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case1-2.


 天井にはシャンデリア、足元には品のいい赤い絨毯、目の前にはサラサラな白銀の髪をしたお人形さんみたいな顔立ちの男の子が立っていて、



「ほら、シシル、ご挨拶なさい、こちらからご挨拶するのが礼儀だと教えただろう?」



 知らない髭の男性と、艶めく黒髪の綺麗な女性が私に挨拶をしろと促してくる中、私と白銀の彼は目を丸くしていた。



「ななな、なんだここ?!!」

「ななな、何何?!何がどうなってんの?!!」



 お互いがお互いに自問自答をして、でもすぐにわかった。困った時に頭を掻く癖や片方の爪先を浮かせる癖、口調が、前世の彼そのものだったから。



 お互いの存在に気付いた私たちは、挨拶もしないまま強く抱き合った。…そして、勢い余ってキスをした。ちょっとその、深めのキスなんかを。



 周りはポカーン、キョトーン。



 その時の私たちはまだ5歳。私の後ろにいた髭の男性もといお父様は失神して、黒髪の女性、お母様は必死に「お、王族の方になんてことを…」と青ざめた顔をしていた。



 つまり私は、乙女ゲーム『優美ゆうびたわむれ』の中の悪役令嬢であるシシル・メレデリックに転生。そして彼は、攻略対象である王族、第3王子のゾイ・エルヴァンに転生していたのだ。



 私たちが出会った瞬間、転生していることに気付いたというわけだ。



 『優美な戯れ』はチームの溜まり場でよく私がプレイしていたもの。会合中は蚊帳の外で、暇だった私はこの乙女ゲームをやり込んでいた。


 結局不良チームの姫なんてのは、掃除、おつかい、怪我の手当てといった皆のお世話係みたいなものだ。何度か私も会合に参加させてほしいと彼に頼んだことはあったが、巻き込みたくないからと参加させてもらえなかった。



 この乙女ゲームは彼への当てつけみたいなものだったのかもしれない。 



 でもテレビ画面でプレイしていたから、チームの皆も面白がって一緒になってやったりして、皆も男でありながら、それなりにこの『優美な戯れ』の内容は知っている。もちろんヤマトも。



 本来、シシルは悪役令嬢として、主人公であるミレーヌをいじめぬく使命がある。



 学園でミレーヌの教本を捨てたり、教師が呼んでいると嘘をつき魔獣の森に迷わせたり。時には自分がミレーヌに酷い仕打ちを受けたと嘘をつき、彼女を公衆の面前で公開処刑する場面もあった。



 最終的にシシルは、これまでのミレーヌへのいじめの数々を卒業パーティーで婚約者のゾイに暴かれ、婚約破棄を言い渡される。いわゆる断罪イベントというやつだ。



 そして卒業後はその罪を償うようにと、修道院へと送られるのだ。



 その修道院が最悪なのだ。特に下っ端時代は警察学校よりもずっとシビア。



 朝の4時起床、畑仕事。


 5時~朝食準備、6時朝食、後片付け。


 7時~8時お祈り。8時~修道院全体の掃除、洗濯。


 11時~昼食準備、12時~昼食、後片付け。


 午後は孤児院や貧困村での奉仕活動。



 とまあ、全くといっていいほど自分の時間がない。恐らく修道院に入るくらいなら死んだ方がマシ。


 

 しかし婚約者であるゾイが、前世の恋人、ヤマトだと分かれば、乙女ゲームの世界など自分には関係ない。私は傲慢で高飛車な悪役令嬢の名を捨て、ただゾイに寄り添い、慕い、尽くす献身的な女性となった。



 前世のまま愛を育んでいれば何の問題もない。はっきり言って、私たちはただのバカップルだった。



 ミレーヌという主人公など蚊帳の外だ。学園で共にする一生徒として接していただけ。



 愛する人と転生先でも愛し合えるなんてこの上ない幸せだ――――。



 それが、



なぜ、「ただ守ってやりたくなる女がいい」だなんて言葉で終わらせようとするの。


 私たちの愛は何だったの。



 それなりの答えが欲しいのに、現実が受け止められない私は、上手く問い詰めることができない。



「俺たち長く一緒に居すぎたんだと思う。」


「……」


「それに、主人公の可愛さ半端ないし。」



 その言葉に、隣で手を握るミレーヌが「そんなぁ」と頬を染め恥ずかしがっている。



 今初めて気づいた。バカップルってはたから見るとこんなに苛つくもんなのね…。



「ゾイ、…ミレーヌとはいつからそんなに仲良くなったの?」



 一番気になっていた言葉が我先にと出た。ゾイが鼻から息を吐き、私から目をそらす。



「…2年前から、だったか。」


「に、2年前ぇ?!!」



 え?!そんな前からミレーヌと距離を詰めてたっていうの?!!私たちずっとラブラブだったはずなのに…?!



 ゾイは、家柄や成績、魔力の高さから2年生にしてこの学園の生徒会長となった。そして3日に1度のペースで私を生徒会室に呼び出し、にゃんにゃんしていたのだ。本当は婚姻前の貴族が、こんなことあってはならないのだけれど。



 私の知らない間に、2人は2年も前から密会してたというの?!

 


「違うわゾイ。ゾイが声をかけて来てくれたのは1年生の秋だったじゃない!」



 ミレーヌがゾイの腕を組んで身体を寄せた。



 は???今なんと??



 この女、純粋で天然キャラのはずなのに、あざとさがチラリと垣間見えている。



 この学園は15歳から入学し、5年間の授業課程を経て卒業する。生徒は主に王族、公爵、侯爵出身の上位貴族が入学でき、卒業後は国務に就いたり家業に就いたり、結婚したりとそれぞれの道を歩む。


 のだが、庶民であるミレーヌは特別奨励枠で入学が許可される。ミレーヌには、本来庶民にはないはずの、類まれなる力が備わっているのだ。



 それよりも今は、"1年生の秋からの浮気"についてだ。



「う、うそ…、だって私たち、ずっとラブラブだったじゃない!」


「まあそうだな、お前前世からいい身体してたし。てか王族は側室もありなんだから別に悪いことじゃないだろ。」



 プチンッッ


 

 張っていた糸が音を立てて切れる。



「ふ…ふざけんじゃないわよ…。」


「は?」


「ふざけんじゃないわよぉぉおおおお!!!!」



 私は中指を立ててゾイを威嚇した。



 因みにこの中指を立てる行為は、決して "f××k"と下卑たものではない。



 私の元素魔法を起こすために使うキメポーズだ。よくある、ヒーローものなんかでキメ技を使う時のポーズ。



 

 このゲームの世界には、元素魔法という5大魔法が存在する。地、水、風、雷、火といったありきたりなものだ。


 ゾイは水属性の魔法が使える。上位貴族にはその血筋上、生まれし頃より魔力が備わっているのだ。狙われやすい貴族ならではの対抗策とも云われており、庶民は本来使えない。


 しかしそこはさすが主人公で、ミレーヌ・ランシーには類まれなる、"特異魔法"が備わっているのだ。



 



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