1-8
『『『…』』』
『?』
『…よし…』
『よし?』
『これで全員、大体何が出来るかってのはわかったな。』
あ。ユージーも、結局、ヒナちゃんのモロモロについては見なかったことにするんだね。
(よし!)
『そうだね!うん!それで?これから、どうするの?』
問題は後回し。これが大人の対応。
『…』
おかしい。目の無いはずのマリちゃんから、蔑みの視線を感じる気がする、おかしい―
『…ステータス見てわかったことは、俺達には「レベル」が存在するってことだ。このレベルを上げれば強くなれるはず、だから、まずは、これを上げるのを優先しようと思う。』
『なるほど?』
『スキルについては、よくわからない部分もあるからな。意識共有以外のスキルが全員ばらばらなのは、恐らくこれが「称号」に紐づいてる「称号スキル」だからってことなんだろうと思う。これは、レベル上げしながら、各々確かめて…』
ユージーが言い淀んだ。ヒナちゃんをチラチラしてる。助け船助け船、
『えっと!確かめたり、確かめなかったりするんだね!』
『…そう、だな。封印、えーっと、しばらくは使わないでおいた方がいいスキルもあるから、当分は勝手にスキルを使うのは控えて欲しい。』
『わかった!』
ユージーが、ヒナちゃんと、それからマリちゃんの方をしっかり見て、
『…チーム戦、だと考えてくれ。俺を監督、とは言わないが、キャプテン、リーダーだと思って欲しい。』
『…嫌だって言ったら?』
ちょっと棘のあるマリちゃんの言葉にも、ユージーは頷いて、
『理由も言え。それで皆が納得がいけば、拒否してくれていい。ただ、基本、個人の意思よりもチームとしての利益を優先するって考えておいてくれ。』
『…わかった。』
『助かる。』
仲直り?ではない。だけどちゃんと、マリちゃんと会話を、対話をしようとしてるユージー。それが、自分の生存条件のためだとしても、「群」としての私達をまとめようとしてくれてる。
『…ユージーは、すごいね。』
『…何だよ、急に。』
『こんな状況になっても、ちゃんと皆のこと考えて、対応しようとしてるから。』
それだけじゃない、
『「ステータス」とか、「スキル」とかも。そういうの、調べて、見つけてくれたでしょ?私じゃ、そんなの気づけなかったし、何していいかもわからなかった。』
だから、ほんと、
『ユージーが居てくれて良かった。』
『やめろ…』
『やめないよ!本音だからね!実際、仕事の出来るスライム、ユージーにスゴく助けられてるよ?』
『マジでやめろ。そういうんじゃねえから。』
謙遜?でも、ないな。本気でイラついてる?何故?どこにそんな怒らせる要素が―
『こんなんは、俺の力じゃない。先人の知恵にあやかった、ただの飽くなきシュミレーションと弛まぬイメージトレーニングの結果だ。』
『はは。何それ。』
よくわからない、けどやっぱり、ユージーのおかけじゃないかと思った。でも、本当に居たたまれなさそうだったから、それ以上、深掘りするのは止めてあげる。代わりに、
『レベルを上げるって、何するの?』
『…俺達の、スライムって特性を活かせないかと思ってる。』
『ほほう?』
実用的な話に、平常運転に戻ったユージー。
『多分だが、俺達スライムは、食い物を選ばないんじゃないかと思ってる。だから、取り敢えずは食いまくる。』
『え…?』
『食う、というか、溶かして、養分を吸収する感じか?今のレベルじゃ、モンスターを倒してってのは無理だろうから、それこそ、草とか虫とかを見つけて、食う。』
『虫…』
『『…』』
いけるか?いけるだろうか?スライムだからな。いける、のか?
『…草でレベルアップなんて、出来るの?』
マリちゃんの指摘に、確かにって思う。たが、草なら。草ならいける気がするんだ。だから、草一択でも―
『レベルアップは厳しいかもな。まぁ、最悪、ただの栄養補給、上手くいけば、巨大化くらいは出来るんじゃないか、とは思ってる。』
『…』
無念。草じゃ強くなれないらしい。好き嫌いは駄目。バランスの取れた食事、大事。
『で、まずは、ここ。俺達が居るこの洞窟から始める。敵になるような奴が住んでないか確かめる必要もあるから、食い物を探しながら洞窟の中を一通り調べよう。』
『…了解。』
『んじゃー、俺のMPも少し回復したし、さっそく行くか。体感的には三十分くらいで2MP回復、したか?』
ウニョウニョと動き出すユージー。マリちゃんとヒナちゃんが続くのを待って、最後に続こうとしたら、ユージーに止められた。
『俺が先頭を行く。ヒナコとシノは真ん中入れ。マリカは最後尾な。』
『え?何で?私が一番後ろ行くよ?』
なんたって「おかん」ですし?最後尾でしょう、と思ったんだけど、
『…「回復」使えんのが、お前だけだから。お前が真っ先にやられたら困るんだよ。…マリカも、それでいいだろう?』
『…いい。』
(なるほど。)
そんなこと、考えもしなかった。でも、確かになーって納得はいったから、マリちゃんがそれで良いならって、ヒナちゃんと並んで歩きだす。
虫、居ませんようにって、お願いしながら。