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case5-2.


「いいえ、私の力だけでやってみます。」


「出せないものを撃っても魔力を浪費するだけだ。」



 私は意地になっていたのもあって、レオの言葉にカチンときてしまった。



「大丈夫だから。あなたは手伝わなくていいって!」


「はあ?何ムキになってるんだ。ほら、あんたの大嫌いな男を出してやるよ。」



 荒野の向こうにゾイの土人形が地面から現れる。今日のは口の端を両側から引っ張り、変顔で私を挑発している。



「いやよ。撃たない。もうあんなものには何の感情もないもの。」


「本当か?じゃあもっと出してやるよ、ほれ。」



 私が意地になっているのが分かっているのか、レオが次々とゾイの土人形を出していく。


 非常口のマークのポーズなど、バリエーション豊かで、周りの騎士たちが笑い始めた。もちろんロザンナも。



 これじゃあレオの魔力の凄さを見ているだけだ。



「ふざけないで!!お願いだから私に構わないで!!」


「はあ?!どの口が言ってる?あんたを拾ってやったのは俺だぞ?」


「拾ってやった?爆弾の資金が無駄だから節約のために私を雇っただけの癖に!!」


「ふっざけんなよ?!このじゃじゃ馬女っ!!」


「うっさいわね!!この根暗総長!!」



 ついに前世の口調が出てきてしまった。無意識だから怖い。でもこういうやり取り、前にもした気がする。



「大体何だよその髪!!結局は振られたのを引きずってる証拠だろうがっ!!」



 ああ、すっごいムカつく!!!!



 私は人差し指と中指を天に向け、こう叫んだ。



「|コアハード·アローサンダー《憤怒の爆破》!!!!!」



 一本の光線のような物が指から飛び出し、それが丸い球となって、そこから無数の稲妻の矢が飛び散る。




 矢がゾイの土人形20体目掛け、全て頭上へと落ちると、一つ一つが大きな爆発を起こし、固い土が煙のように巻き上がった。



ド、ド、ド、ド、ドッカアアアァァァァーーーン



 地鳴りが響き、レオが咄嗟に私を守るように抱きしめた。



 鼓膜が破れたかと思うほどの音で、私も思わずレオにしがみつく。



 数分経ち、土埃がなくなり荒野が晴れてくると、周りの騎士たちが唖然としていた。




 そしてはたと気付いた私は、慌ててレオから離れる。



 どこからか軽やかな鳥の声が聞こえてきた瞬間、大きな歓声が沸き上がった。



「空から降ってきた矢が全て爆破した!!信じられない威力だ!!!」


「2人の力を持ってすれば魔獣退治など朝飯前だ!!」


「2人がいれば我が騎士団の名も揚がる!!」



 自分でも今だに信じられず、何度も自分の指を確認した。



「ほらみろ、俺がシシルの能力を引き出す役目なんだよ。」


「は、はあ?!」


「何避けてたか知らないけど、俺たちはもう運命共同体だからな。」



 レオが鼻で笑って、焼けた荒野の方へと走って行く。



 突き放したいのに、周りには2個1(にこいち)にされる始末だ。



 そしてロザンナは唇を噛みしめ、拳を固く握りわなわなと震わせている。


 きっと彼女が小隊長になったら、私はことごとくいびられることだろう。


 

 でもその日を境に、ロザンナたちは私に嫌味を言うことがなくなった。


 私の魔力が、"怒り"の感情で発動するものだとわかったからだ。私を苛つかせては、私の魔力が増すばかり。影で彼女たちがそう話していたのを聞いたとルチアが教えてくれた。




 それから何日か経ち、私の歓迎会をしてくれるとのことで、夕食に豪華な料理が振舞われた。



 因みに今日は、昔第3騎士団にいたという、近衛騎士の男も来ている。



 レオがその男をつれ、私の席に来た。王族の騎士である近衛騎士は上半身に甲冑を纏っている。私は失礼のないよう、立ち上がり、丁寧に頭を下げた。



「シシル、紹介する。彼が前に話していた近衛騎士のモーゼス・ディーンだ。」


「…この世界で顔を合わせるのは初めて、だな。」


「あ、初めまして。え?えっと、この世界ではって…?」



 モーゼスは黄土色の髪をオールバックにした男で、その表情筋は全く活用されていない。レオよりもずっと無表情だ。



「ま、覚えてないだろうな。マキは何度も脱走してたから。」


「…もしかして、ステラの人?」


「…ああ。」



 モーゼスはステラの幹部で、ポルト先生と同じくらい強かったのだとか。この世界では公爵家の子息でありながらも、レオを慕うあまり騎士になったのだそう。



 レオは、モーゼスが「魔力の高さを見初められて近衛騎士に引き抜かれた」と言っていたけれど、モーゼスは"公爵家"という爵位で引き抜かれただけだと話してくれた。



「でもレオを慕ってせっかく第3騎士団に配属されたのに、近衛騎士になってよかったの?」


「…最初は、ためらった。でも、近衛騎士になれば王族の情報が手に入る。」


「それはもしかして、派閥争いの情報ってこと?」


「…ああ。それだけではないが。」



 そういえばステラに捕まっていた時、情報をいち早く持ってくる男がいるっていってたっけ。


『何でここに隠れてるってわかったのよ!!』

『うちにはいち早く情報を掴んでくるのがいるからな。』


 その情報のせいで、私がステラから逃げた先の、パン屋の裏口のゴミ置き場にいるのがすぐに見つかった。けっこう距離を取ったと思ったのに。




 せっかくなので少しゾイのことを探ってみようと思う。



「そういえば、ゾイが王位を狙っているというのは本当なの?」


「ああ。元々は、第1王子が優勢だったのが、いつの間にか第2王子の功績が称えられるようになり、第2王子が優勢となった。その功績を手助けしたのがゾイだと云われている。」


「それがなぜゾイが王位を狙っていることになるの?」


「能力の高い貴族や騎士を選抜し、影で編成しているからだ。」


「ええっ?!ゾイが??!」



 レオとモーゼスの見解はこうだ。


 策略家である第1王子と権力争いをしても、負けるのが目に見えている。だから無能な第2王子の懐に入って継承権を優勢にし、第2王子とやり合えば簡単に奪えるという作戦じゃないかということだった。



「ヤマトは常にてっぺんを目指す男だ。この国でも王位を狙うのが自然だろう。」



 レオが腕を組み、当たり前だというように言った。



 はっきり言って転生してからはとてもそうには見えなかった。お腹はだるんだるんだったし、成績も落ちる一方だったし、マナーも言葉遣いも前世のまま直す気はなかったしで、とても彼が優勢になれるとは思えない。



「…そうだレオ。宮殿の湖のほとりに赤い翼の使い魔が死んでいるのが見つかった。」


「赤い翼の使い魔?!」


「足首には"2"のタグがついていた。…第2騎士団の使い魔だよな?」



 火竜事件で、第2騎士団員が近衛騎士宛に宮殿に飛ばしたと言っていた使い魔だ。


 飛ばしたのに近衛騎士の応援が来なかったのは、使い魔が湖に落ち、溺れて死んでしまったからなのからだろう。



「しかし使い魔の健康管理は専門医が常に行っているはずだ。突然墜落するなんて聞いたことがない。」


「…もしかして、宮殿の外壁にぶつかって湖に落ちたのかもしれない。」



 レオはしばらくその使い魔の様子を詳しくモーゼスに聞いていた。私は席にもつけず、立ったまま運ばれてくるご馳走を目で追っていた。



 でもレオとの話が終わったモーゼスが、キョロキョロと辺りを見渡す。



「ところで、ロザンナは元気か?」


「…ロザンナ?ロザンナなら、あそこに。」



 見ればちゃっかりレオの隣の席をキープしている。でもモーゼスがその空いているレオの席に座りに行った。



「···実はロザンナは、まだ騎士じゃない頃、無理矢理戦争に派遣されてな。」


「え···?」



 モーゼスとロザンナを見つめるレオが話してくれた。



「王族のお触れだか何だか知らないが、魔力が高いからと親元から引き離されたんだ。」


「そ、そんな···。」


「でも怯えるロザンナをモーゼスが戦時下で守り続けたらしい。それからモーゼスがロザンナを騎士にスカウトしたんだ。」


「そうだったんだ···。」


「そのせいかモーゼスはロザンナのことばかり気にかけてるんだよ。」



 ロザンナにそんな過去があったなんて知らなかった。今では高飛車で辛い過去なんて微塵も感じさせない彼女の姿に、私は少しだけ尊敬の念を抱いた。



 無表情のモーゼスがロザンナを見る目はどことなく柔らかい。もしかして気にかけているというよりも、好きなのかも。





 散々食べた私は、皆にお酒を注がれた。この国でも学園を卒業する20歳からアルコールの摂取が許されている。


 私がせっかく皆に歓迎してもらっているのだからと全てのお酒を飲むと、目を回し倒れた。



 修道院じゃ絶対にできない経験だ。



 気付けば私は医務室のベッドに寝かされていた。




「起きたか。」


「…レオ。」



 揺れるカーテンの外は真っ暗だ。



「せっかくの歓迎会なのに皆に悪いことをしてしまったわ。」


「皆飲み食いしたいだけだから気にしちゃいない。」



 さっきまでの騒がしさが嘘のように静かで、虫の音が聞こえてくる。



「…明日は休みだがどうするんだ?実家に帰るのか?」


「今帰れば、アンドリューにまた学園でのことを問い詰められるわ。明日は1人でゆっくりしようかと思って。」



 騎士団の休日は交代制で、週2日与えられる。休みの日は実家に帰ってもいいし、宿舎で過ごしてもいいことになっている。



「俺も明日は休みにした。…良ければ、その、また俺の屋敷に来ないか?」


「え?」


「アイリーンも会いたがってるし。」



 確かにレオの屋敷は豪華な暮らしだった。でも私はもう騎士団の団員だ。団長の家に行くというのは大丈夫なのだろうか?それにロザンナに知られれば、また目をつけられる。



「でも…」


「アイリーンが、シシルの好きなクッキーを焼くって張り切ってたし。」



 お言葉に甘えて行かせて頂きます。


 アイリーンの焼くクッキーは絶品だ。



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