3-2 Side Y
依頼書に書かれていたジャイアントビーの巣。「入口入って直ぐ、道を逸れて川のある方に」との説明はあるのだが、地図を見ても、その川がわからない。仕方無しに「索敵」を使い、道を逸れた。
木立の中を進みながら、真後ろに居るシノに確認する。
「シノ、お前、モンスター図鑑でジャイアントビー、調べたか?」
「うん!ちゃんと見たよ!デッカイ蜜蜂なんでしょ?お尻の針に刺されると麻痺しちゃうって。でも、死にはしないって書いてあった。」
「ああ。」
依頼のランクもE、大した難易度ではないことは確か。ただ、その麻痺がどれほどの威力で、どの程度持続するのかは未知数。恐らく、相手と自分のレベル差も関係してくるのだろうが、本来なら、ソロでの討伐は危険な部類。針で死ぬことはなくとも、動けないところを他のモンスターに襲われればひとたまりもない。
「…シノ、余裕があれば、お前の『早く起きなさい』、試すからな。」
「うん?刺されるってこと?」
「…わざわざ刺される必要はないが、もし刺されたらってことだ。一応、麻痺消しのポーションも買ってあるから、お前に余裕無さそうだったらこっちを使う。」
「らじゃ。」
自分やマリカの麻痺はシノのスキルでどうにかなるだろうが、シノが刺された場合、そもそもスキルを発動出来るのかもわからない。使えれば、それに越したことはないが。
「…あった。」
「どこ?」
三度目の索敵で見つけた、「敵」の塊。複数の気配が一ヶ所に集まっているその場所に、目視でもわかる巨大な巣。立ち枯れた巨木の洞にはまりこむようにして作られた―
「あれ?あのデッカイ壷、…瓶?みたいなやつ?」
「…ああ。間違いない。中に、五十匹くらい入ってやがる。」
「えー?あれは蜜蜂じゃないよ!あの巣の感じはスズメバチ系!絶対、お花畑とかには居ないタイプ!」
まあ、確かに。巣の上部に開いた穴から一匹、二匹と出入りする蜂の様子は、その大きさも相まって不穏な空気を放っている。離れた距離からも視認できる大きさ、人の手のひら大の巨大蜂―
「…シノ、マリカ。」
「ウイ。」
「…なに?」
「こっから見える奴らのレベルは7から10。…恐らく、格上のレベル9や10の奴らには俺の麻痺やマリカの印象操作は効かない。」
「…どうするの?」
「シノの、水魔法でいく。」
「『手ぇ洗った?』するんだね?」
「…」
シノの、このふざけた名前のスキルについては未検証。万一の可能性を考えて、室内、人目のある場所での試し打ちはしなかった。だから、未だその効果は不明。思うとおりの効果が発動されれば、問題は無いが―
「…ジャイアントビーはそもそも水に弱い。羽が濡れると翔べなくなる。直接水で攻撃するか、巣を水攻めして弱らせてしまえば、群で襲われる心配はなくなる。」
巣の構造から、例え逃げられたとしても少数、逃げ出した奴らは一匹ずつ仕留めればいい。最悪、スキルの効かない場合は、麻痺覚悟での接近戦、ナイフで狩る。
「…シノのスキル次第なところがあるからな。一度先に、スキルを確かめる。試し打ちするぞ。」
「了解。」
「…最初は、出来るかどうかはわかんねぇが、なるべく出力弱めて、…力を抑えて発動してみてくれ。」
「ウイ。」
こちらの要求に頷いたシノが、距離をとる。皆から離れ、ジャイアントビーの巣とは反対の方向に向けて、
「『手ぇ洗った?』」
「…」
「…」
「…なるほど、そういう感じか。」
目の前の光景、発動したスキルは確かに水を生んだ。空中から、水が下へと流れ落ちる。ちょうど、捻った蛇口から水が出てくるように―
「…シノ、これ威力はもうちょっと上げれるか?」
「やってみる。…『手ぇ洗った?』」
「お?」
「ウギャア!跳ねる跳ねる!?」
威力が増した水、全開にした蛇口から勢い良く水が出てくるレベルに。地面に流れ落ちた水が大きく跳ね、泥混じりの水飛沫がシノの顔辺りまで跳んでいる。
「…まぁ、いいんじゃねぇか?攻撃魔法ってより、生成系の、水不足の時なんかに役に立ちそうなスキルだが、ジャイアントビーの巣を水没させんのには十分。」
「うん。あと、多分、もう少し強くは出来そう。バケツの水くらいなら。」
「へぇ、いいな。それくらい出せりゃあ、確実だろ。」
水を一気に流し込めれば、奴らが逃げ出す時間を奪える。
「…よし、やるか。」
ヒナコと、その側にバックパックを残し、シノとマリカを連れて巣の近くへと移動を開始する。奴らの、警戒範囲ギリギリまで距離を縮めて。
「…シノ、この距離から出せるか?巣の真上辺りで発動させて、穴に水を流す感じで。」
「うん。いける。…ただ、威力高めたら、穴から溢れないように流し込むのは無理かも。もっと、周囲ごとザバッていっちゃいそう。」
「…そうか。まあ、いい。だったら、なるべく威力を高めて、外れたり、巣が壊れたりしたら何発か連発、なるべく全員水に浸すようにやってみてくれ。」
「ん。わかった。」
シノの返事に、マリカを少し後退させる。
「マリカ、ヤバそうだったら人化してでも逃げろ。バックパックに麻痺消しポーションがあと二本入ってる。俺とシノがやられたら、頼む…」
「…わかった。」
返事をもらって、ナイフを構える。万一のポーションは、腰ベルトに。
「シノ、いいぞ、やれ。」
「…っ『手ぇ洗ったー!?』」




