3-1 …待たせたな (意訳:攻撃魔法を覚えたよ!) Side Y シノLv.10
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名前:シノ
種族:スライム(キメラ)
LV:10
HP:100/100
MP:1250/1250(+1200)
スキル:
意識共有(スライム)
早く起きなさい
ご飯よー
遅刻するわよ
いってらっしゃい
newおかえりなさい
new手ぇ洗った?
newおやつよー
new熱いから気をつけて
????
おかんアート
無料お試しセット
おかん通訳
エクストラスキル:この子のためなら死ねる
称号:おかん
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「おかえりなさい:状態異常を調べる」
「手ぇ洗った?:水属性魔法。消費MP5」
「おやつよー:MPを少回復。消費HP5」
「熱いから気をつけて:火属性魔法。消費MP5」
何度見てもニヤけてしまうシノのステータス、そこに確かにある「属性魔法」のスキル。ずっと待ち望んでいた攻撃系スキルの登場に、これで笑うなという方が無理だろう。
追い風ってやつだろうか。冒険者階級が上がって受注できる仕事が増えたところに、シノのレベルが上がった。流石にポールの野郎も、こちらの昇級は未だ知らない。昨日確かめたEランクの依頼書はボードに残されたまま。
その内の一つ、「ジャイアントビー」討伐の依頼書を選んで受付に持ち込んた。黙って受け取ったサラと対照的、初めての依頼受注にギルド内がザワついたのを肌で感じる。
(…ポールの嫌がらせは周知の事実ってわけか。)
ならば、サラが吹聴しなくても、昇級が露見するのは時間の問題。邪魔が入るかもしれない、その前に、出来るだけ依頼をこなして稼いでおきたい。装備を整え、旅費さえ出来れば、もっと大きな街に移動することも可能になる。とれる選択肢は多い方がいい。
「…確認したわ。問題無しよ。」
「ああ。」
サラから戻された受注承認済みの依頼書を確かめる。
「さっさと行って倒して来なさい。…あいつに吠え面かかせてやるんだから。」
「…」
昨日から考え続け、シノのレベルアップで決意したジャイアントビー討伐。東の森の入口近くに出来た巣を破壊し、討伐依頼としてジャイアントビーの針三十本を納品するというもの。納品込みで一万レンの依頼。
灰鹿三頭と収入自体に大差は無いが、F級とは言え、ジャイアントビーはモンスター。群単位ではE級になるモンスターを倒して得られる経験値、併せて奴らの魔石を食らうことで、レベルの伸びは今より良くなるはず。
(それに…)
討伐依頼のいいところは、「どこの」モンスターという風に、おおよそであれ場所指定があるということ。探知や索敵に消費するMPを節約することが出来る。
(…まあ、俺やマリカのMP枯渇を心配する必要もほぼ無くなったようなもんだが…)
それでも、探知で削った分のMPを回せば、その分、戦闘が楽になるのは間違いない。昨日の夜の検証で、シノの「おやつよー」は、他者―俺やマリカ―にも有効だということがわかっている。シノのHPを5消費することで、俺やマリカのMPを5回復する。これと、「ご飯よー」を併用することで、シノの―無駄にある―MPを俺やマリカに流用、使い回すことが可能になった。
(いや、「無駄に」ってことは、もうないのか。シノが攻撃魔法を覚えた以上、今までみたいに使い道もなく余らせることはない―?)
『…ユージー。考え事中、申し訳ないけど、今日のお仕事って夕方までかかる?かかるなら、どっかでヒナちゃんのランチ買って行きたいんだけど。』
『あ?あー、そう、だな…』
シノの声にハッとする。街を出る前に揃えておきたいもの。
『その前に、前行った武器屋、覚えてるか?今日はあそこに寄って行きたい。』
『あー、スライムお断りのとこね。』
マリカと続けている会話学習の成果か、ある程度の予想がつく会話は、シノの通訳が無くても簡単な受け答えなら出来るようになった。今なら、シノ無しでの買い物も問題無いだろう。
『…ナイフをもう少し良いものにしようと思ってる。今使ってるのは、安かったせいか、どうしても切れ味がな…。後は防具。出来れば魔法耐性のあるようなやつが欲しい。』
『子ども用があったら、子ども用の防具もお願いします!』
『…まあ、あったらな。』
そう応えたものの、結局、武器屋に子ども用―少なくとも六歳児サイズ―の防具は無かった。新調出来たのは三万レンのハンティングナイフのみ。並んでいた刃物の中では一番小振りのものを選んだつもりが、店主に値段を告げられた時には正直焦った。
最低ラインが五万レンだった防具類には全く手が出せずに店を出れば、それなりに期待していたらしいシノが思いっきり落胆を見せる。
『えー?ナイフでさえ、そんな高いの?我々の稼ぎじゃ、剣とか防具とか全然買えないレベルってこと?』
『まあなぁ。剣は要らねぇけど、防具は欲しいよな。ただ、最低限、魔法耐性があるもんってなると、十万は下らねぇ感じだった。』
『…OMG』
『その辺は少しずつでも貯めて揃えてくしかないってことだな。…そういうわけで、シノ。下見て歩け。カブ草探しは続けんぞ。』
『…もう見てる。ずっと項垂れてる。』
ヒナコの昼食を屋台で購入し、ヒナコごとリヤカーに積んだ。宣言通り、シノは下見て歩いているせいか、スキルも無しにカブ草をポンポンと良く見つける。目線が低いからか?積んだカブ草は、リヤカーの上でヒナコがせっせと束にしていく。
街を出てから森へ向かう道では、何度か他の冒険者とすれ違った。林の方とは違い、森はどうやらそれなりに人気のある場所らしい。念のため、今日のところはマリカの人化を禁じ、ジャイアントビー討伐に専念してもらうことにする。
森の入口にたどり着けば、僅かに人の手が入った細い道が、奥の方へと続いているのが見える。人一人が、何とか通れる程度の道幅。
「…リヤカーは、これ以上は無理そうだな。置いてくか。」
「りょうかーい。じゃあ、ヒナちゃんのランチはユージーのバックパック入れてね。…ヒナちゃんは、自分で降りれる?」
「うん。」
「よし、ジャンプ!」
「…」
危なっかしい―足が見えそうだった―ジャンプでリヤカーから飛び降りたヒナコを、シノが手放しで誉めているが、何か、こう、こいつは緊張感にいまいち欠けるというか。最悪、ヒナコがスライムではないとバレても、テイムモンスターだと思われている限りは狩られる心配はないだろう。ただ、変に目をつけられないためには、やはり「ただのスライム」でいるのが一番いい。
(…てのは、こいつもわかってる、はずなんだが…)
「ユージー、ユージーが一番前?マリちゃんが最後?一列?一列だよね?もう『遅刻するわよ』『いってらっしゃい』してもいい?」
「…ああ。」
ノリも、なんか、いまいち。遠足か?と言いたくなるようなノリのくせに、スキルは有用。まともに仕事をする。
だから、認めたくはないが―
属性魔法まで覚えた以上、この、目の前で「遅刻するわよ」「いってらっしゃい」とスキルを無駄に大声で連呼するスライムは間違いなく自分達の柱、チームのエースだ。…本当に、何となく、認めたくはないが。




