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case1-3.


 元素を利用しない特異魔法とは、"回復魔法"のこと。



 本来の魔法は主に元素を利用し攻撃や防御を目的とするもので、この回復魔法はその名の通り、怪我人の傷を癒すだけでなく、病人までもを回復させることができる。



 貴族でも特異魔法が使えるものはいる。でもミレーヌの回復魔力は貴族よりも高いと云われているのだ。



 いたずらで禁じられた魔獣の森に入った学園の生徒やハンターたちの傷を癒すシーンがゲーム内で見られ、ミレーヌ自身とその能力欲しさに、周りのイケメンたちがこぞって彼女を取り合うという逆ハー乙女ゲーム。



 まさに女子にとって夢の世界。




 さて、ここで悪役令嬢と名高いシシル・メレデリックに備わる魔法についてなのだけれど、


今、中指を立てた私から放出した魔法は、"火"。



 火といっても怪物が吐くような勢いのあるものではない。ホストクラブやキャバクラなんかで見られる、「火、お付けします。」といった程度の火だ。



 ゾイに向かって中指を立てている私は、彼の葉巻に火を貸しているだけの状態になっている。



 それを見た周りの生徒たちがクスクスと笑いを溢した。



 そう、シシルは侯爵家の令嬢でありながら"ライターの火"しか出せない。そのためミレーヌに嫉妬し、いじめるという設定なのだ。



 でも周りに笑われるなんて慣れっこだ。国にとって役立たずの魔法でも、別に愛する1人の人に愛されていれば、それで良かったのに


周りにつられてゾイとミレーヌも笑いを漏らし始める。



 ブチッッッ


 堪忍袋の緒が切れると、こんなに鈍い音がするものなのね。



 

 私は無意識に、立てていた中指をゾイの方に向けた。するとボウッと火力が上がり、火の中に七色の層が現れる。



 そして気付けば、こう言葉を並べていた。



怒りの爆破!!!!バーストエクスプロージョン



 ――――瞬間



ドッカァアアアアアアアアン



 爆音が場内に響き渡る。



 周りにとてつもない爆風が吹き荒れ、場内の人々が悲鳴を上げる。



 我に返った私は、次第に自分の心音が聞こえ始めて、何が起こったのか理解する頃には、バクバクと大音量の鼓動を全身に響かせていた。



 まずい…



 私、学園を爆発させちゃった…



 舞台にはぽっかり穴が開き、外が丸見えの状態になってしまっている。さっきまで窓の外は晴れていたのに、空いた穴の向こうは土砂降りになっていた。



 そして、その穴から見えるのは、焼き尽くされた庭園。



 あの庭園はミレーヌが丹精込めて育ててきた薔薇の庭園、というのはゲームの中での話で、実際あれは私が育ててきた薔薇だ。



 ある日ミレーヌが枯れている薔薇に気づき育てていくはずなのだけれど、なぜか彼女は薔薇には目もくれなかった。そこで仕方なく私が薔薇を育てていたのだ。



 でもそんな私の大事な庭園を、自らの手で燃やしてしまった。



 硝煙が穴に吸い取られるように消えていく。そして目の前には、水の魔法で回避したのか、びしょ濡れになったゾイとミレーヌの姿があった。



「…お、おまえ、」



 絶句するゾイ。彼はミレーヌを守る様に抱き寄せていた。



「わ、わたし…なんてことを…」



 大事な庭園を燃やし、愛していた人に裏切られ、会場を爆破させて、叫びたいほど悲しいはずなのに、私の目からは一向に涙は流れない。



 ゾイの言う通り、やっぱり私は強すぎる女なのかもしれない。




 でも今は確かに泣いている場合ではない。私が逃げようと真っ赤なドレスの裾をたくし上げると、ミレーヌがゾイの前に立ちはだかりこう叫んだ。



「ゾイには指一本触れさせない!」



 華奢な、女の子らしい身体つきで腕を大きく広げてゾイを守ろうとするミレーヌ。



「ミレーヌ、危ないから下がれ!!」



 前世のヤマトはもっと男臭い顔だったけれど、ゾイは彫刻のような顔立ちで誰が見ても王子様にしか見えない風貌。


 でも私は、前世と変らない黒髪に長身、身体の凹凸は悪くないけれど、顔はキリっとつり上がった眉と目元。



 目の前にいる2人がお似合いに見えてしょうがない。



 私は2人を通り越し、穴の開いた舞台目掛けて走った。長身でありながらも高校時代は100m走12秒台後半と俊足で、昔から身体を動かすことは大好きだ。この世界にきてからも毎朝のマラソンは欠かさなかった。


 舞台の段差も大股でひょいと乗り上げ、会場を走り去った。



 それから私は両親に咎められることを恐れて家には帰らず、"灯台下暗し"を図り、学園の馬小屋へと逃げ込んだ。


 友達でもある馬のダルタニアンの後ろに身を隠した。ダルタニアンは見た目が犬のダルメシアンのように斑点模様があるため、私が勝手にダルタニアンと命名したのだ。


 ここには授業で乗馬の訓練に使用される馬たちが20頭並んでいる。あくまで生徒のための訓練馬のため、彼らには名前がない。耳につけられたタグの数字で呼ばれている。


 ダルタニアンがしゃがみ、私がそこに寄り添うと自然と涙が流れた。



「私が涙を見せれる相手はあなただけなのね…。」



 ダルタニアンが小さく唸り声を上げ、慰めてくれているようで、私は心地よさを覚え眠りについてしまった。





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