3-14 Side Y
『イッヤァァアアア!!ムリムリムリ!メッチャ恐い!デカイ!可愛くない!図鑑と全然違うじゃん!?ドブネズミ感ハンパない!恐いー!!』
グリーディラットの姿を認めた途端、シノが発狂した。発狂して―
『来ないで来ないで!!ヒナちゃんに近づかないで!恐い!汚い!汚物、は言い過ぎかもだけど、消毒ー!!』
『…』
赤色に発光する目、鋭い門歯を覗かせて迫るラット達、その先頭にいた一匹に、シノの火球がぶち当たる。
『見える!見ちゃった!何か、え?ネズミみんな黒くない?赤?全身血ミドロ!?ッ!?無理無理無理ー!!』
『…シノ、落ち着け。』
消毒だと叫びながらも、しっかり加減はされているシノの火球。火炎放射による火の海なんて地獄絵図には成らずに済んでいるが、
『落ち着くために叫んでんの!叫ぶことで精神の安定をはかってるんだから、っ!イヤー!?ユージー、外したー!』
『…大丈夫だ。』
直径三十センチ大に開けられた横穴、シノの火魔法を避けた一匹がこちら目掛けて走ってくる。その、動きを止めて、
『問題ねぇよ。』
ナイフによる一突き。黙したまま、ラットが地に崩れ落ちた。それを脅威と感じたか、グリーディラットの群れの勢いが止まる。
『うっうっ。何で、何でこんないっぱい。』
ラット達を見据えたまま泣き言を言うシノを、宥めるつもりで言葉を探す。
『…落ち着けよ。数は多いが当初の予定通りだろ?一匹一匹は大した攻撃力もねぇ、落ち着いて対処すれば、』
『数が多いのが問題なのー!あれ?私、言わなかったっけ?ネズミさんが苦手です、でも、ウジャウジャ居るネズミさんとは一生お会いしたくなかったです!って!』
『…物理防御は強化してんだから、何匹に襲われようがダメージは通ら、』
『視覚の暴力ー!!』
『…』
『うっうっ。…分かり合えない。…押入れで冒険したことないタイプの人とは、一生分かり合えな、っ!?ギャァアアア!!』
『…』
再び穴から溢れだしたラットの先頭に、シノの鋭い火球が飛んだ。その身体が、一瞬で消し炭になる。続け様に、二発、三発と決まる火球に、シノが大騒ぎするほどの事態ではないと判断した。
(…いける。)
攻撃が通る。数は多いが、それだけ―
『シノ、デカイのから潰してけ。デカイ方がレベルが高い。』
『わか、っ!イャァアア!跳ぶな跳ぶな!こっち来んなー!!』
『…』
大騒ぎしながらも、シノが火球を飛ばす。跳躍したラットが空中で焼け焦げた。落ちた仲間を踏み越えて突進してくるラットたち。
シノの攻撃をすり抜けたラットの一匹が、こちらには見向きもせず、リドの投げ込んだ肉塊に飛び付いた。その隙をついて、ナイフで一突き。ラットが小さく泣いて動かなくなる。
『ユージーユージーユージー!もう半分!?もう半分くらい倒した!?』
『…いや、半分も残ってねぇ、…元から百も居なかったんだろうな。リドのはったりだったのか、狭い空間で腹をすかせて共食いでもしたか。』
『共食いっ!?』
『ああ。…安心したか?』
『…』
ラットの数に安心したのか、シノが大人しくなった。火球は、的確にラットを射ぬいていく。
『…スナッピングパンプキンやドライアド相手にしてきた成果が出てんな。』
『…』
『お前のエイムにはあんま期待してなかったんだが、かなり正確に当たるようになってる。』
『…』
『昨日の詠唱短縮の特訓も効いてんじゃないか?今どれくらいで発動出来てる?昨日は、「熱いから」くらいが限界だったが、「熱い」一単語くらいにはなってんじゃねぇか?』
『…』
『まあ、最終的には無詠唱、多重詠唱までいければ、』
『…ユージー、もう、ちょっと黙っててくれるかな?』
『は?』
『色々、突っ込みたくなるから。…全然集中できない…』
言って、完全に黙り込んだシノ。火球をフルオートで撃ち始めた。
(…まあ、リコイルは無いし、残弾管理は…、こっちでして、マズくなれば止めればいい、か…)
問題は無い、そう判断してシノの勢いに任せる。後は彼女の望み通り、黙って、撃ちもらしのラットを潰し続けるだけ。




