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スライムクラスタ転生~異世界も みんなで渡れば 怖くない と思ったけど スライムだからナチュラルに死にそう~  作者: リコピン
第二章 人化成功(一部スライムを除く)、冒険者デビュー
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3-8

「…ふーん。じゃあやっぱり、あの依頼者の人、ヒーリングウォーターメロンの存在知ってたんだ?」


マリちゃんが、呆れたようにため息をついた。


「ああ。認めた。ただ、自分はちゃんとヒーリングウォーターメロンの駆除も依頼するつもりだった、依頼書に載せなかったのは人に脅されたからだって主張してたけどな。」


「何それ。」


依頼者を連行の上、畑の惨状、もとい、カボチャ駆除完了を報告していたユージー。それに通訳として付き添った私の代わりに、お掃除ロボットと化してくれていたマリちゃんに、結果報告をした。依頼者相手に若干オラついていた珍しいユージ―の姿に、ちょっと心配になっていたらしいけれど、ヤラかしてた依頼者の話を聞いて、同情の余地は無いと判断したらしい。


「で?誰に脅されてたの?私達の依頼の邪魔したかったってことだよね?」


「…誰に脅されたってのは最後まで言わなかったが、まあ、多分、あいつだろ。…不自然に、一個だけ残ってた依頼だからな…」


「…ウザいやつ。」


マリちゃんの暴言に同意。


「そだよね、いちいち小さいんだよねぇ、ポールは。ウザい感じにイラッとは来るけど、やることが、本当に微妙。」


「…推測だが、一応、ギルドに言い訳がきくよう、表だっての行動は避けてんじゃねぇか?冒険者同士の私闘は禁じられてるとか、その辺のペナルティがあるのかもしれねぇ。」


「サラさん、その辺の説明、『全略』だったもんねぇ。」


ギルドの規律とか、聞かされていないことなんて多々ありそう。それって、こちらから一つずつ質問しなければならないんだろうか。しんどいし、めんどいのでしたくない。


「…まあ、ただ、今回に関しては、依頼者に依頼料の追加をきっちり請求しといたから。倍額の二万レン。結果としては、悪くない。」


「そう!日給二万レンのお仕事になったんだよ!」


グッドなユージ―のジョブに、マリちゃんも良かったって頷いてる。確かに、この時給なら悪くはないよね。ヒナちゃんにしっかりとしたご飯を食べさせられる稼ぎ。うん、いいね!


現金なもので、労力に見合うお給料が支払われるなら、契約違反も契約更新として認めてあげようって気になってる。美味しいご飯を食べてもまだ貯金に回せる金額、ヒナちゃんの防具貯金。


ホクホクしながら―ポールのことは秒で忘れた―ギルドに帰り、ユージーが完了確認のサイン済み依頼書をサラさんに提出しようとしたところで気がついた。


『…何か、慌ただしい?』


『だな。』


ギルド内の落ち着かない雰囲気、レティさんの受付前に人がいない。ユージーが現れたのに、こっちを観察する視線も、侮蔑する視線も、それからサラさんからの罵倒も。


『…シノ、通訳オンに。』


『了解。』


ユージーが、カウンター向こうのサラさんに話しかける。


「…何があった。」


「…あんたには関係ないわ。」


「…ギルドに人が少ないな。…大型モンスターか高難易度モンスターの討伐任務か何かか?」


「…E級冒険者には無関係の話よ。…依頼料、さっさと受け取って帰りなさいよ。」


「…」


依頼料が増額になっていることへの突っ込みも何もなし。ただ、本当にさっさと帰れって雰囲気のサラさんに、ユージーもそれ以上を尋ねずにギルドを後にした。


『…帰るの?』


『いや、裏だ。査定所に行く。…本当に俺らに関係ない話なら問題ねぇけど、知らない内にピンチってのはシャレになんねぇからな。』


『なるほど。』


裏に回れば、そこではいつものようにハンスさんが受付を、おやっさんが何かの解体作業をしていたけれど、こちらの姿を認めると同時、おやっさんの方から近づいてきて、


「…お前ら、今日は林には行かなかったんだな?」


「…」


(…えーっと?)


その言い方だと、今まで我々が林に出入りしてたことがバレバレというか、気づかれてたというか、見逃してもらってたというか、…何で知ってるの!?


「…林の向こうに、ドライアドの群れが発生してる。既に数十体規模、周囲の草木を枯らし始めてるみてぇだから、いいな?お前達、絶対に近づくなよ?」


こちらの驚愕とか、後ろめたさとか丸無視で、本気の忠告をしてくるおやっさん。おやっさんの言う「ドライアド」というのが何なのか、話の流れから「モンスター図鑑」を引いてみたら、確かにあった、「樹」の絵。


ドライアド。精霊種、樹木を模した姿形で人を惑わし、移動は出来ないものの、根を伸ばすことでその支配圏を広げる。支配圏に入った生き物を養分とし、増殖するモンスター―


「…数十ってことは、エルダーがいるのか?」


「ああ、少なくとも一体は確認されてる。」


ユージーとおやっさんの会話に首を捻る。何のこっちゃと思いながら参考欄を確認したら、確かにあった「エルダードライアド」の記述。要するに、他より長生きしたドライアドのことで、仲間を仕切って支配圏を広げる、親玉みたいなやつ。エルダーは積極的に「ドライアドの森」を広げようとするから厄介、らしいんだけど、


「…何故そうなるまで放っておいた?山奥じゃねぇんだ、発生初期に焼いておけば…」


(そうだよ、そうだよ。ドライアドは増殖前に焼く!それが定石でしょ?)


と、たった今、図鑑から得た知識をひけらかしてみる。


「…まあな。その通りなんだが、ギルドじゃ、林と周辺の草原への出入りを禁じてただろ?そうなると、そこを迂回して林の向こうってのは、まず行き来が面倒なんだ。」


そのせいで冒険者達の足が遠退き、自然、ドライアド発見も遅れてしまったと聞けば、うん、もう、


(本当!うちのマスターがすんませんっした!)


って、謝るしかない。ごめんなさい。


「…討伐の、目処は立ってんのか?」


「エルダーが居るとなると、普通の火で焼くってのも難しい。火力勝負、火魔法使える連中を集めるしかないが、町を離れてる奴らもいるからな…」


「…頭数が足りない?」


「…数日かけりゃあ、応援も呼べるが、その間にも、奴らは増殖する。…街が飲まれるってことはないと思うが…」


森やら林やらの大切な資源が栄養奪われて枯らされて、草原から生き物が消えるっていうだけ、か―


想像して、起こり得る最悪な事態に、寒気がした。しかもその遠因に、少なからず身内が関わっているとなると余計に。


「お前達に出来ることはないから、宿に帰って寝ろ」っていうおやっさんの言葉はごもっとも。エルダーのいるドライアドの群はC級モンスター相当、街のギルドがピリついて、所属冒険者達が殺気立つレベルの話だ。駆け出し冒険者とテイムモンスターのスライムには手に余る類いの。


だけど―


『…ごめん、ユージー、お願いがある。』







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