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case2-1.あんた誰だっけ


 いつの間にか夜になっていた。今は何時くらいだろう。


 抜き足差し足で馬小屋を出ると、外はすっかり晴れており、空には半月と星が見えている。周りからは鈴のような虫の音が聞こえて、どうやら会場の人々は皆帰ったようだ。


「…これからどうしよう。。」


 会場の前まで行くと見事に周りには瓦礫が散乱し、ぽっかり穴が開いている。



 思えば卒業パーティーの最初のダンスからゾイの様子はおかしかった。心ここにあらずで、ずっと違う方向を見ていた気がした。あれはミレーヌを見ていたのだろう。私は卒業生代表であるゾイの婚約者だから、最初のダンスのパートナーとして恥をかかぬよう必死に今日まで練習をしてきたつもりだ。


 そんな私のことなんてゾイは見ていなかったのだろう。



 足元には丸焦げになった庭園のアーチがあって、薔薇は跡形もなく消え去っている。


 私がしゃがみ、焼かれた、いや自分で焼いた庭園の土に触れた時だった。



「やっと起きたか、怪力女。」


 全く気配に気づかなかった。慌てて立ち上がり振り返れば、そこには赤い外套を羽織り、胸元には金の勲章を付け、腰に剣を携えた濃紺の短髪の男が立っていた。


 あ、あれ…??こ、こここここの人っ!か、隠しキャラの…!!第3騎士団長のレオハルト・アルヴェール!!


 若いながらにして軍部大臣である父親から騎士団長としての称号を言い渡された寡黙キャラのレオハルト!私の最推し!!!


 美形キャラのイケメンよりも、断然男っぽい顔立ちのイケメンが大好物の私。彼は隠しキャラで、攻略対象の全ルートを一定時間でクリアしないと出てこないキャラなのだ!!


 何でこんなところに?!



 …いや、今はそんなことを言っている場合ではない。お、推しであろうと、今の私には関係ない。学園を爆破してしまったのだから。私にとって彼は敵。きっと私を修道院送りにするために探しにきたのだろう。



 私は断腸の思いで彼に向かって中指を突き出した。



「いや待て待て!!俺はあんたに話が合って起きるのを待ってたんだ!!」


 慌てた様子で両手を軽く上げ、降参のポースをとる男。たくましい身体つきにそぐわないそのポーズが、なんとなく誰かを彷彿とさせた。



「起きるのを待ってたってどういうこと?!」


「…場内を爆破したあんたが、馬小屋に入っていくのが見えたんだよ。」


「え、ええ?!!」



 そういえばレオハルトが所属する第3騎士団は、王都とこの学園を警備する騎士団だ。


 年齢は私たちよりも上で学園の生徒ではないが、学園の警備隊として何度かミレーヌと顔を合わせるのだ。ゲームでも卒業パーティーの警備として参列していた。


 というか馬小屋に入っていくのが見えていたのに、何ですぐに私を捕まえなかったの?!


「あんた、前世でメロウの姫だったマキじゃないのか。」


「!!」


 自分の耳を疑った。爆破させた事実よりも、まさかの意表を突かれ、思考が停止する。


「…その間抜けな顔も前世から変わんないのな。」


「は、はぁあ?!」


 そんなに間抜けな顔をしていただろうか?え?私の最推しよね??最推しのレオ様よね?寡黙キャラの彼がそんなことを女性に言うなんて、もしかして私が会場を爆破させたせいで瓦礫で頭をぶつけたの??


「大体侯爵令嬢があんなドレス下からおもっくそたくし上げて、大股開きで逃亡するってあり得ないだろう。」


「そ、そうかしら?そんなことしたかしら私。」


「前世でもあんた、人質の分際で俺たちのアジトから何度も脱走したの覚えてるか?

縄引きちぎって脱走して、その度にあんた探すの大変だったんだぞ?」


「え…?」


「ほら、俺だよ俺。」


 そう言いながら片眉をつり上げ、呆れた顔するレオ様。いやレオ様はそんな表情はしない。この人はきっと、別の誰か…



「ももももしかして…"ステラ"のリオ?!」


 濃紺の短い髪、眉間に皴を寄せ世の中を見下した顔つき、そのドス黒いオーラに誰しもが近寄りがたいと距離を置くその男は、ステラの総長、リオだ!!


「気付くのが遅いんだよバカ女。」


「う、うっさいわね!!そんなの気付くわけないでしょ?!」


 むしろあんたが私だと気付く方がおかしいのでは??レオ様と会ったのは今日が初めてのはずだ。


「で?何で爆破したんだよ?」


「う···」


 前世は敵同士でありながら、ゲームでは最推しだったレオ様に失恋の事実を語るのは気が引ける。でもレオ様は騎士団長だ。もし私がただの狂った爆破テロだと思われたら、修道院どころか、一生奴隷として沼や鉱山でこき使われるだろう。



「…実は、その、ゾイに婚約破棄を言い渡されて…」


「…いや、そうじゃなくて。その場面は見てたから、なんとなく理由は分かる…。」



 レオ様が気まずそうに視線を泳がせる。


 あんな会場のど真ん中で修羅場を繰り広げていたのだから、相当目立っていたのだろう。


「俺が聞いてるのは、どうやって爆破したのかってことだ。」


「え?」


「何か爆薬を使用したのか、それとも魔法なのか。」


 そういえば私、どうやって爆破させたのだろう。



 "火、お付けします。"程度の火を灯すことしか出来なかったのに。もしかして中指を突き刺すポーズがよかったのだろうか?もう一度会場の方に向かって中指を向けてみる。



「バカ!!試そうとするな!!」


「いや、自分でもどうやって爆破させたのか不思議で…」


「いいか?あんたのその爆破の魔法はまだ完成されていない。ゾイを狙ったつもりだったんだろうが、狙いがずれていた。まあそのお陰で死人が出ずに済んだわけだが…。」



 それからレオ様は、私が会場内で放った爆破の光が、まるで稲妻のようだったと言い出し、もしかして雷属性と関係があるのかもしれないと分析し始めた。


 結局この人は何が言いたいのか。私は昔から火属性の魔法しか使えないはずで、2つ以上の元素を使う魔法なんて聞いたこともない。



 それより私はこれからどうしたらいいのか。修道院にも行きたくはないし奴隷にもなりたくないから、このまま国を逃亡しようか。でもきっとすぐに捕まるのがオチだろう。


 前世でもステラに捕まった時何度も脱走してみたが、結局その度にリオに捕まった。リオは逃亡者を捕まえる天才だ。


 ブツブツと私の爆破を分析しているレオ様は放っておき、私は足で何かを潰したような気がして地面を見た。


 すると黒焦げではあるが、何か小さな実のようなものをいくつか踏んづけてしまったらしく、その中から種のようなものが無数に飛び出ていた。


「…あれ?これって、」


「…種?もしかして、薔薇の種か?」


 いつの間にか隣に来ていたレオ様が、一緒になって種を見ている。敵で推しで騎士団長である彼に距離を詰められ、どう反応していいのか分からない。


「種があるなら薔薇は元に戻せるな。」


「え?」


 レオ様が両手を種に向かってかざし、呪文のような言葉を唱える。


「―――アース・リゼネーション―――」


 するとレオ様の手から光が放たれ、無数に転がっていた種が庭園中に飛び散った。


「な、なにっ」


 焦げた灰に土が被さり、焼野原だった地面が次第に土色の姿を取り戻していく。そして、所々に緑色の小さな芽が現れた。


「す、すごい…」


 そういえばレオ様は侯爵家出身で"地"の魔法が使えるのだ。


 ゲームでは、ミレーヌが大切に育ててきた庭園の薔薇たちをシシルが引きちぎり、ミレーヌは1人庭園で悲しみにくれる。そこでレオ様がこっそり魔法で新芽を芽吹かせるのだ。直接与える優しさではなく、さりげない彼の優しさが私は大好きだった。



「さてシシル・メレデリック。ミクラントス王国第3騎士団長としてあんたに話がある。」


「…え?!それって死刑宣告だったりする?!」


 修道院行きよりも断然死刑のがいい!


 でもレオ様は、「もっと落ち着いた場所で話そう」と、学園裏門付近の木にロープで巻き結びをして待たせていた黒い馬に私を乗せ、学園を出た。


 私が前に乗り、レオ様が後ろから片手で私の腰をしっかり支える。馬に乗っている途中で逃げようかとも思ったけれど、最推しに極限まで密着されてそれどころではなかった。後ろからは時々レオ様の息がかかり、全身が火照りっぱなし。



 推しの力って狡い。





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