2-23
宴翌日、ユージーと、「昨日のサラさんの去り際の言葉は、一応、遅すぎるけど注意喚起、忠告してくれたのかな?」って話をして、「本当、今さらだけど。どうする?」って悩むことになった。
いや、どうりで鹿多いはずだよ。禁猟区で自分たちだけ狩りまくってたわけだからね。だから、多少ね?ズルしてる気分にもなるんだけど、そもそも立ち入り禁止は私達のためのもの、まあ、いいかって。今さらだし、これからも狩りに行こうって結論に達した。
なのでその日もサクサクっと鹿三頭をゲット。買取りをしてもらいに査定所へ向かった。
そしたら、
「リド!?てめぇは!自分が何やらかしたかわかってんのか!許可なく魔石に触んじゃねぇって言ってんだろが!これで何度目だ!?」
「…」
デジャヴ―
おやっさんが激おこしてた。そして怒られてるのは血抜きのリド、ヤツはまたしても不貞腐れて「聞いてませーん」の態度。成長が感じられない。いや、もう、おやっさん相手にその態度、逆に、その強心臓を称えるべきなのかもしれない。
(あ…)
そして、リドはとうとう、プイッて査定所を出ていってしまった。職場放棄。その背中を見送ったおやっさんが、ジーッてテーブルの上を見てる。リドが作業してた場所を。その姿見てたらさ、付き合い短い私でもわかるよ、おやっさん、めっちゃ落ち込んでんじゃん。リドのヤツ、何てことしてくれてんの。
何となくシンてなった空気、ハンスさんが、おやっさんに聞こえない、小さな声で教えてくれる。
「…モンスターの種類によってはね、魔石の取り出しに特殊な技術が必要な場合があるんだ。無茶すると壊れちゃうからね。…君たちも、無理だと判断したら、自分達で何とかしようとせずにそのまま持ち込んでくれよ?」
「ああ…」
要するに、リドはその「無茶」して、魔石壊しちゃったってことなんだろうなーって思ってたら、こちらにやってくるおやっさん。ハンスさんの前、受付テーブルにコトリと音のする物を置いて、
「…廃棄で処理しといてくれ。」
「了解です。…って、うわ。これ、ひょっとして、ロックベアの…」
「…ノア・ガルシアの置き土産の一つ、だな。」
苦々しい表情で卓上を見つめる二人。聞こえたノアの名前に、俄然興味をそそられて、思いっきり背のびする。こっそり「脚」も造ってかさ増し、何とかギリギリ、テーブルの縁からのぞけば、そこには真っ二つに割れたウズラの卵サイズの青い石。
(へー、宝石みたい。サファイア?模様みたいなのも入ってる。)
必死に観察していたら、頭上から視線を感じた。ん?て思いながら、視線を上げれば、おやっさんと目があって、
「…食うか?」
(え?)
聞き間違い?って思ってるうちに、魔石を掴んだおやっさんの手が目の前にグイッと。
「魔力が漏れだしてるからな。直ぐにただの石になっちまう。…食いたいなら、今、食え。」
(…これは、いいの?)
ユージーに確認の視線を向けたら、無言で頷かれた。
『え?本当にいいの?これ、食べろって言われてんだよ?食べていいの?』
『…ああ、もらっとけ。』
(んー、じゃあ、いただきまーす。)
差し出されたままのおやっさんの掌、割れた魔石の片方を食べた、ら―
『ユージーユージー!これ、クる。結構クるやつ!この前の、剣、食べた時みたいな!』
『…ちょっと待て。…お前、レベル上がってる。』
『え!?本当!?』
ユージーに鑑定されたらしい。慌てて自分のステータスを確認すれば、確かに、レベルが9に上がっている。
『あ!じゃあ、もう半分はマリちゃんに。マリちゃんにあげて!』
頑張ればいけないこともないが、もう半分、続けて食べるのはキツい。それに、そんな「イイモノ」、一人で食べるのは気が引けまくりだ。私が身を引いたタイミングで、「こいつは腹いっぱいだ」とユージーが伝えてくれて、残り半分の魔石をおやっさんから受け取った。
そのままマリちゃんの所へ魔石を持っていくユージーを見送っていたら、ハンスさんが笑いながら頭を撫でてきて、
「良かったなー、スゴいもん食えて。卸しで三十万、店で買えば五十万はする値打ちもんだぞ?ラッキーだったなー?」
(ごっ!?)
そんなの、食べ物の値段じゃない―
いや、けど、確かに宝石だと思えばあり得なくはないのか。リドはそんな高価な物壊しといて、よくあんな態度がとれたな。とにかく、大変なものを食べてしまったことに間違いはない。廃棄予定だったとはいえ、そんなもの気軽にくれるとか、おやっさんの神経を疑う。ありがとうございます!
戻ってきたユージーにも、こっそりお値段をお伝えしたら、一瞬、固まってた。それから、メチャクチャ丁寧におやっさんに頭を下げた。おやっさんは、ちょっと煩わしそうな顔を見せて―わかる。アレは照れ隠しだ―、それから、珍しく自分からユージーに話を振ってきた。
「あー、お前、ポールともめてんのか?」
「…少し。」
揉めてるってか、一方的に絡まれてる?嫌がらせされてる?
「…さっき、ここを出てったのは、リドってんだが、あいつはポールとよくつるんでる。…お前に対して、何か良からぬことを企んでるみてぇだから、気を付けろ。」
「…ありがとうございます。」
「…いつもなら、ポールみたいな小悪党なんざ気にする必要は無いんだが、今はヤツを抑える上のモンが誰もいねぇからな。」
吐き捨てるおやっさんに、ハンスさんも苦笑い。
「ギルマスは不在、この街を仕切ってた本物の悪党は街を追放されて行方知れず。…ポールのヤツァ、そんな器でもねぇくせに増長しまくってやがる。」
だから気を付けろって忠告をして、おやっさんは仕事に戻っていった。
(嫌だなぁ。)
嫌な予感に気分が落ちる。仕事妨害してくる程度ならいいんだけど、ヒナちゃんやマリちゃんに危害加えられたら嫌だなぁ。




