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スライムと新人冒険者とゴスロリ美少女の頑張りにより、「カブ草」は意外とサクッと集まった。5株ずつを束にしたものが15束、これで買取り価格は1500レン。宿代には遠く及ばない量だけど、これ以上は持って帰りようがない。既に、ユージーのバックパックはパンパンだったりする。
「…軽トラが欲しい。」
ボヤいたら、ユージーも同調して、
「アイテムボックスかインベントリが使えりゃなぁ…」
とボヤきだした。
ユージーが欲しがってるのは、某子守用ロボット(青)のお腹にくっついてるポケットと同じようなものらしく、雑貨屋でお兄さん相手にそれとなく探ってたけど、「そんなおとぎ話みたいなもんがあれば、売らずに自分で使ってる」って笑い飛ばされて終わってた。
「…まぁ、現実的に考えりゃ、リヤカーか。」
「だね。」
「…ただ、野草なんて取り続けてたら直ぐになくなるだろうからな。一度や二度、大量に取れたとしても、後が続かないことには…」
「ああ、うん、そっか。そうだね。…うーん、取り尽くしたら、別の場所に移動する?」
「採取場所の情報があればな。」
結局、自分達で採取場所から探さないといけないってのがネック。運良く一ヶ所見つけても、そこで取り尽くせばまた新しい場所を探さないといけない。けど、それだけの時間をかけるにしては、カブ草の単価は低すぎる。
「…この『カブ草採取』ってのは、他の依頼の途中にでも見つけたら取ってきてくれって感じの依頼なんだろうな。」
「なるほどねー。これをメインに稼ぐのは難しいってことか。」
(うーん、じゃあ、やっぱり…)
覚悟決めなきゃ駄目なのかと思い始めたところで聞こえた声。
「あ。ウサギ。」
「え…?」
それまで、黙って一人遊びしてたヒナちゃんの口から溢れた単語にドキッとした。確認の意味でユージーの顔を見たら、ヒナちゃんと同じ方向を向いてる横顔。視線の先には、茶色のフワフワが見えている。
「…ユージー?」
「…狩ってみるか。」
「…だよね。」
そうだよね。だってもう、今んとこそれしか稼ぐ手段がないじゃん?だから、ウサギを見てるヒナちゃんの視界に入るよう、正面から向き合って―
「ヒナちゃん、ちょっとお話があります。」
「…はい。」
既に空気を読んでるヒナちゃんがいじましい。
「…えっとね、シノちゃん達は今からウサギを狩ります。」
「…」
「狩るっていうのは、捕まえたり、殺したりするってこと。わかる?」
「…ウサギ、可哀想…」
「うん、そうだね。」
何かもう、ヒナちゃん、今にも泣き出しそうな気配。挫けそうになるけど、
「シノちゃんは、そういう風に思えるヒナちゃんのことが好きだよ。」
「…」
「…あのね?シノちゃんもヒナちゃんも、ご飯、お肉を食べるでしょう?シノちゃんはお肉食べて強くなりたいから、ウサギを食べるの。」
「…カエルとか、ヘビと一緒?」
「ああ、うん、そうだね。後は、狩ったウサギをお店で売って、他のものも買うかな。」
「…お仕事なの?」
「そうだよ。ウサギを狩るのも、シノちゃんのお仕事の一つになったんだ。」
「…」
黙ってしまったヒナちゃんに心が折れそうになる。こんな時、ヒナちゃんの表情がちゃんと見れないってのは、本当、ツラい―
「…ヒナちゃん。ヒナちゃんは、無理にウサギ食べなくていいし、シノちゃんがウサギを狩るとこ見たくなかったら、目をつぶってて?」
ヒナちゃんに、こっちの言いたいことがどこまで通じたかなんてわかんない。食育とか、命の教育とか、私には荷が重すぎて。
それでも、小さくフルッて頷いてくれたヒナちゃんを確かめて、ユージーが動き出した。
「…最初は俺とシノでいく。マリカはヒナコとここで待機。」
「りょうかい…」
「わかった。」
茂みをガサガサさせながら、ヒナちゃん達から離れてウサギの方へ。流石ウサギ、すぐに気づいて後ろ足で立ち上がる。こっちに気づいて耳をピーン、鼻をヒクヒクさせている。
(かわい、)
「『睡眠』を試してみる。」
「…」
「効果時間を確かめたいから、眠っても直ぐに攻撃はしないで、いつでも張り付ける距離で待機してくれ。スキル効果が切れそうになったら声かけるから、張り付いて窒息死させる。…出来そうか?」
「うん。おーけー、大丈夫。やるよ。」
頷いたユージーが更にジリッと距離を詰めていく。両者の距離が十メートルを切った辺り、それまで前足を上げて警戒していたウサギが、唐突に横たわり丸まった。
カウントを始めたらしいユージーの声が小さく聞こえる中、ウサギににじり寄る。本当なら、じっくり寝顔を眺めてなで回したいところだけど、グッと我慢。だって、私は今から、この子を殺す。
三十秒を数えそうになったところで、ユージーの鋭い声、
「っ!シノ!目ぇ覚ますぞ!張り付け!」
「了解。」
張り付いた。当然のこと、ウサギが暴れだした。必死にもがいてる。けど、離さない。ギュッと抱き込んで何も考えないようにしてたら、身体の下で動かなくなった温もり。
「…シノ、大丈夫か?」
「うん。全然、大丈夫じゃない。」
「…」
嫌だったし、辛かったし、正直、恐くて、途中で離したくなった。けど、この「不快」を、―対象が蛇とか蛙だったとしても―今まではユージー一人にやらせていたのだ。自分は食べるばっかり、何なら文句まで言ってたなぁとスゴく反省。
「…大丈夫じゃない、けど大丈夫、慣れるよ。」
「あんま、無理はすんな。」
「やだなぁ、ユージー。もちろん無理はするよ?大人だからね!ヒナちゃん、マリちゃんの衣食住のためなら出来る無理はする!」
「…まあ、頑張れ。」
強制力の無い緩いエールをくれたユージー。
「おなじ要領でもう一体狩るか。今度は『麻痺』を試すから、効果時間、もう一回計るぞ。」
「うい。」
頷いて、次なる獲物を探す。依頼書によれば、「草原ウサギの肉」は一体500レン。二体狩れば、ヒナちゃんにちゃんとしたご飯を食べさせてあげられる。そう思っても、気分はなかなか上がらないけど、
「…アドレナリン、アドレナリンが欲しいよぉ…」
「…冒険者に襲われて火達磨にされた時のこと思い出せ。人間相手に立ち回れたんだから、ウサギだっていけんだろ?」
「あの時は必死だったから。やらなきゃやられるパティーンだったから。強者として一方的に屠るパティーンはまだ慣れない。」
生きるための必須だと、わかっていても心がしんどい。わかってるけど出来ないことだってあるんだよ。
元、人間だもの―




