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この道をずっと行けば、隣街に続いてるらしい田舎道を途中で大きく外れ、スライムの体高の半分くらいの草むらをガサガサ進むと、遠目に見えてきた雑木林。ユージー曰く、その手前の一段と草が繁りまくった辺りが元いた洞窟らしいのだが、「え?よくわかるね?覚えてたの?」と普通にビビった。目印とか何にも無いのに。
結局、洞窟手前まで行くと草が高過ぎて探しにくいってことで、少し手前で「薬草採取」をすることに。ギルドでこっそり鑑定&透視しまくりだったユージーも、MPが10まで回復していたので、「カブ草」をターゲットに「探知」をしていく。
「あの辺にある」とユージーが指し示した場所を、目視で確認しながら草を引っこ抜いていくことになったんだけど、問題が一つ。
ユージーは人型、私にはウニョンウニョンの手がある。けど、緑スライムのマリちゃんは―
「…マリちゃんは、ヒナちゃんと遊んで待っててくれれば、」
「嫌。手伝いたい。」
「ヒナ、シノちゃんがお仕事の時、ちゃんと一人で遊べるよ?」
「…」
結果、二人ともイイコ。
どうするかなーってユージーを確認してたら、マリちゃんがユージーを必死に説得しにかかった。
「ここ、誰も来ないし、見られることだって絶対ないから。人化してもいいよね?」
「…『絶対』ってことはねぇ。」
「けど!私だって仕事したい!自分に出来ることはちゃんとやりたい!」
マリちゃんの真っ当な主張に、ユージーも強くは反論出来なかったらしくて黙り込んだ。過保護ユージーが、悩みまくった末に出した結論、
「せめて顔だけは隠せ。お前、街を出たことになってるからな。万一誰かに見られても誤魔化せるようにしとかねぇと…」
「顔を隠すって…。どうやって?」
「あー、布?ベールとかか?何か、顔を覆えるやつで…」
「忍者みたいな格好…?」
「いや、流石にそれはまずいだろ。文化的にというか、世界的にというか。異質すぎて怪しまれる。」
「じゃあ、どうしよう…」
考え込んじゃったマリちゃん。マリちゃんを見守るユージー。そんな二人の横で、見つけたカブ草をフライングで引っこ抜いていく。引っこ抜いたカブ草が五つになったところで、一度手を止めた。どうやって束にするのかユージーに確かめたいなぁ、今話しかけてもいいかなぁと迷っていたら、
「…やってみる。」
マリちゃんの決意漲る声。溶け出した緑スライムが、徐々に盛り上がって、現れた人の姿に―
「っ!?何でだよ!?」
間髪入れず突っ込んだユージーの気持ち、わからなくはない。
マリちゃんの着ている服は、黒を貴重としたフリフリドレス。レースやリボン、フリルもふんだんにあしらわれてて―
「まさかのゴスロリ!」
「…だって、ベールって。コレかウエディングドレスくらいしか思いつかなかったから…」
顔をフイって背けるマリちゃんは、うん、文句無しに可愛い。それに、確かに、黒のヘッドドレスにくっついたベールが顔を覆ってるし、ユージーの注文通りであることに間違いない。
なのに、
「いや、けど、何で…」
マリちゃんを直視せずに、何かまだブツブツ言ってる男が居るので、提案してみる。
「マリちゃん、ベリーダンスって知ってる?」
「え?…うん、名前くらいは。」
「そかそか。あれもね?ベールで顔覆って踊ったりもするんだよ。マリちゃんスタイルいいから、きっとスゴく似合う、」
「やめろ…。」
ボソッと物言いがついたので発言者を振り返れば、嫌そうにこっちを見てる。
「止めろ?じゃあ、ユージーは、ゴスロリの方が良いんだね?ゴスロリマリちゃんの方が好ましいと?」
「…お前、言い方、」
「ユージー!マリちゃんをちゃんと見て!この可愛らしさを!」
恥ずかしがってるマリちゃんをグイって一歩、前に押し出してみたら、ユージーは一応、マリちゃんを流し見て、
「…はぁ、もう、好きにしろ。」
って嘆息したから、これはオーケー、ゴーサインだと見なす。マリちゃんはゴスロリファッションで嬉々として薬草採取を始めた。けど、正直、動きにくそうではある。ユージーも、心配そうにチラッチラッしてるけど、心配なら声をかければいいし、可愛いと思ったら誉めればいいのに。そのどちらもしないで遠目に見守るだけの男に、それがユージーだもんなぁと諦めた。




