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暫くの間ユージーを放って、マリちゃんと二人、乙女心についてキャッキャした。おかげで、なんかちょっとだけ、ノアが居なくなる寂しさも慰められたかなあってタイミング、見計らったように口を挟んできたユージー。
『まあ、お前の心情とか、アイツの変態度合いとかは置いとくとして…。お前、一応テイムモンスターなわけだろ?本当についてかなくていいもんなのか?』
『うん。ヒナちゃんと居たいからね。「行かない」って言ったら、「いいよ」って言ってくれたよ?』
『ふーん?…テイムされたからって、常に側にいる必要はない、ってことか…』
『あ!それからね!』
ユージーとマリちゃんに向かって、イソイソと自身の頭頂部が見えるように、全身を折り曲げた。というか、ほぼ倒れこんだ。
『…何してんだ、お前?』
『見えた?』
『あ?』
『紋章?模様みたいなの、あるでしょう?ノアにお願いされてつけてみたんだけど、「ノアのテイムモンスターだよ」っていう印なんだって。』
『ああ、「所有紋」ってやつか。なんか、入門書に載ってたな。』
『あ、本当だ。お花みたいな模様がある。』
マリちゃんの言葉に、若干テンションが上がる。そうか、お花みたいなのか。可愛い形で良かった。ノアを信じてないわけじゃないけど、いくら惚れた相手とはいえ、下っ手くそな絵とか意味わからん文字とか入れられてたら、泣く。
『マリちゃん、マリちゃん!画像、アップしてくれる?私も見てみたい!』
『うん、いいよ。…はい、上げた。』
『どれどれ?』
投稿画像で確かめた私の頭頂部には、確かに小さなお花の模様。ノアとの繋がり、主従の証しってやつにニヤニヤしてたら、
『…所有紋ってのは、確か、レアモンスターや騎乗用のモンスター、人に盗られたり、間違えられたら困るような場合につけるもんじゃなかったか?お前に…、スライムにつけて、何か意味あんのか?』
『んー?なんかね?ノアの魔力が込められてて、身元保証?みたいなことは言われたよ。けど、スライムだから、紋に気づかれずに一瞬で消し炭にされる可能性のが高いから、油断して他の人間にノコノコ近づくなって釘も刺された。』
『意味ねぇな…』
『うん!けど、なんか、追跡魔法?っていうのもかけられてるから、どんなに離れてても私の居場所がいつでもどこでもわかるんだって。だから、何か用があればノアの方から見つけて、会いに来てくれるって言ってた。』
『ストーカーか…。ってか、向こうが探して会いに来るとか、どっちが「ご主人様」なんだって話だよ。』
『そこは、ほら、愛されちゃってるから?』
『…』
『突然の沈黙…。止めてよ、突っ込んでよ。今のは明らかな突っ込み待ちでしょう?』
ユージーに辱しめられた。あまりの羞恥に抗議してみたけど、何やら考え事を初めてしまったらしいユージーは、こちらの言葉を完全無視、全く聞いていない。
『…シノ、あいつ、ノアって、まだここに来んのか?』
『うん?あと何回かは来るって言ってたけど。…何で?』
『俺達も、ノアにテイムされるってのも、一つの手かなと思ってさ。』
『ええっ!?何で!?』
想定外のユージーの提案に、心底ビックリした。
『だって、ユージー、嫌じゃないの?私みたいにやむを得ず、場の勢いってわけでもないんだよ?主従契約とか、ノアに絶対服従、「イエス、マイマスター」とか言わなくちゃいけないんだよ?』
『…全然従ってねぇお前が、ソレ言うのか。…まあ、正直かなり抵抗はあるけどな。前世バレしたくねぇから、ステータス見られんのも出来れば避けたいとこだし。』
『じゃあ…』
『ただ、やっぱり、そろそろこの場所は出ていった方がいいとは考えてんだよ。いくらノアが強かろうが、ギルドにかけあってくれようが、結局、前回みたいな奴らがまた現れることを、完全には避けらんねぇだろ?だったら、安全な場所見つけるまでは、ノアにくっついて回るのも有り…、じゃねぇか?』
『うーん…』
まあ、確かに。どこにでもローから平気でアウトする人達はいるし、そもそも、ギルドとやらにそこまで強い権限があるのかもわからない。だから、ここを移動してもっと安全な場所に移動したいというユージーの意見に否やはない。出来れば、ヒナちゃんがもっと健康で文化的な最低限度の生活が営める場所に。
だけど、
『ここから移動するのは賛成。けど、ノアにテイムされるっていうのは、やっぱり反対。止めた方がいいと思う。』
『…理由は?』
『えーっとね、シンプルに恐い。』
『は?』
『ヒナちゃんやマリちゃんには、絶対体験させたくないレベル。』
それまで黙って話を聞いてたマリちゃんが、ビクッて反応した。マリちゃんに大丈夫だよって頷く。ヒナちゃんやマリちゃんには、絶対にあんな思いさせないからね。まあ、ユージーは一回くらい味わっといてもいいと思うけど。
『…恐いってのは、あれか?前に、ノアが他にテイムしてるモンスターが居るんじゃないかって言ってた、」
『そう!それ!』
今はもう、その正体不明の恐怖の正体はわかっているけれど、それでも、あの時感じた恐怖は完全には消えていない。今思い出しても腹が立つくらいに恐かったアレの正体―
『あのね、前に言ってた恐怖の生き物ってね、あれ、ブラウだったの!』
『ブラウって、あのブラウか?』
『そう!多分、そのブラウだよ!ブラウって、本当はブルードラゴンっていう種類の竜なんだって!』
『…なに?』
『そんで、わけわかんないくらいに強いらしくてね?最弱スライムとの圧倒的な種族差とレベル差ってのがあるから、こっちは死ぬほど恐い思いをさせられたんだってさ!とんだ圧迫面接だよね!?』
『ちょっと待て、シノ。あのブラウ…、子どもの格好してんのが、モンスター、竜ってことなんだな?』
『うん、そうだね?』
答えたら、何か、ユージーがおかしい。脱力、果てしない脱力感を全身で表していらっしゃる。マリちゃんも、何か言いたげに、ソワソワして?
『?ユージー?マリちゃん?』
『…お前、なんで、それを先に言わねぇんだよ…』
『え?』
『モンスターであるドラゴンが、人の姿してんだぞ?』
『そうですね?』
『…だったら、俺達スライムにも「人化」出来る可能性があるってことだろうが。』
『おー、…なるほど?』
『…人の姿になれりゃあ、スライムみたいに即駆除ってことはなくなる。そうすりゃ、長距離の移動、ここから出てくことも可能になるだろうが。』
『おー!なるほど、そういうことか!』
オーケー、把握。完全に把握した。
『凄いね、ユージー!そんなことよく思いついたね!神か!?あなたが神か!?』
『…マジで止めろ。』
全力で褒め称えたら、何故かユージーの脱力が増したし、マリちゃんにはソッと目を逸らされたけれど、取り敢えず、こちらの気が済むまで称賛はしておいた。




