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case4.シーク様は特撮好き

 

 

 ママ馬をダルタニアンに会わせると、2頭は涙を流し、嬉しそうに身を寄せ合った。



「ヒヒヒ、ヒヒーン。。(ありがとう、シシル。)」


「こちらこそ、ここまで乗せて来てくれてありがとう。」



 火竜が騎士たちの風の魔法により運ばれていく。


 とりあえずは騎士団本部の魔獣専用の檻に留置し、この火竜がどの地域に生息しているのかを調べた後で返すらしい。竜は希少なため殺傷処分はしないのだとか。



 ゲームの中でも火竜は出てきた。開拓のため、辺境地に視察に行った他国の王子(攻略対象)が火竜に出くわし攻撃を受け、片腕が不随になるのだ。そこで回復魔法を持つミレーヌに会いにやって来るというルートがある。



 

「なぜ近衛このえ騎士は応援に来なかったんだ?!使い魔を飛ばせと言ったはずだろ!!」


「と、飛ばしたはずなのですが…も、申し訳ありません!」



 第2騎士団の団長が騎士に怒鳴っている。でもレオがそこに割って入り、「使い魔も火竜に恐れをなし錯乱していたのかもしれない」と騎士を庇っていた。



 前世は敵だったから悪いイメージしかなかったけれど、レオって実は仲間想いで優しいのかも。ステラに捕まっている時にもっと腹を割って話せていたら、メロウとも仲良くやれていたのでは?



「レオってとってもいい団長なのね。私レオのいる第3騎士団にきて良かった。」


「おやおや、ようやくレオの良さに気付いたのですか?…確かにリオの時は近寄りがたい雰囲気はありましたけど、今では皆のヒーローのような存在なんです。」


「へえ。」



 ポルト先生と、他の騎士団長たちと話し合っているレオを見つめる。真剣な表情で話をする姿にドキッとした。


 さっき抱きしめられた感覚がまだ残っているのを思い出し身体が熱くなる。推しなんだからドキドキするのは当たり前かと自分を納得させた。



「姉さん!!!」



 校舎から走ってくるアンドリューが見えた。



「アンドリュー!!」



 私が抱きしめようと大きく手を広げると、アンドリューが私に「何してるの!!」と大声を上げた。



「姉さんは保護されてる身なんでしょ?!それが何でこんなところで火竜相手にしてるんだよ!!」



「心配させてごめんねアンドリュー。私が心配になって勝手について来ただけなの。」


「じゃあ何でそんな騎士の格好なんてしてるの?!絶対おかしいよ!!!」



 アンドリューが膨れた顔で私の両手をギュッと握る。



 助けを求めようとポルト先生を探すと、先生は他の騎士団の女性に囲まれていた。



 ここは抱きしめて誤魔化そうとアンドリューをぎゅっと抱きしめると、少し向こうの木に何かが引っかかっているのが見えた。



 あれって、ストール??



 私はアンドリューから離れ、その木に近付いて見上げた。どこかで見たことのある、金の絹のような大きなストールだ。どこで見たんだったか…



 木に足をかけ登ろうとすると、アンドリューが「もう!話聞いてよ!」と文句を言いながらも、風の魔法でストールを取ってくれた。



「ありがとうアンドリュー。」


「あれ?これって、どこかの王子が巻いてたやつじゃなかったっけ?」


「え?」


「ほら、よくマキが、シーク系は色気が凄いとかって言ってたじゃん。」


「…え?…マキ??」



 アンドリューの口から突如、私の前世の名前が出てきた。


 考えたくなかった事実が目前に迫るも、アンドリューが、「あ!授業中だったんだ!」と、くしゃりと笑って校舎に駆けて行った。やっぱりアンドリューはサクなのかもしれない…。



 

 でも今の"シーク系"で思い出した!


 このストールは攻略対象であるカミール・パストラーナが首に巻いているものに似ている。


 カミールはこの国の王子ではなく、ここから西南にあるサウザード王国の、確か第4王子だったはず。サウザードは砂漠地帯なので、口に砂が入らないようにストールを巻いているのだ。



「伝達です!!先程の火竜の住処がわかりました!!」



 1人の騎士が、外から学園の中へと走ってきた。


 私も皆の元に駆け寄ると、騎士たちが一カ所に集合する。



「先程の火竜は、サウザード王国王族の従魔じゅうまであることが判明したそうです!」


「は?従魔だと?!」



 レオが声を上げた。


 従魔とは飼育用の魔獣のこと。でもこの国で使い魔以外の従魔を持つことは禁止されている。



「もしかしてサウザードが従魔を使い攻めてきたのか?!」


「いえ、そんなはずでは。伝達によれば、現在サウザード王国のカミール・パストラーナ殿下が視察に来ているとかで、」


「視察?…どういうことだ。」



 まさか、視察にペットの火竜を連れてきたってわけじゃないわよね??



 騎士団長たちが話し合う中、ポルト先生が私に、サウザードとは友好国となっていて物資の貿易が盛んに行なわれていると教えてくれた。




 学園の被害を確認後、清掃をしてそれぞれ騎士団の駐屯地に帰ろうとしている時だった。


 1台の馬車が学園の裏門にやって来たのは。


 しかも王族専用の煌びやかな馬車だ。半円の形をしており、金色の装備をつけた白い馬が4頭、近衛騎士が御者になっている。


 

「やっと来たか、近衛騎士め。」



 第2騎士団長がボソリと呟いたが、馬車の中から出てきたのは、ミクラントス王国の案内役の役人とサウザード王国のカミール王子、そのお供の家来3名だった。



「皆ごめんね~!うちの可愛いレッカ・メビウスレウスが大変迷惑かけたようで申し訳ない~!」



 白いターバンに金色の羽を差した、浅黒い肌の美男子が明るい声で言った。



 いやいや、違うから。カミール王子は常に上から目線の王様キャラだから!!



「いやあまさかレッカが僕を追いかけてミクトラントスまで来ちゃうなんて驚きだよ~。やっぱり僕とレッカの愛の炎はどこまでいっても消えないのかな☆あはは!」



 目の前で頭に手を置き、「こりゃ参った☆」と困ったような笑顔を皆に向けるカミール王子。



 いやいやいや、カミール王子の第一人称は"我"だから!


 ミレーヌには「其方そなた、我の腕を治せ。」と当たり前のように命令するのだ。そう、辺境地で火竜に出くわし、片腕が不随になった攻略キャラこそがカミール王子なのだ。



 レオが前に出てカミール王子に話しかけた。



「カミール王子、件の火竜は現在騎士団本部に輸送中でして、本部までおいでになりますか?」


「ああ、そうさせてもらおうかな。っとその前に学園の皆に謝罪とお詫びをしないとね。」



 王子が家来たちに校舎へと向かわせた。軽い口調でもマナーはきちんとしているらしい。



「それにしても何でレッカはこの学園に降り立ったんだろうね?僕は王都で視察中だったんだけど。」


「あ、もしかしたら彼はこのストールを見つけたのかもしれませんよ?王子。」



 私は手に持っていた金のストールを王子に渡した。



「ああ!!それは僕のストールだよ!ありがとう!でもレッカは"彼"じゃなくて"彼女"なんだ。」


「それは失礼しました。」


「えへへ。僕たち恋人みたいなもんなんだ~。」



 何だろうこのやり取り。どこかで同じようなやり取りをした気がするけれど思い出せない。それにしても何でこの人こんなにキャラが崩壊しているのか。



「ところで君、よくこのストールが僕のものだって分かったね?」



 あ、しまった!当たり前のように渡しちゃったけれど、よく考えたら他国の王子の持ち物を知ってるなんておかしいよね。



「ええと、高級そうな絹のストールだったので、そうかなと。」


「へえ?なかなか見る目があるんだね君。ところで"絹"という単語は僕の国にはないんだけど、この国ではシルクを絹と呼ぶの?」



 うっわ~…適当そうにみえて意表をついてくるあたり、凄くめんどくさい!こういうタイプの男、昔の知り合いにいたよな。誰だっけな。



 確かにこの国でも"絹"という単語は聞いたことがない。もしかするとこの世界自体に"絹"という単語はないのかもしれない。



「まあいいや。君、名前は?」


「はい、第3騎士団のシシル・メレデリックと申します。」


「え?メレデリック?!もしかしてあの貿易商のメレデリック家なの?!」


「ええと、はい。そうですけど。」



 サウザード王国との貿易はうちの実家を通して行っているとのことだった。私はお父様の仕事のことには疎いから初めて知った。



「直接会ったことなかったから会えてうれしいよ!まさか娘さんが騎士をやっているなんてね!」


「ははは。少し事情がありまして。」


「どうだろう、もう少し君とは話がしたいんだけど、よければ本部まで付き添ってはもらえないだろうか?」



 それからカミール王子に「お願い!」と頼まれれば断るわけにもいかず、レオと私はカミール王子一行に付き添い、本部まで行くことになった。




 ママ馬がダルタニアンから離れようとしないため、私はレオの馬に乗せてもらい馬車の後ろからついて行く。



「どうしようレオ。私お父様の仕事の詳しい内容はよく知らないのよ。他国との貿易の話を持ち出されたらどうしたらいいのか。」


「その時は俺が助け舟を出す。これでも騎士団長だからな。

っと、手綱には触れるなよ?」



 レオが後ろから私の腰をぎゅっと抱きしめる。手綱は馬に指示を出すための大事な道具で、同乗者が触れては馬に的確な指示が伝わらなくなる。そのため私は、レオに支えられる以外に自分で支える場所がないのだ。



 たまに腰から上に手が触れれば、その度にレオは慌てて「悪い!」と謝ってくれる。そして気まずい空気。



 でも私はどこに触れられていようが、さっき抱きつかれたことを意識してしまいそうになるので、考えないよう出来るだけ話題を振った。



「…そういえばレオ、この騎士の服、薔薇の香りがするのだけど、アイリーンの趣味なのかしら。」



 応接室で出された紅茶も薔薇の香りがした。薔薇に何かこだわりがあるのかもしれない。



「いや…、それはその…俺の、趣味だ…。」


「へ??」


「自分でも柄じゃないのは分かってる!けどまあ、その、前世の母親が庭で薔薇を育てていて、その影響みたいなもんで。。」


「ああ、そういえば私たち、前世で学生のまま死んじゃったものね。」


「いや、そういうんじゃなくてだな…。」


「私も薔薇の香りは好きよ?学園で育てているうちに愛着沸いたし。」



 少し振り返ってレオに笑いかけた。レオが「ちゃんと前を見ろ」というので「はいはい」と返事をすると、腰に置かれたレオの手が熱くなった気がした。



 本部につくと、王子はすぐに火竜ことレッカのいる檻に足を運んだ。



「レッカ・メビウスレウス!!」



 中庭にある吹き抜けになった魔獣専用の大きな檻で眠るレッカ。そして彼女を潤んだ瞳で愛おしそうに見つめる王子。その姿がドナドナのように思えてしまった。



「…王子、すみません。私が爆破の魔法で彼女の額を怪我させてしまって。」



 レッカの額は黒く焼け焦げてしまっている。角を折っていたら、サウザード王国との友好関係は断交していたかもしれない。



 でもカミール王子は、「ああ僕を追い求めてこんなところまで来るなんて、悪い子だ。めっ、メだぞ☆」とレッカに話しかけており、私の謝罪は届いていないようだった。




 それに見兼ねた彼の家来が、



「いやこちらこそ。皆様にはさぞかし怖い思いをさせてしまい、大変申し訳ございません。後日お詫びの品を送らせていただきます。」



 と深々と頭を下げていて、その姿が昔の自分と重なった。私も前世でよくチームの皆と外に食べに行った時は、店員さんに「静かに」と怒られて謝ってたっけ。



「御覧の通り、王子は魔獣に夢中でして、特に大きな魔獣には目がなく、辺境地に行っては手懐けて従魔にしてしまうのです。」


「…え?従魔ってこちらの竜だけではないのですか?」


「ええ、今では67頭の従魔がおりまして、従魔専用の土地を開拓するほどです。」

 


 ろ、67頭…?!!餌代がとんでもないことになっていそうだ。



「カミール王子は第4王子ということもあってか、小さい頃から趣味ばかりに没頭しておりまして、未だ婚約者がいない身なのです。」



 ゲームの中の王子は、第4王子と4番目に生まれた子供のため、両親にあまり構ってもらえず孤独な幼少期を過ごした。そのため気難しい王様キャラになってしまうが、ミレーヌの優しい心が彼の凍てついた心を溶かしていくのだ。


 ただしカミール王子を攻略している途中で、違う攻略キャラに接触すると、彼のヤンデレ染みた一面も見られる。




「…ところでシシル、さっき君は爆破の魔法と言ったけど、それはどういう魔法なの?」



 ほら、聞いていないようでしっかり聞いている。メロウにいた誰かさんにそっくり。


 しかも大きな魔獣が好きって、まさに特撮映画好きな彼そのものじゃないのだろうか。




「まだはっきりしたことは言えないのですが、私には2つの魔力があるかもしれないのです。」


「それはどういうこと?2つの魔力を融合させて爆破させるってこと??」


「…恐らく、そうだと思います。」


「君の力を使えば"特撮映画"が撮影できるかもしれないなあ。」



 …え?今なんと?



「と、特撮映画って、怪獣が実写で戦ったりする、あの特撮ですか?」


「うん、…ってやっぱり君、転生者だよね?」



 私とレオの顔が一瞬にして青ざめる。するとそれを見た王子が、



「転生したのに見た目が変わらないって笑える☆」



 とお腹を抱えて笑い始めた。


 周りの家来たちは不思議そうに顔を見合わせている。




 それから場所を移動し、本部の一室を借りて3人で話しをさせてもらった。


 

「マキ、会えてほんとに嬉しいよ!」


「私もよ、コウキ。」



 コウキは特撮ヒーローや怪獣映画の世界に憧れを持っている、メロウの幹部だった。よく抗争では、映画で使われた技で敵を倒したと、嬉しそうに話していたのが懐かしい。



「僕は前世では小柄だったでしょ?だから怪獣とか巨大なものに興味を持つようになったんだ!」



 今ではレオと同じく、180㎝はあるのではないかと思うほどの長身だ。



 6歳の時、お城を抜け出し1人で闇市に行き、初めて魔獣を見たのだとか。火竜がオークションにかけられていたらしい。そこで転生していることに気付いたとコウキは話してくれた。


 乙女ゲームでも、巨大な魔獣のいる世界なのだから彼にとっては最高だろう。




「で、マキは何でステラの総長と一緒にいるの?どういう風の吹き回し?」


「あ、はは…。」


  

 どう説明していいか分からず笑って誤魔化すけれど、当たり前のように痛いところをつかれる。



「ヤマトは?ヤマトもこの世界に転生して来たの??」


「…うん、ヤマトはね、この国の第3王子、ゾイ・エルヴァンに転生したの。」



 できる限り、声のトーンが最後まで落ちないように、コウキにゾイと私のことを全て伝えた。


 最初は信じられないといった表情だったコウキも次第に沈んだ表情に変わっていく。



「…確かにヤマトは人を惹きつけるし、はっきり言ってマキと付き合っている時も沢山の女の子が言い寄って来てたんだよ。」



 …わかっちゃいたけど、実際口に出されるとイライラするわね。



「それでもヤマトはマキを離そうとはしなかったのに。」


「…彼には、"長く一緒に居すぎた"って言われたわ。」


「時間って、残酷だね。良い思い出も全部忘れさせちゃうんだから。」



 目の前にいたコウキことカミール王子が私の隣にきて、ハグをしてくれた。


 泣きたい気持ちが全くないとは言えない。でも私はもう騎士の一員なのだから、泣いてばかりはいられない。



「…でもねマキ、いくら"推し"だからって、こいつの下で働くのはどうかと思うよ?」



 カミール王子が私を抱き寄せ、レオを睨みつける。



「ねえ、シシル・メレデリック。良ければ僕のお嫁さんにならない?」


「…え、ええっ?!!」



 驚きのあまり、彼の胸を両手でおさえて離れる。



「家柄も問題ないし、何より僕の特撮の趣味に理解がある!」



 特撮の趣味に理解はあっても、従魔を67頭も持つ趣味は理解できない。



「もし就職先がなくて仕方なくこいつの下で働いているなら僕の国に来ればいい。きっとご両親も安泰だ。」



 両親のことを考えるとそうかもしれない。体裁もあるし、私が騎士になるよりは賛成だろう。それでも私はやっぱり自分の能力を活かせることがしたい。



「…ごめんなさいコウキ、いえ、カミール王子。私は自分の意思で騎士になることを選んだの。例え上司が前世の敵だったとしても関係ないわ。」



 そして私は、メロウで自分も同じ一員として扱ってもらいたかった事実を話た。"姫"としてではなく、1人の仲間として。



「そういえばマキはよく、ヤマトやキラに会合に参加させてほしいって直談判してたよね。」



 懐かしい名前が出てきた。


 キラとはメロウの参謀、ヤマトの右腕のような存在で、会合を取り仕切っていた人物だ。



「ヤマトもマキも、ステラも転生してきてるってことは、きっとキラもこの世界に転生してきてるよね。」


「…そうなのかしら。キラにはまだ会ったことがないのだけど。」


「キラは策略家だったから、きっとこの世界でもどこかで何か企みながら生きているかもね。」



 キラはヤマトを地区のトップにのし上がらせるために、色々な策略を張り巡らせていたとよく皆が言っていた。


 敵チームと敵チームをわざと抗争させるように仕向けさせたり、敵同士の抗争中を狙って2チームを一気に壊滅させたり。



「策略家といえば、この国の第1王子、プレゴール·エルヴァンが策略家で有名だな。」



 レオが私を見る。


 前にレオが、第1王子側と第2王子側で派閥争いが勃発してるって言ってたっけ。



 でもプレゴール王子には私も王族主催のパーティーで何度か接触している。キラだとは一言も言っていなかったけれど。




 カミール王子は昨日からこの国に視察に来ているとのことで、明日には国に帰るとのことだった。



 宮殿の客間に泊まっているため、ゾイと接触してみるとのことだった。



「じゃあ僕たちはそろそろ宮殿に戻るよ。」


「レッカはどうやって持って帰るの?」


「もちろん乗って帰るんだよ!」



 従魔の手懐け方がプロだ。


 

 そして「こんな汚いところで一夜を過ごすなんて可哀想に」と檻の鉄格子からまたしてもレッカを見つめている王子。レッカをお嫁さんにすべきだろう。



「マキ、いやシシル。僕はいつでも待ってるから、気が向いたらうちの国にも遊びに来てね!」


「ありがとうカミール王子!」


「それとお嫁さんの件も待ってるからね!」



 本気か否か定かではないけれど、同じメロウだった彼に、自分の気持ちをはっきりと伝えられて良かったと思う。それもこれも私の能力を見出してくれたレオのお陰だ。自分の気持ちに自信が持てた。



 本部の門に停まる馬車の前で最後の挨拶を交わす私と王子。



 その隣で、レオがお供の近衛騎士に話をしているのが聞こえた。



「ところで先刻の学園での件ですが、第2騎士団がすぐ近衛騎士宛に使い魔で応援要請を出したのですが、届いていませんか?」


「…それが、我々は学園に火竜が出たと王都の民らが騒いでいるのを聞いて、慌てて学園に行ったんだ。もし宮殿に要請がいっていれば、我々にも緊急連絡として回ってきているはずだが…。」



 視察中の彼らしか学園に来なかったという事は、きっと使い魔が途中で錯乱し、逃げたのかもしれない。



 レオが腑に落ちな様子で「そうですか。」と話を終わらせた。




 それからカミール王子一行を見送り、私とレオもそのまま直帰することになった。



「…王子の嫁にならなくて良かったのか?安定の就職先だぞ?」


「言ったでしょ?私は誰かの妻として大人しく宮殿で過ごすよりも、外で暴れていた方が性に合うのよ。」



 来た時同様、レオに腰を支えられながら馬に乗るが、来た時ほどの気まずさはない。お互いに慣れてきたのかもしれない。



「さっき王子が言っていた"時間は残酷"って言葉、シシルはどう思った?」


「え?"良い思い出も全部忘れさせちゃう"ってやつ?」


「ああ。」



 私はゾイとはこの先後世でもきっと一緒にいられると思っていたけれど、結局は"永遠"なんて言葉はないのかもしれない。


 ミレーヌという存在が現われて彼が心変わりしたように、人の心は常に新しいものに更新されていくと考えると、"時間は残酷"なのだろう。



 でも、私も今は爆破の能力を活かしたいという気持ちでいっぱいだ。



「私は残酷じゃないと思う。新しい自分の道が切り開けたわけだし。」


「そうか。俺はむしろ時間に感謝しているくらいだ。」


「へえ?何で?」


「シシルとこうして沢山話すことが出来たから。」


「……」



 また気まずくなるようなことを言う。でもレオは真面目に言ったようで、特に照れている様子もない。だから私も真面目に返した。



「そうね、じゃあ私も、レオとこうして話せる時間に感謝するわ。」



 夜風が頬を撫で、火照りを隠すにはちょうどいい。夜空には前世では見られなかった星空が広がっている。"ステラの総長"が近寄り難い存在でないことを知った日だった。



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