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スライムクラスタ転生~異世界も みんなで渡れば 怖くない と思ったけど スライムだからナチュラルに死にそう~  作者: リコピン
第二章 人化成功(一部スライムを除く)、冒険者デビュー
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4-8

「おそろいの白ワンピなんてどうかなぁ?」


「…」


「ひょっとしたら染色ありなのかもだけど、ここはあえて、カレーもパスタも絶対に食べられないような純白のままで。」


「…」


「パフスリーブふわっふわの清楚系を着こなす姉妹って、なんかちょっと個人的に夢です!」


「…」


「マリちゃんヒナちゃんには是非とも着用していただきたい!」


「…」


アラクネ謹製の布地をどうするかのお話合い、私の欲望丸出しの要求にマリちゃんが渋い顔をしている。ヒナちゃんはヒナちゃんで「いいよー」って軽く答えてくれたけど、それはそれで大丈夫かな?つまり、スライムの傘の下に人型ヒナちゃんが居ることに、シノちゃんは気づいてますよーってことなんだけども―


「…ユージーはどう思う?マリちゃんとヒナちゃんの白ワンピ。見てみたいよね?」


「あ?…まぁ、魔法耐性、防御力を考えりゃ、アラクネの糸で全身カバー、…ワンピースってのは悪くない案だとは思うが…」


「…」


(そういうことじゃないんだな…)


援護を期待しての問いかけに返ってきた回答は安定のユージークオリティ。それでもその一言が、マリちゃんのハートにはなんだか響いたらしく、「まぁいいけど」って感じで、姉妹おそろいコーデを受け入れる雰囲気になった。


(うん。だったら、今がチャンス。)


マリちゃんが正気に戻る前にと、仕立てをお願いしにアラクネの糸を持ち込んだのは、頑固親父の武器屋。本当は、いつもの雑貨屋さんにお願いしたかったんだけれど、「魔物素材を扱わせたら、武器屋の親父が一番」とかなんだとか、当の雑貨屋さんに力説されてしまったから、大人しく引き下がった。


武器屋は武器屋で、持ち込んだアラクネの糸の品質?魔力含有量?とやらに大興奮の末、信条である「モンスターお断り」するのも忘れて、ユージーを拝み倒し始めた。曰く、「仕立てで出る端切れを引き取らせて欲しい」とのこと。二人分の服を作ったら、残りなんてほとんど無さそうなサイズの布地、その端切れを融通すれば仕立て費用は不要って言ってくるくらいだから、アラクネさんの糸、本当、半端無いな。


最終的にユージーが親父の要求を承諾し交渉が成立した時点で、親父のテンションは最高潮、「明日の朝には仕上げる」っていう頼もしい言葉まで頂いたので、全てお任せで店を出た。その後、やけにチラチラする視線を浴びながら宿に帰ったのだけれど、そこで漸く視線の理由も判明した。


どうやら我々は「女王級」のアラクネの討伐に成功し、最高級のアラクネ糸を戦利品として持ち帰ったということになっているらしい。確かに、アラクネさんに糸はもらったけど、


『女王級かぁ。アラクネさんは「女王は死んだ」って言ってたよね?』


『あいつが群れの頭ってことは間違いなさそうだったからな。…似たようなもんなんだろ?』


『ふーん?』


思いの外イイモノを頂いていたらしいことを知り、心の中でもう一度アラクネさんに手を合わせておいた。


そして翌日、改めてメイドバイアラクネさんの凄さを思い知ったのは、武器屋の親父による容赦ない早朝訪問をうけたから。親父が「服の納品と端切れの譲渡確認」に現れたのは、夜が明けた直後。いやまあ、一応もう起きてたし、納品されたワンピース二着は布地をケチったりせずに希望通りのものを仕上げて来てくれていたからいいんだけども。


嵐のような男だったと思い返しながら、ワンピースを受け取ったヒナちゃんがスライム傘の下でゴソゴソするのを見守る。


『…ヒナちゃん、どう?着れる?小さかったり大きすぎたりしない?』


『うん。ぴったり。』


『そか。なら良かった良かった。』


見たい。白ワンピのヒナちゃん、メチャクチャ見たいけれども、ヒナちゃんが自主的に「傘の下」を見せてくれるまでは我慢するって決めているから見れない。その分、


『うん!マリちゃんもサイズぴったりだったね!可愛い!清楚!お嬢感にじみ出てる!』


『…』


白ワンピが鬼のように似合っている人型マリちゃんを思う存分愛でるスタイルでいく。


『ユージーユージー!ユージーも入ってきて見て!マリちゃん見て!』


(そして、心ゆくまで堪能し、褒め称えるがいい!)


レディ達の着替えの間、部屋の外に追い出していたユージーを大声で呼び戻せば、ギシッときしんだ扉が開いて、


『…』


『…』


『…』


(って、何も言わないんかーい!)


視線はバッチリ交差してる二人、何ならユージーの視線がマリちゃんの全身サッて眺め回してったのもわかった。なのに、ユージーは黙ったまま。


(一言!一言でいいのよ!何でもいいから、一言あるでしょう!?)


私の懸命な(エール)が届いたのか、「あー」とか「うー」とか、言葉を探し始めたユージー、漸く言葉になったのは、


『…袖は長い方が良かったかもな。…その方が腕まで守れて防御範囲が広かった…』


『…』


『…』


(…違う、違う、そうじゃ…)


そうじゃないって私の思念は、飛ばすまでもなくユージーに伝わったようだ。自分でも途中で違うって気づいたらしい男の語尾がゴニョゴニョってなったから。それから、


『…あー、そろそろ出るか。依頼確認しにギルドに行く時間だろ?』


(…逃げた。)


着飾った女子を誉めるスキルを持ち合わせない男の敵前逃亡。過剰に期待はしていなかったつもりだけれど、時間はたっぷりあったはず、流石にこれはヒドイ。君には失望したって口ほどに物を言う眼差しで、心中(しんちゅう)、ユージーをディスってたら、なにやらユージーとマリちゃんがもめだして―


『いや、だから、アラクネの糸で出来てる貴重品、…俺らの所有物ん中じゃ一番狙われやすいもんだろうが。部屋に置いとく危険を考えりゃ、俺のバッグで持ち歩いた方が、』


『絶対にイヤ!』


『スライムに戻った状態じゃ、自分で服なんて持ち運べねぇだろ?だから、』


『じゃあ、もうスライムには戻らない!』


『っ!何でそうなんだよ!?』


どうやら、マリちゃんがスライムに戻った後、今着てる服をどうするかって話なんだけど、「自分が脱いだ服」に対するマリちゃんの乙女的恥じらいが、ユージーには毛ほども見えていない。


『ただでさえ人目を気にしなきゃなんねぇのに、んな目立つ格好でうろつく危険を考えろ!』


『…わかってる。けど、それでも、私は人型がいい…』


『…』


日頃、愚痴は言っても、我儘は言わないマリちゃんが我を通してる。理由は服だけじゃないのかもしれないって察しちゃうくらいの頑なさに、余計な口をはさんでみた。


『…別にいいんじゃない?リドは捕まったし、ポールも最近は大人しいし。それでももし、ユージーが心配するような事態になったらさ、その時は逃げちゃおうよ。』


『…』


『懸念事項の防具は一応揃った。町を出る旅費もそれなりに貯まってる。敗走の準備は出来てると思うんだけど?』


『…なんで、服一つの話でこんな…』


『まぁまぁ。』


ため息ついてるユージーは、マリちゃんの真意が服以外にも有りそうだってことには気づかないまま、それでも最終的には折れて頷いた。喜ぶマリちゃんに、「ありがとう」って援護のお礼を言われて、私も嬉しい。


その日の夜、人型のマリちゃんと同部屋で就寝することに気がついたユージーが騒ぎだして、またひと悶着あったものの、まあ、そんなのは些事些事。悶着の勝者は言わずもがなマリちゃんだったし、翌朝もご機嫌なままの美少女と一緒に居られて私も嬉しい。


以前ほど追い詰められるような感覚も視線も感じることなくギルドに乗り込むことが出来た。結果、周囲の興味はひいてしまったものの、マリちゃんに向けられる視線に思ったほどの煩わしさも不愉快さもなく、依頼だって問題なく受注することが出来た。


前途洋々、よっしゃ今日も稼ぐぞー!の気合いでくぐったギルドの出入口、踏み出した屋外、日の光の下、そこに居たのは、


「っ!?お、お前ら!」


(げー。)


最悪のタイミングで出くわしたポール。目を剥いた男がマリちゃんの顔、それから着ている服を眺め回して、最後に、こちらを見下ろしてきた―


「っ!」


(って、え!?えーっ!?)


こちらを見た途端、顔色を失ったポール。バッチリ目撃してしまった、人の顔からリアル血の気の引く瞬間。何だ?って思う間もなく脱兎のように駆け出した男の後ろ姿は、あっという間に視界から消えてしまった。


『え?え?何?何なの?誰かスキルか何か使った??』


『…いや。』


『私も…』


困惑のまま後に残された状況。追い払えた?と言うのだろうか?とにかく、ヤツの方から消えてくれたことは非常に有難いのだけれど、うん、マジなんなん??








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