3-6
「シノ、お前、こっから、あれ焼け。」
「え?雑!何そのざっくり過ぎる指示!」
びっくりした。どうしたんだろう、ユージー。疲れてんのかな?びっくりするぐらい適当にやれって言われた。
「ユージー、いいの?ちゃんと言ってくれないと、昨日みたいな大惨事が引き起こされる可能性があるよ?私はその可能性を否めないよ?」
「…」
やはりお疲れらしいユージーが、はぁってため息をついて、
「…スナッピングパンプキンは土属性、水属性の攻撃は通りづらい。物理防御も高いから、ナイフで倒すのも難しい。」
「ほう?」
「だから火魔法だ。…迂闊に畑に踏み込めば蔓に捕まっちまうから、この距離、畑の外から攻撃する。」
「ほほう?」
なるほど、わかった気がする。じゃあ、あとは、
「試し射ちだね!『火属性魔法』の!」
「ああ。…延焼させたら恐いからな。昨日みたいに、最初は出力最小限でやってみろ。」
「了解!」
言われた通り、小ささを意識して「呪文」を唱える。
「『熱いから気をつけて』」
「…」
「お!お!良い感じ!ね?ユージー、これ良い感じだよね?」
「…まあな。」
唱えたと同時、目の前に浮かんだのは野球ボール大の火の玉。それが、フワフワと宙を漂って、
「あ!消えた!」
「…長時間持続できるわけじゃないのか。…シノ、次は発動したら直ぐ、敵に向かって射出、…飛ばしてみてくれ。」
「わかった。」
もう一度、呪文を唱えて生まれた火の玉。それを前に飛ばす、投げる感じで、思いっきり。ヒューッと飛んでいった火の玉が、一番近い場所のカボチャにポコンと当たって、
「あ。」
火の玉が当たったカボチャが激しく暴れだした。蔓で地面に繋がっているせいか、一定距離以上は移動できないようだけど、それでも激しくヘッドバンギングをキめるオレンジヘッドは、その動きで火を消してしまう。
「…半分くらい?焦げた?」
「…HPもまだ半分残ってんな。」
ユージーの言葉に、もう一度、火を投げようとしたら、
「シノ、待て。」
「なに?」
「あいつらの魔石は体のど真ん中。種と同じ場所に小さな粒みたいなのがいくつか入っているらしい。…真ん中は焼くな。」
「…どうしろと?」
「側面を抉れ。」
「えぐ、…」
無理じゃない?無理だよ。抉れって、そんな豪速球、飛ばせる気がしない。なのに、
「やってみろ。」
「うー。やるけど…」
強制されて、やってはみるけど。期待はしないで欲しい。
「『熱いから気をつけて』」
生んだ火の玉を、力の限り前に向かって飛ばす。さっきよりは幾分速くなった火が、
「…」
「…完全燃焼。」
また、ポコンと当たってカボチャの残りを焼き付くした。炭化したカボチャがボロリと崩れる。
「…魔石も焼けちゃった?」
「…」
露出した内部。内まで真っ黒に焦げたそこに、魔石を見つけることは難しそう。
「…次、次ね!次は見事にドテッパラ、…ドテ脇腹?いや、アレ顔だから、ドテ頬?まあ、その辺に風穴開けて見せるから!見てて!」
「…」
「『熱いから気をつけて』ウリャッ!」
「…」
「…難しいね。頬を射つって。あの顔かな?あの顔が悪いのかな?見てると、正面にぶつけたくなるよね?」
「…」
今度は一撃でこんがりしたカボチャは、暫く暴れて動かなくなった。
「…大丈夫大丈夫。もう、コツはつかんだから。次は、うん。本当いける。真ん中残すよ!」
「…」
真っ黒焦げのカボチャの向こう、少し離れた距離にあるニヤニヤ笑いのカボチャに狙いを定める。
「『熱いから気をつけて』エイッ!」
「…」
「えー…」
カボチャの側面を、掠りもせずに飛んでった火の玉は、地面に着弾すると同時、蠢いたカボチャの蔓と葉っぱでバタバタ叩き潰されてしまった。
「…シノ、せめて本体に当てろ。今のじゃHPが全く削れてねぇ。」
「Oui Oui」
「…畑の外も焼くなよ。延焼がこえーからな。」
指示が細かくなってきたユージーに安心しつつ、次弾を放つ。ニヤニヤ笑いがイラってくるカボチャ目掛けて。
「…あれ?また外した?」
「…逆に、何でこの距離で外せんだよ、お前は。」
「待って、待って、大丈夫。肩、暖まってきたとこだから、こっから、こっからだから。」
言って、もう一度投げた玉は、カボチャを掠めて葉っぱに落ちた。おかしいなーと思いながら更に三連撃、最後の一撃でニヤニヤ笑いを仕留めた。仕留めた、けど―
「…ユージー、カボチャって、あと何個くらい残ってる?五十個くらい?」
「…どう見ても百近くあんだろ。」
「…なるほど。」
「…」
火の玉一個にMPを5消費する。一体倒すのに六発かかったから、計30MP。カボチャはまだ百体―
漂う嫌な気配に、最初に動いたのはマリちゃんだった。
「…ユージ、レベル9以下のパンプキンっている?」
「ああ、まあ、大体、レベル10前後、8、9あたりのもそこそこいる感じだな…」
「わかった。じゃあ、レベル9以下のを選んで、ユージが麻痺かけて。私、食べるから。」
「…まあ、やってみるか。…ただ、俺の麻痺も多分六十秒くらいしかもたねぇからな。何回かかけ直すとしても、一体を五分くらいで食うことになるぞ?」
「…頑張る。」
決意漲るマリちゃんの言葉に申し訳なくなる。大食いの次は早食い。一女子高生にスッゴく過酷なことさせてるんじゃ―
「シノ。」
「…はい。」
「いいか?お前はもっと良く狙って飛ばせ。魔石はもういいから、出来るだけ一発で倒すようにしろ。」
「はい。」
「どんなに多くても三発だ。三発以内に必ず倒せ。」
「はい。」
これはもう絶対、「無理」とか言えない空気。やる。やるしかない。




