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そんなこんなで、あまりに突然だった初異世界人との遭遇は―死ぬほど恐怖させられたけれど―時間が経つにつれ、「結果、良かったんじゃない?」と思えるようになっていった。
何より、三人のレベルが上がったあの日から、我々のご飯がゴージャスになったのだ―
種類が少し増えて、たんぱく質が多くなった。この前はカラス?みたいな黒い鳥を丸ごと、ユージーが持ち帰った。私がかけた「速度強化」と「物理防御強化」を使って、飛んでくるところを丸のみ、圧迫、窒息コンボを決めて帰ってきたらしい。正に、飛ぶ鳥を落とす勢い、恐い。
突然のお土産は、流石に抵抗があったので、ユージーが一人で美味しくいただきました。
狩り組のユージー達だけではなく、私もそこそこ強くなったので、MPに余裕がある時は、ヒナちゃんを連れて洞窟の外、入口を出て直ぐのところで遊ぶようになった。ヒナちゃんは、今まで我が儘一つ言わずに、ずーっと洞窟の中だったから、少しはお日様に当たらせてあげたい。
そんな、ちょっとほのぼのな日が続いてる中、押し付けた図鑑を、ユージーはMP余った時に読んでるみたい、なんだけど。
『ユージー、恐い。』
『…』
開眼して、図鑑の表紙だけを凝視する茶色の塊。ヒナちゃんには、ちょっと見せたくない光景。あまりの光景に、血走った眼にビビりながら、話しかけた。
『…何してるの?』
『読んでる。』
『?』
『…透視で中を見て、鑑定で読んでる。これが、透視の正しい使い方だ。』
(お、おう?)
これは、ドヤァ!ってことだろうか?ユージーじゃ、ページ捲るの大変だから、まあ、わからなくはないけど、透視をいじったこと、まだ気にしてたのかな?大人げない。
あ、眼閉じた。そんな、血走るほど凝視しなくても。そもそも、
『面白いの?』
『面白い。お前らも。絵だけでも眺めとけ。そんで、教えてやるから、ちょっとずつ、字を読めるようになれ。』
『えー?』
『シノ、ちょっとページ捲ってくれ。』
はいはい。ご要望にお答えして、適当なページをペロンって捲ったら、
『これが、「毒」って文字で、こっちが「麻痺」。後は石化とかもありそうだから、それは読めるようになったら教える。今後のために読め。』
『えー、ユージーが翻訳してマリちゃんに画像上げて貰ってよ。』
『…お前。』
目鼻は無いけどわかる。凄い顔で見られてる。それから、
『あ、いや、そうか、そうだな…』
『?』
何か思いついた?らしきユージーが、嬉しそうに揺れて、
『マリカ!ちょっと手伝え!』
『…なに?』
ユージーの眼から距離を取ってたマリちゃんが呼ばれて近づいてきた。
『図鑑のページ、一旦全部アップしてくれ。で、俺がそれ見て翻訳出来た分を送るから、そのタイミングであげ直してって欲しい。』
『…いいけど、何ページあるの?』
マリちゃんの言葉にペラペラ捲ってみたけど、
『ページ数は書いてないねー。厚さは、体感で五センチくらい?』
『よし、やれ。シノはページ捲ってやって。』
『えー。』
と言いつつも頑張った。真面目にこなすマリちゃんの手前、サボるわけにもいかず全ページ。ヒナちゃんに見せられない自主規制ページが無かったことには安堵した。後、人魚とかハーピーが可愛かった。
『よし、んじゃ、スライムのページは翻訳版あげとくからな。ちゃんと見ろよ?他は翻訳できた分から随時更新だから、こまめに確認しろよ?』
『はーい。』
『…これで、図鑑持ち運ぶ必要は無くなったし、外で確認したい時に助かるな。後は、画像投稿に容量制限があるのかが不安だが…』
『制限って前も言ってたよね?それはつまり、どうゆうこと?』
『マリカのステータス画面には画像の枚数しか表示されないみたいだが、上げれる容量に限度があるかもしれないって話だ。』
ほう?つまり?
『…「何ギガまで」、とか、そういうの?』
『ああ、なるほど!保存出来る写真の数に限りがあるってことか!』
マリちゃんの補足に漸く理解が追い付いた。
『まあ、そんな感じだ。ただ、そもそも、画像を何処に投稿しているのかって話なんだよな。他にマリカと同じスキル持ちがいるのか?何処かサイト、サービスにアクセスしてる?それだとセキュリティ的に恐いな。究極、マリカが自宅サーバって可能性も…』
『ちょっと、何言ってるかわかりません。』
『…まあ、とにかく。限度があると仮定して、無駄は極力無くしたいってことだ。』
『ふむ?』
無駄っていうのは、この場合、何を指して?
『マリカ、タグつけてくれたんだな。この、「草分類」はいいな。凄い使える。お前が上げたんだろ?』
『…別に。ヒナちゃんが外に出る時、毒草とか間違えたらいけないと思って…』
プイッてするマリちゃんにニヤニヤする。
『ただ、な、その…』
ユージーの視線がヒナちゃんをチラチラと見て、
『この、「わたしがかんがえたかわいいいきもの」?この、よくわからんカテゴリーの生き物の映像は消してもいいか、ヒナコ?』
『…私じゃない。』
『はい!私が上げました!』
『お前かよ!?』
ユージーの突っ込みに、元気に頷く。
『だって、可愛いじゃん!家で飼えないから、せめて映像で癒されたい!』
『…かわいいの、好き。』
『別にいいじゃん。容量制限引っ掛かったら消すから。』
『お前らなー。』
ユージーが止めて、突っ込んで。マリちゃんやヒナちゃんが味方になってくれて、ユージーがため息ついて。
死と隣合わせ。弱すぎて死にそうだけど、まあ、愛しいと思えるこんな毎日。




