2-12
―疲れたなぁ
本当、疲れた。薬草チョロっと集めて、二匹のウサギの息の根を止めて毛皮をまるっと綺麗に頂いて。それだけで、もう疲労困憊。丸焼きウサギの足部分も少し食べたけど、形が…。
重いバックパック背負って、ウサギ肉をぶら下げた棒を肩に担いでるユージーには本当、申し訳ないけど、今日はもう、戦力外。精神的疲労が大きすぎる。お手伝いとか無理。頑張って慣れるから、体力つけるから、それまで待ってて欲しい。
街への帰り道をスタスタ歩くユージーの後ろをノロノロとついていきながら、そんなことを考えていた。
ユージーの背後で揺れるウサギさんをチラッチラッてしてるヒナちゃんは、一生懸命慣れようとしてるのか、受け入れてくれようとしてるのか。その姿に、何を言えばいいのか、伝えればいいのかわからなくて沈黙してしまう。
漸く街が見えてきた時にはスゴくホッとしたけど、まだ、宿に帰って終わりじゃなくて、今日の成果をギルドに報告、依頼品を持っていかなくちゃいけない。しんどい。
ギルドに着いても、周囲からは相変わらずの不快な視線を感じるし、受付の前に立ったら立ったで、
「ちょっと!そんなものここに持って来ないでよ!」
という、サラァさんの罵倒。何だよ、依頼品だよ?持ってくるなって、じゃあ、どうしろってんだよって思ったら、
「買取りは裏!査定所に持ってって!」
という、明らかな新情報の開示。あんた、登録の時そんなこと一言も言わんかったやん?と理不尽さにゲンナリしつつ、言われた通りをユージーに伝える。頷いたユージーは、言い返すでもなく、黙って回れ右。そのままギルドの裏手に回ってみれば、確かに、ちょっと大きめの納屋?みたいな建物があって、開きっぱなしの広い入口から、「それっぽい」ものが置かれているのが見えた。
入口入って直ぐの隅にはカウンター、その横に、カブ草が詰められた木箱がいくつか。カウンター横から見える薄暗い室内には、天井から下げられたフックや床に何かの動物の死体。ガタイのいいおやっさんと青年二人が、忙しそうに立ち働いてる。
取り敢えず、遠目でもアレなものがあるのはわかったので、ヒナちゃんはその場でストップ。「見える場所で待っててね」って、マリちゃん付き添いのもと、納屋の直ぐ外で遊んでてもらうことにした。
「…すみません。」
納屋に入ったユージーがイクスキューズしたら、一番近くのテーブルで何かを解体中のおやっさんはチラッとこちらを見ただけ、謎の生き物の死体をフックにかける作業中だったお兄さんが、慌ててカウンターまで出て来てくれた。
「買取りか?」
ユージーが担いでる「草原うさぎの肉」を見てそう聞いてきたお兄さん、ユージーは肉をカウンターに置いて、バックパックからカブ草を取り出した。
「…これと、これを買ってください。」
「ああ、草原うさぎとカブ草だな。…カブ草の方は、…15束か。じゃあ、こっちは1500レン。うさぎの方は…、って、コレどういう状態だ?どんな処置した?」
「…皮を剥ぎました。」
「皮剥いだだけ?血抜きは?って、してないな。どこも…、致命傷どころか、傷一つ無い?何だ?どうやって…?」
「…」
訝しげに聞いてくるお兄さんだったけど、話せば長くなるし、面倒なので、スルーして頂きたい。同じ思いであろうユージーが黙ったままでいたら、奥から、正視の厳しい刃物を持ったままのおやっさんがズカズカっと近づいてきて、ウサギの肉を覗き込み、
「…うさぎは一体300レン、四体で1200レンだ。」
だいぶ買い叩かれた。
金額はヒアリング出来たらしいユージーに、「理由を聞きたい」って言われたからウィスパリング、
「…どうして、300レンですか?」
という質問に、
「血抜きもしてねぇ持ち込みなんざ、そんなもんだ。…本来なら半値の250だが、まあ、皮剥ぎだけはまともにしてあるからな。まけて、300にしといてやる。」
という、ある程度予想がついていた答えが。予想外だったのは、その減額が結構なものだったということ。それでも、
「…わかりました。お願いします。」
言い値での買取りをお願いしたユージー。
ちょっと、だいぶ、ショボンな額になったことにマジ凹み。お兄さんに言われるがまま納品の手続きを終えたユージーに、後はお金を受け取るだけっぽいから、「外で待ってるよー」と伝えて、ヒナちゃん達の元に戻ることにする。二人の所へ戻れば、納屋の中をずっと覗いてたらしいマリちゃんが、入れ替わるようにしてフラフラ~っと納屋の奥へと入っていった。
「どうしたのかな?」と思いながらも、ヒナちゃんと二人でおしゃべりをしていれば、結局、それほど待つことなくユージーと一緒にマリちゃんも戻ってきた。
買取りのお兄さんから「受領証」みたいなものを受け取ったらしく、ユージーはギルドへゴーバックすることに。今度こそ、受領証とギルドタグをサラァさんへ提出し、これでめでたく依頼完了。
やれやれと思う間もなく、MPが少し回復していたユージーが、「一応、確認しとく」と言って依頼書ボードを見に行ったけれど、「ランクF」、つまり我々F級冒険者が受けられる依頼書は一枚も残っていなかった。




