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スライムクラスタ転生~異世界も みんなで渡れば 怖くない と思ったけど スライムだからナチュラルに死にそう~  作者: リコピン
第二章 人化成功(一部スライムを除く)、冒険者デビュー
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2-24

ハンスさんから受領証を受け取って、ギルドの方へと回ったら、入口近くの路上に小汚いおじさん達がたむろしていた。


「あ。これ、見たことある光景だ」と思ったら、この街に来た初日、迂回して通りすぎたギルドの光景が確かこんなんだった。


そして、こんなんの中には、ポールとリドの姿も。予感を裏切らない男ポールは、仲間らしきおじさん達とこっち見てヒソヒソニヤニヤ。感じ悪。おやっさんにも忠告されたばかりで恐いから、今日はユージーにピッタリくっついて、皆でギルド内についていった。ギルド内の視線も相変わらず鬱陶しいけど、外のアレよりはマシ。


カウンター前も相変わらずの光景で、方や閑散、方や人がてんこ盛りの受付。ユージーは人が誰も並んでいない受付、サラさんの窓口へ直行した。受領証を出して暫く、大人しく待っていたら、何故かサラさんが態々カウンターから出てきて、ユージーに「こっち来いや」ジェスチャーしてる。色気皆無の呼び出し?え?恐い。


それでも大人しくサラさんの元へと向かったユージー。ギルドの隅、サラさんの前まで行くと、サラさんがニヤリと笑ってギルドタグを差し出した。


「あんた、E級に上がったわ。」


「…」


(…や、やったー?)


嬉しい、んだけど、素直に喜べない。サラさんのこの態度はいったい?


「ソロでこの早さの昇級はまあまあなんじゃない?それと、明日からはEランクの依頼も受けられるようになるから。」


そこでまた、ニヤァって悪そうな笑い方するサラさん。


「フフ。明日、あの馬鹿がどんな反応するのか楽しみ。あんたの昇級知ったら、あいつ、Eランクの依頼までこなすつもりかしら。」


やり方は密談、闇取引のようで恐かったけど、どうやら、サラさんはユージーの昇級が周囲にバレないようにこのような処置をとったらしい。しかも、「あの馬鹿(ポール)」の反応を楽しむためだけに。なるほど。素直には感謝出来ない。


でも一応は、これで―バレて邪魔されるまでは―通常依頼を受けられそう、ってことで、ユージーはサラさんにお礼を言った。それから依頼書ボードを確認、チラ見で撮影。マリちゃんが「依頼書上げたよ」って教えてくれた。


そして、その後から、何やらずっと「考え中」のユージー。一度宿に帰って夕飯まで済ませ、夜のパートに送ってくれた時もまだ何か考え込んでいて、一人で帰して大丈夫なのか、私の方が心配してしまった。


それでも、仕事は仕事。仕事中は余計なことは考えず、きっちりやろうと作業に取りかかる。他のこと考えてたら、毛皮に穴開けちゃいそうで。今日は積まれてる毛皮の数が少ないなーと思いながら、最盛期の半分くらいの山を片すべく、暫くの間、無心で仕事をこなした。


何の問題もなく最後の一枚まで終わったところで、おやっさんの元へとご報告。


「…ん?終わったか?」


思わず頷きたくなるけれど、これは罠。言葉のわからないスライムは頷いたりしない。


「…ああ。出来てんな。綺麗なもんだ。」


まあね?誉められて悪い気はしないですよ?思わず胸を張りたくなるけれど、これも罠。モンスターであるスライムはスカした態度をとり続けるしかない。


「…さて、じゃあ、時間までどうするか。」


「…」


(無意識か?無意識なのか?)


何か考え始めたおやっさんが、人の頭をグリグリグリグリと撫で回して―


「…暇だよな。俺の作業でも見とくか?」


言って、返事も待たずに作業台の方へと戻ってしまったおやっさん。それから、来い来いって手招きしてくる。


(うーん、多分、こういうのにも本当は反応しちゃいけないんだろうけどなー。)


けど、賢いスライムだから、何となく察した風でおやっさんに近づけば、


「よし、そのまま台の上、上がってみろ。」


って無茶ぶり。


(いや、上がれるよ?上がれるけどもさ。)


そんな、「ココだよ、ココ」みたいな指さしに反応するのは流石に躊躇われる。どうしたもんかってプルプル停止してたら、


「…しょうがねぇなあ。」


「!?」


(フギャー!?)


持ち上げられた()


大型犬サイズの粘性の塊をヒョイッて台の上まで持ち上げるおやっさんの胆力!惚れるわ!


そして、乗せられた台の上には、仰向けにドーンと置かれた灰色の巨体。熊だ。爪がある。鹿とは存在感が違う肉食獣の迫力。おやっさんが、その熊の、既に裂かれている腹部からナイフを入れていく。


「…」


「…」


「…食え、腹減ってんだろ?」


(えー?「一口」ってレベルじゃないよ?)


おやっさん、黙々と作業していたかと思ったら、大きな肉片を私の目の前にドーンしてきた。多分、私が今日処理した灰鹿の数が少なかったから、お腹空いてるとでも思われてるんだろうな。


(…別に、そんな腹ペコキャラじゃないし、お腹空いてるってほどではない、んだけど…)


百パー善意からの行動を無碍に出来ないと、スライムの中身がコンフリクトしている。


(…まあ、いいか。)


査定所のスタッフとして、熊肉は美味しく頂きました。


その後もチョイチョイ肉片を寄越すおやっさんに餌付けされながら、横で作業を見守り続ける。確かにおやっさんの手つきは鮮やかなもので素晴らしいけど、私も動物の解体見ながらご飯食べれるとか、…遠いところまで来てしまったなぁとちょっとしみじみ。


結局、おやっさんの解体を最後まで見守ってしまったが、それでもまだ時間があるらしく、ユージーのお迎えが来ない。どうすんのかなぁと思ってたら、


「…今日はこれであがるか。…送ってってやる。」


(…いいのかな?)


職場の上司が家まで送ってくれると言い出した。もちろん、徒歩で。辞退する術を持たぬスライムは、あっという間―多分、四十秒くらいで―帰り支度を終えた上司に、仕事場から連れ出されてしまった。


そうなるともう、大人しくついていくしかない。灯りのほとんど点らない暗闇の街を、背の高いおやっさんと並んで歩く。宿が見えてきた辺りで、おやっさんがポツリ。


「…毎年、この時期は灰鹿の処理に追われるんだが、今年は新人がいたり、予定外の仕事が入ったりで、全く思うようにいかなかった。」


足を止めたおやっさんの横に並ぶ。


「…毛皮の買取りも今週いっぱい、あと三日で終わる。…今期、無事に乗り切れたのはお前のおかげだな。助かった。」


「…」


思わずキュンしそうになった。だってスライムなのに。生ゴミ処理器くらいの扱いをされてもいいって思って飛び込んだ職場だったのに、こんな認め方されちゃったら、認められたら、キュンてするじゃないか。


「…ほら、お前のご主人様、出てきたぞ。」


「…」


ボーッとしてたら、おやっさんの声。ユージーが、宿の灯りを背に、こちらへ向かって来ている。


「…じゃあな。」


「…」


おやっさんは、ユージーに軽く手を上げて背を向けた。そのまま暗闇に消えていく後ろ姿を見送って、ユージーについて宿へと帰る。


途中、「どうした?」ってユージーに聞かれるくらいボーッとしてたらしいんだけど、おやっさんとのやり取りを反芻する内に、なんか、ホクホクしてきた。ホクホク。違うかもだけど、とにかくアガった。ニヤニヤ、ニヤニヤしてしまう。


最終的に、「ッシャアー!あと三日、立派に勤め上げてやんぜ!」くらいの気合いが入って、気合い十分のまま就寝の準備。明日の自分への投資、お肌のお手入れお手入れ~と無料お試しセットを使おうとしたところで気がついた。


ヤバい。レベルが上がってる―


いつの間にやら、レベル10。原因は恐らく、熊肉。いや、今日までに積み重ねてきたお夜食のせいもあるかもしれない。けど、とにかく、昼間レベルアップ確認済みからの夜にもレベルアップはマズイ。ユージーに「何で?」って問い詰められる、怒られる。


(…隠滅。気づかなかったふり…)


それが更なる悪手であることはわかっている。わかっているけど、ちょっと現実逃避した。でも、うん、ちょっとだけ。直ぐに現実に帰還。大人しくユージーにレベルアップを報告した。


結果―


『良くやった!!』


『イタイイタイ痛い!?』


誉めながら、核の近くを拳骨で挟んでグリグリしてくるユージー。


『言動の不一致!?』


『よし!スキルの検証するぞ!』


『え!?今から!?』


幸い―室内ということもあり―、全てのスキルを試すには到らなかったが、試したスキルの検証結果にユージーは大いに満足したらしい。テンションがおかしくてなかなか寝かせてくれず、ウザかった。睡眠不足はお肌の大敵っていう世界の真理を未だ理解していないらしい。グゥ。







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