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――さーん、――ちゃんのプレゼントって決まりましたー?
えー?プール一杯は、流石に…
ああ、ビニールプールの方ですね。ビックリした、お庭のプールの方かと思いました。
いやいやいや、私は入りませんよ。水着も買いません、要りません。――さんこそ、水着用意しといた方がいいんじゃないですか?――ちゃんきっと、「おばあちゃまも一緒にー」って言いますよ?
あー。でも、スライムって、下水に流して良かったんですっけ?詰まっちゃわないかなー?大丈夫かどうか、調べときますね?
色、ピンクでいいですか?――ちゃん、すっごく喜んでくれそう!私も、楽しみです!
だから―
だから、――さん、絶対、絶対、一緒にお祝いしましょうね?――ちゃんの…
『…』
目が覚めた。見慣れた土壁だ。
見慣れてるし、天井ですら無かった。あれー?私、どうしたんだっけなー?と思って、反対側、グリンと振り向いてみたら、
『ッ!?ギャァァァァアアアアアア!!!』
『…うっせぇよ。寝起きでそのテンション。』
眼が!?眼がぁぁああ!!
『こっちの台詞ーーーー!!寝起きから、何てもの見せてくれてんの!?グロ注意!!グロ注意ーーー!!』
『…お前、人の眼に対して、なんちゅう失礼な。あと、いい加減慣れろ。』
『まずはそいつを閉じろ!話はそれからだ!!』
『はぁ…』
ため息と共に閉じられた閲覧注意。ユージーが見慣れたチョコプリンに戻った。良かった。けど、
『いかん、今の衝撃で、なんか、全部、吹き飛んだ。大切な何かを忘れてしまった気がする。』
『…自分が何でぶっ倒れたかは、覚えてんのか?』
ユージーの言葉に、気づけば寝ていた―どうやら倒れていた―らしい理由を、頑張って思い出してみる。確か、
『…うーんと、海で泳いでたら、スッゴく深いところから、でっかいサメみたいなのが、デーデン、デーデンしてきて、』
『よし、そいつは夢だ。それじゃねえ。』
『ええ?』
速攻で否定されて、もう一度、頑張り直す。確か、
『あ!洞窟に人間が!』
ヤバイ!
そうだった。何で直ぐに思い出せなかったのか。ヒナちゃんに危険が、
『ヒナちゃんはっ!?』
『…無事だ。何も問題ねぇよ。今は寝てるけど、マリカが側についてる。』
『っ良かったー。』
一気に脱力。と、同時に、色々と思い出してきた。
洞窟に来た人間、私を焼き殺そうとしたアイツは、あの金髪イケメンが凍らせて、それで、イケメンは私のこと、助けてくれようとした?拾ってくれて、それで―
『あの、最初ここに来た人間、二人組が居たでしょう?あれの片割れの金髪が、何か、助けてくれた?っぽい?んだよね。』
『…何があった?』
『えーっと、最初、知らない人間が洞窟に入って来そうになって、ユージー達が出掛けて直ぐだったから、仕方ねーやったらーと思って洞窟出て…』
『…』
『森のとこまでは逃げられたんだけど、そこでちょっと炙られて、って!?』
ハッとして、確かめた。私、起き上がってるのに、ユージーがいつもの倍くらい大きく見えてる!
『私!?私!?縮んでる!?』
『ああ。いつもの半分以下、だな。』
『っ!?何てことっ!私の魅惑の低反発ボディが!!』
『…「炙られた」ってのは、焼かれたってことか?』
『うん、魔法で。あ、でも大丈夫だよ?その後直ぐに、金髪イケメンが冷やして?凍らせて?くれたから…』
まあ、それで爆発からの大炎上は免れた。そこは、うん、間違いなく助けられた。
『…気ぃ失ってた理由は?覚えてるか?』
『えっとね、何か、その後、イケメンがスッゴくいい顔してね?あれ?コイツ、私に惚れてるんじゃね?くらいの優しーい目で、』
『…』
『地獄に突き落としやがった…、あの野郎…』
『…』
『そう!それがさ!本当に、恐くて!真っ暗な空間を泳いでるんだけど、確実に何か居るのよ!足下の方に!』
思い出してもトラウマものの恐怖。
『それが、こう!一気に浮上して、襲いかかってくるわけ!そこまでしか覚えてないけど、もう二度と海水浴には行けないと思う!!』
泳ぐの、嫌いじゃなかったのに、最悪だ。涙の訴えに、ユージーが頷いて、
『…まあ、何となくは、わかった。』
『え?わかったの?今ので?』
ユージー、ヤバイな。本人も良くわからん体験を、今の訴えで理解するとか。
『…ヒナコによると、あの金髪はお前を「テイム」しようとして、失敗したってことらしい。』
『「テイム」?』
『ああ。…まあ、ゲームとかで言うと、動物やモンスターを、自分の手駒にする、手懐ける、ってところだな。』
『…ペットにする、ってこと?』
『愛玩用ってのも、もちろんあるが、敵と戦わせたり、場合によっちゃ、何かの素材にされることもある。』
『!?何それ、恐い!』
身の危険を、感じるわ!
『まあ、そうだけどよ。お前の場合は、どう考えても愛玩用だろう?スライムだし、…あと、あいつ、お前のことずっと撫で回してたし…』
『…』
身の危険を感じるわ…
『…で、だ。お前のテイムが失敗した理由ってのが、これじゃないかってのがある。』
『どれ?』
『これ。』
ユージーの言う、「これ」を見た。ユージーの足下、見覚えのない本が置かれている。なるほど、さっきの「眼」はこれを読んでいたらしい。けど、
『なに?この本』
『「モンスターテイマー入門書」』
『…』
最弱モンスターである我々が?他のモンスターをテイムとか?出来るの?
『…金髪が、置いてったんだよ。』
『…何で?』
『ヒナコ曰く「興味あるだろう?」って、ことらしいが、まあ、よくわからん。』
うん、本当に。色々と行動理由のよくわからない男だ。
『…まだ大して読めてないが、最初の、「注意事項」ってのに、「入手済みモンスターとの種族差、レベル差によっては、他種族モンスターの入手不可」ってのがあんだよ。』
『…先住ペットに慣れない新入りもいる、みたいな話?』
『まあ…、そんなとこか?だとすりゃ、お前がわけのわからん生き物に脅えたってのも、説明がつく気がするんだよな。』
『なるほど。あのイケメン、とんでもないモンスターを飼ってるってことか。』
『そうなる、な。』
確かに、暗闇の底に居たあれ、あれは犬だとか、猫だとか、そんなカワイイもんじゃあ、断じてなかった、うん。




