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スライムクラスタ転生~異世界も みんなで渡れば 怖くない と思ったけど スライムだからナチュラルに死にそう~  作者: リコピン
第二章 人化成功(一部スライムを除く)、冒険者デビュー
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2-15

翌朝、一晩寝たおかげで、昨日の「どよーん」で「もう、お家帰るー」だった気分はかなり浮上。睡眠って大事。


仕事の出来るスライムユージーは、いつの間にか、宿の裏庭で使われていないリヤカーを発見していた。交渉の末、一日千レンでレンタルすることになったリヤカーを引いて、ギルドまでの道を歩く。目立つ。ならもう目立つついでたし、ヒナちゃんを乗せてみたら、キャッキャはしゃいで喜んでくれた。良かった。


ギルドの前でも目立ちまくり、イヤーな視線も相変わらず。依頼書を確認しに中に入ったユージーをギルドの外で待ってたけど、首を振りながら出てきたユージー。新しい依頼は無かったらしい。鹿狩りが決定した。


街を出る前に、ロープなんかを買い足すために雑貨屋に寄る。雑談ついでに聞いてみたところ、灰鹿は街の東の森に居るらしい。我々が住んでた洞窟近くの森―昨日、遠目に見た限りでは林?―は東の森の飛び地みたいになってるから、どうかなぁ?という回答。取り敢えず、林へ行ってみて、ユージーが「索敵」してみようってことになった。屋台でヒナちゃん用のランチも買って準備万端、街を出た。


林への道中、キョロキョロしながら、見つけたカブ草は引っこ抜いてく。ユージーの「探知」は使わずに節約。林が見えてきた時点で道を逸れ、リヤカーで草原を突っ切ろう、としたんだけど大苦戦。なので、マリちゃんが早々に人化して手伝うことになった。やっぱ、人型って便利。二人がかりで押すリヤカーに、横からカブ草を放り込んでいく。


雑木林の前まで来たところで、リヤカーはストップ。ユージーが索敵で「灰鹿」を探してみたところ、「少し遠いが、居る」との頼もしい回答を得られた。問題は、全員で林に突っ込んでいくか、だけど―


「ヒナちゃんとここで待ってる。カブ草、探しておくから。」


っていうマリちゃんの言葉に悩むユージー。灰鹿を追ってる内に、林の中ではぐれたり、迷ったりするのは恐いけど、林の外で誰かに見つかるのも不安、ということらしく、


「…ここの、少し入ってったとこ。前に、よくスライムと遭遇した場所あるだろ?」


「うん。」


「あの辺までなら、ほぼ安全。お前一人でも対処できるようなもんしか出てこないだろうから、あの辺で待っててくれ。」


「わかった。」


一応、ヒナちゃんマリちゃんの安全を確保。それでも長時間離れてるのは恐いから、鹿を狩れても狩れなくても、一時間後に合流しようってことになった。一時間どうやって計るの?まさかずっとカウントするの?って思ってたら、「MPが4回復したら、だいたい一時間だ」って。なるほど、細かい。


てことで、全員に「速度強化(ちこくするわよ)」「物理防御強化(いってらっしゃい)」して、二手に別れた。若干傾斜してるかな?って感じの地面を、ユージーの後を追って登っていく。


『…居た。』


『どこどこ?』


『左手の奥。岩んところ。』


思ってたより簡単に、あっさり鹿を見つけたユージー。索敵ヤバイなって思いながら「岩んところ」を見てみたけど、見えない。「岩の左側で草食べてる」って、本当に?居る?見えてるの?索敵ヤバイな。


『…この距離じゃ、流石に無理か。もうちょい、近づくぞ。』


『うい。』


ゆっくり動き出したユージーの後に続く。私はほぼ無音で動けるけど、ノアが履いてたのと同じような靴を完璧再現してるユージーの靴は足音がする。音がしないように、慎重に―


『…気づかれた。』


『マジか。野生ヤバイね。』


昨日のウサギの時より、未だ倍くらいの距離がある。


『…シノ、お前、迂回して鹿の背後に回れ。で、俺の方に追い込んでみてくれ。』


『ほー、なるほど?』


ほぼ無音走行が出来る私ならいけるかもしれない。オーケーオーケー。と言うわけで、ユージーから離れ、スルスル移動開始。ユージーが動きを止めたためか、再び食事に戻った灰色の鹿。


(本当に灰色だ。)


立派な角をお持ちだから、雄だろうか?角の生え変わりの時期はいつなんだろう?お高く売れないかなぁなんて考えながら、その背後、というか側面、ユージーとの対角に位置づけた。


『ユージー、着いたよー。』


『おし。じゃあ、なるべく俺の方に向かって追い込め。』


『らじゃ!』


言って、鹿に向かってダッシュ。一瞬で気づいた鹿が、跳ぶようにして走り出す。進路が左に逸れそうになったのを、左手を思いっきり伸ばして威嚇すれば、謎の物体が視覚に現れたことに驚いたらしい鹿が右に進路を変えた。


『おっし!』


ユージーの勝利宣言と共に、動きを止めて倒れこんだ鹿。近づいて行って、伏した身体を見下ろす。


『成功だな。』


『うん。意外と追えたね。』


良かった。それは、良かった、んだけど―


『…うー、じゃあ、仕留めます。』


『ああ、頼む。』


今回は麻痺状態、動かない状態だからイケる。いってやる。


『…』


『…』


張り付いた鹿の顔面。目を閉じて、視界に何も入れない。意味は無いけど、ひたすらに数を数えて時間が経過するのを待つ。


『…シノ、もう大丈夫だ。…死んだ。』


『ウッウッ。』


(昨日よりはまし。昨日よりはまし。慣れてきてる。大丈夫、大丈夫。)


ユージーの声に、呪文を唱えて目を開ける。ピクリともしない鹿から降りたところで、ユージーが鹿の身体を持ち上げた。


『思ったより早く終わったな。時間はまだあるが、マリカ達のところに戻るか。』


『らじゃ…』


ユージーに担がれて揺れる鹿を眺めながら、来た道を戻る。


(…食べる。無駄無くちゃんと食べるから。)


だから成仏してね、とこちらのエゴを全開で押し付けながら、精神的ダメージの回復に努めた。


黙々と歩いて暫く、遠くの木の影にピンクと黒がチラッチラッと見え始め、向こうもこちらに気づいたらしく、マリちゃんが手を振ってくれている。


(良かった、怪我とかそんなのは無かったみたい。)


無事合流して、お互いの無事を喜ぶ間も無く、ヒナちゃんもマリちゃんも、ユージーの肩に担がれてるものに、「うっ」てなってしまった。それを―気づいてるだろうに―サラッと流したユージーが、


「マリカの方も、カブ草、結構集まったみたいだな。」


って、マリちゃんの足元を確かめてる。


「うん。ヒナちゃんも一緒に探してくれたんだよね?」


「うん!見つけた!楽しかった!」


マリちゃんの言葉に、萎縮してたヒナちゃんがプルンって揺れた。気が逸れて、ちょっと元気になったみたい、良かった。


「みんながね!手伝ってくれてね!ヒナに、ここだよってしてくれたの!」


「みんな??」


突然の第三者の登場に焦る。誰?誰?誰のこと?って、マリちゃんに視線を向けたら、


「…前、ここで『フォロワー承認』してた子達が来てくれて、」


「ああ!前に言ってた、スライム!」


「うん。カブ草集めてたら、『こっちにあるよ』って感じで誘導してくれて、それで結構集まった感じ。」


「へー!」


マリちゃんの話しに感心してたら、ヒナちゃんが横からピョコピョコ。嬉しそうにお話してくれる。


「あのね!前のシノちゃんそっくりなの!今のシノちゃんより小さくて、丸くて、可愛いの!」


「…」


無邪気な一言にグサリとやられた。


(確かに、確かにシノちゃん、最近またふと、…大きくなってきたけど…)


でも、それはヒナちゃんのため、いつでもヒナちゃん抱えて、ヒナちゃんのベッドになる覚悟でいたから。


(あと、確かにちょっと、お肌の張り、…粘性も低いから丸いとは言い難いけど…)


「…良かったね、ヒナちゃん。」


「うん!」


マリちゃんとユージーの気遣う視線がイタいけど、ヒナちゃんが幸せなら、うん、それでいい。







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