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「ヒナコが落ち着くまでは狩りを控える」というユージーの方針のもと、生活が以前に近いものに戻った。
つまり、ユージーかマリちゃんがヒナちゃん用の果物類を交代で取りに行き、他の皆は虫食に戻ったということ。身体を元に戻すのに時間はかかるが、まあ、アンパイだよねと、納得してたし、別に、それで良かったんだけど。だけど、実は、本当は、正直に言うと、食生活はすっごく良い、すっごく豊か。豊かに、なってしまった。
それというのも―
『…また、来やがったか…』
「あれ?今日もお出迎えしてくれたの?」
キラキラーっとした笑顔と金髪で現れた男。ヒナちゃんを傷つけた張本人が、ここ数日、毎日のように洞窟に通って来ている。
『…エセ臭い笑顔しやがって…』
「うーん。威嚇されてる?今日は触らしてくれるかな、」
『近寄んじゃねー!!』
伸ばされた手を避けるはずみで、ついうっかり言葉が乱れた。
「やっぱりダメかー。この前のテイムがマズかったかなぁ?」
『帰れ!さっさと帰れ!その手の中のもん置いたら、さっさと帰れ!!』
ヘラヘラする男の手の中にあるもの、それは食料―
ヒナちゃんを傷つけた天敵男は、何がどうしてそんなことになったのかわからないけれど、我々を食べ物で懐柔し始めたのだ。つまり、あろうことか、餌付け。
多分、「野良猫、おうちでは飼えないけど、餌はあげちゃおうっかな?」的な感覚なんだろうとユージーと結論付けた男の行為。本当に、何たる屈辱!ヒナちゃんを傷つけた男に施しを受けるだなんて!
(だけど!だけど!仕方無かったんや!)
果物やパンに始まり、スープやジュース、果てはお菓子、ケーキまで貢ぎ始めた目の前の男に、私は、私達は、膝を折るしかなかった。膝はなくても、そうするしかなかったのだ。
勿論、最初は怪しんだし、男のことも食べ物も無視してた。けど、ユージーの「鑑定」で、食べ物が無害だってのがわかったら、まあ、仕方ない、よね?
だって、ヒナちゃんが。ヒナちゃんが、男の差し入れを幸せそうに食べるから。私では、私達では、食べさせてあげられないケーキとか、スゴく喜んでたから。目の前で無駄になっていく食べ物を無視し続けるなんて出来なかった。
(屈辱!けど、それでもっ!)
差し入れは認めても、男自身の洞窟侵入は認めない。認めないって言っても、男が本気出せば、容易く侵入出来てしまうんだけど、それでも中には入れない。ヒナちゃんには絶対会わせない。もらうもんはもらうけど、この男はここで門前払い、そう決めている。
「…うーん。でも、今日こそは中に入れて貰おうかなぁ?これは君じゃあ運べないから、ね?」
『…何?』
なんか、楽しそう。私の背丈まで身を屈めた男が見せたのは男の掌、そこにあったのは、
『…でっかい、イクラ?』
琥珀色の液体がプヨプヨした膜?みたいなのに包まれている。それが、五つ。
「これね、ジャイアントビーの魔力蜜なんだけど、この膜が特殊で、物理接触で割れちゃうんだよね。」
『え?え?何、何?』
掌の一つを摘まんだ男が、それを私の頭の上に乗せて、
『っ!ふぎゃぁぁあ!』
割れた!何か、頭んとこでピシャッて割れた!垂れてる垂れてる!液体垂れてる!
『何すんの!何これ何コレ!?イイ匂い!』
垂れてきた液体をチョロっと吸収してみたけど、スライムだと味がほとんど感じられない。雰囲気くらいしか。まあ、おかげで虫も食べれるんだけど。甘味かなぁ?って感じの液体を吸収してたら、
「…美味しい?」
『え?なに?そのイラッとする満足げな顔?これ何、何のプレイだったの?』
「じゃあ、他の子にもあげようかな。中、入れてくれるよね?」
『って待て!何をシレーッと勝手に入ろうとしてんの!?』
「んー?ダメかー。」
『いいから!それだけ寄越せ!その手の中のものを!』
強盗ばりに強請ってみるけど、多分、巨大イクラは割れやすいから、強奪はしない。プヨプヨ球体だから慎重に。仕方ない、皿を出そう。
「っ!?アハハハハハ!何、それ!?」
『…』
なんだ、こいつ。一人で爆笑始めやがった。私の河童スタイル~皿はひっくり返ってないよバージョン~をバカにしてるの?
「君、そんなことも出来ちゃうの?そこにコレを置けって?」
『…』
「あー、ごめんね?でも、それじゃあ、ダメなんだよね。膜を魔力で保護し続けないといけないから。ってことで、」
『あーーー!!』
「お邪魔しまーす!」




