテールにし、赤いリボンをつけている。



 彼女が青空に向かって右手を翳し、呪文を発する。



「コア・アローサンダー!!」



 一瞬にして空から雷の矢が降りそそぐ。数十メートル先の荒野に矢が刺さると同時に、電気のようなものが走った。


 一つ一つの威力は小さいものの、数十本はある雷の矢が同時に振ってくるのだ。申し分ない攻撃力だ。



「ロザンナは魔獣相手だけでなく、戦争にも借り出されたことのある有望者だ。」



 乙女ゲームにも戦争はある。隠しキャラのレオハルト·アルヴェールのルートで少し話が出てきた。


 ただしこのミクラントス王国は平和主義国なので、ミクラントスの騎士として戦うことはない。同盟国となっている他国の応援部隊として派遣される。



 ロザンナは庶民の出だが、実は父親が公爵家の人間で、庶民である母親と2人で暮らしていたらしい。上位貴族の血が流れているため魔法が使えるのだ。私のように魔力を買われて入団したとルチアが言っていた。きっとレオがスカウトしたのだろう。



「ではシシル、同じように雷の魔法を撃ってみろ。」


「え?お、同じようにって、いきなりですか?!」



 無茶ぶりだ。まだ雷属性を持っているかどうかも定かではないのに。



 

 同じようにと言われても何をどうしたらいいのか。とりあえず見様見真似で右手を空に翳してみる。



「コア・アローサンダー!!」



 ………



 特に何も起きない。



 振り返ると、ロザンナたちのニヤつく顔がレオの後ろに見える。



 するとレオが「もう一回やってみろ」と言うので、私が人差し指を立てて「もう一回ですかあ?」と聞き返した。



 そして次の瞬間、その人差し指にビリリッと電気のようなものが走った。



「ッ!!」



 でも指元に小さく走っただけで、他には特に何も起きない。別に指が痛いわけではないが、嬉しくもない。



 何このしょぼい雷魔法···。



 そして何を思ったか、私は中指にも火を灯した。この人差し指と中指を合わせるとどうなるのだろう。しょぼさとしょぼさを合わせれば何かが起きるかもしれない。



 私は手を上にし、指を空へと向けた。そして、さっきの呪文を唱える。



「コア・アローサンダー!!!」



 火と雷が融合した、一本の線のようなものがひゅるひゅるとすぐそこに落ちていく。そして、線香花火のように丸く赤い光が弾け飛び、線が消えた。



「ふふっ…」



 ロザンナたちが笑い出す。



 私は火と雷、2つの属性の魔力を持つことが分かった。でも火の魔力と同じように、雷の魔力だけでは何の役にも立たないものだということが判明した。



 それからレオに言われるがまま、"バーストエクスプロージョン"も撃ってみたが大した爆破は出来ず、レオがゾイの土人形を出してくれて、初めて威力のある爆破が出せた。



 でも結局それはロザンナの笑いを増長させるばかりだ。私の魔力の訓練が終われば、すれ違い様に、「土人形に婚約破棄されて可哀想~」と蔑んだ目を向けられた。



 それから疲れが取れないままその日のルーティーンを終えた私は、ベッドにうつ伏せになり倒れ込んだ。




 次の日、私は寝坊した。


 何度ルチアに起こされても起き上がれず、朝食もすっぽかし、訓練開始の時間になった。そのラッパの音の合図で飛び起きた私は、全身筋肉痛のまま訓練の列につく。



 でもすぐに小隊長に呼ばれた。



「ルチア・ヴィオデッタ、シシル・メレデリック、前に出ろ。」



 私は呼ばれて当然だとしても、なぜルチアまで呼ばれたのかが分からない。



「お前たち2人は寝坊した罰として、今から駐屯地を2周してこい!」


「え?!に、2周?!」



 でもすぐにルチアは「申し訳ありませんでした!すぐに行ってまいります!」と返事をし、走りに行った。ルチアは関係ないのに、と思いながらついて行き、ルチアに聞いてみた。



「寝坊したのは私だけでしょ??何でルチアまで走らなきゃならないの?」


「ルームメイトだから連帯責任なんだよ。本気で起こさなかった私にも非はある。」


「そ、そんな…。」



 きっとルチアは、私が相当疲れていると思い本気で起こさなかったのだろう。


 とにかく謝ることしか出来なかった。



 軽はずみに「入団する」と返事してしまったことを少しだけ後悔した。


 皆は騎士のプロだ。ルチアは幼少から体力作りに励んできて、ロザンナは生死をさまようような戦争にまで借り出されたことがある。のうのうと生きてきた私がいきなり来ていい場所ではないのだ。



 その日、私は1日のルーティーンを終えた後、黒く長い髪を切った。



 

 次の日、時間通りに掃除と畑仕事を終えた後、朝食の席で私を見た皆が目を見張る。



「シシル!あんなに長かった髪をなぜこんなに短くしてしまったんですか?!」



 ポルト先生が酷く驚いた顔で私の髪の毛を触る。ショートではないけれど、肩にはつかないくらいの長さに切った。


 

「ええ、その、昨日寝坊してしまったし、反省しなきゃと思って。」


「ええっ?!それだけのことで?!この宿舎に来る新人は、皆最初は寝坊するものなんですよ?!」



 …え?そうなの??



「でもさすがシシル、男気があって俺は好きです!」



 だから嬉しくないって。



 するとそのやり取りを見てか、レオまで寄ってきた。頼むからロザンナたちが見てる前ではあまり構わないでほしい。



「シシル、後ろの長さがバラバラだぞ?来い、俺が切ってやるから。」


「あ~、大丈夫です!ルチアに切ってもらうので。」



 私は隣に座るルチアを見て、「お願い」と手を合わせた。



 向こうの席にはやっぱり私を睨むロザンナたちがいて、私は後ろに立つレオを無視し、朝食を食べた。



 ちょっとあからさまにレオを突き放してしまったかもしれない。




 グループに分かれての魔法訓練が始まった。


 今日も前回と同じ、ロザンナたちがいるグループだ。



 ロザンナの魔力は男性騎士よりも高い。次期小隊長候補とも云われている。


 今日もロザンナは絶好調で、周りの騎士たちが感嘆の声をあげている。



 そして私は、今日も絶不調。"コア・アローサンダー"がなかなか上手く出せない。



「シシル、俺が手伝ってやる。」



 レオが私の元に来て、例の土人形を出そうと荒野に手を向ける。




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