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レベルが上がり、スキルが増えたことで余裕が出来たのか、或いは、レベルが上がったにも関わらず貧弱なスライムステータスに諦めがついたのか、ユージーは、結局、洞窟への残留を決めた。
ヒナちゃんから聞いた金髪の発言を前提に、今すぐここから出るリスクの高さを考慮して、ユージーが出した結論。本当に悩みまくった末の彼の判断に、反論は無かった。
『そうすると、後は、これだな。』
言ったユージーの目の前にあるのは、ハンドブックサイズの図鑑。金髪から奪ったそれを少し捲ってみれは、中にはカラフルなモンスターの絵が沢山載っていた。何となく流し見してから戻った、図鑑の最初の一ページ、
『スライムだ。』
やはりと言うべきか、五十音順じゃないのか?と突っ込むべきか、そこには見慣れたフォルムの仲間の姿。水色で画かれたそれに、一番近いのは恐らく自分だろう。絵の横に書かれている文字を眺めてみるが、
『…絵はわかるけど、読めない。』
『ヒナちゃんは?読める?』
『…読めない。』
『そっかそっか。まだ年長さんだもんね?ひらがなは読めるんだから、凄いよ!』
ショボン気味のヒナちゃんをナデナデしつつ自分が癒されていたら、不穏な気配。何気に隣を見たら、
『ギャァアッ!?恐い恐い!!いきなりやんないで!向こうでやって!!』
いつの間にか、隣でデッカイ「眼」が開いていた。
『鑑定なら、読めるな…』
そう言ったっきり、ページを凝視しているユージーを見るのは恐いから、図鑑の方、画かれてるスライムの絵を見る。スライムが水色なのは、やっぱり、この色がスタンダードだからなのか?
絵だけじゃ情報が少なくて、考えることも大して無い。思考が尽きそうになったところで、ユージーが呻いた。
『あぁ、やっぱりか。くそっ!』
『え?何?どうした?』
ユージーの眼が閉じたことを薄目で確認してから、視線を向ければ、
『…レベル上限がある。』
『?』
『スライムのレベルは、最高でも20までしか上がらないってことだよ。』
『…それは、マズイ、よね?』
『マズイ。最大HP200に、最大MP100って何だよ?ゴミだな、ゴミ。…いや、けど、まだ進化の可能性が。短時間しか読み進められないのがネックだが、まずは、スライム関連のページを先に読み込めば…』
ブツブツとハマり出したユージーに「?」を振って、こちらへと注意を引く。
『ユージーは、どこを目指してるの?』
『…どこって、何の話だ?』
『地上最強の生物でも目指してるの?』
『は?』
『背中に鬼飼うの?二番じゃ駄目なの?』
『は?いや、待て、何の話、』
『ユージーが、必要だっていうことならやるし、努力するよ。ユージーは私達の監督権主将だからね?でも、現実問題、私達ってスライムなんだよね。』
『…』
『だからきっと、地上最強とか、もうそれスライムじゃなくない?っていう種族を越えた強さっていうのは難しいんじゃないかな?努力で越えられる?』
『…』
(あ、…しまった。)
黙って固まってしまったユージーに言い過ぎたと気づく。責めるつもりでも、困らせるつもりでもなく、どちらかと言うと、「無茶はし過ぎないでね」「難しく考えんなよ」っていうつもりだったんだけど―
(…ユージーは、「お兄ちゃん」だからなぁ…)
反省。私の無責任な発言に、考え込んでしまったユージー。失敗失敗。だけど、言った内容自体は、本気で思っていることだから、訂正はしない。ちょっと、そっとしておこうと決めて、ユージーの前、眺めてる途中だった図鑑をペラリと捲る。
見たことの無い生き物が次々と現れる図鑑を眺める内に、人間に近い、所謂「人型」のモンスターも現れ出して、
(あ、ヴァンパイア?かな?へー、居るんだ。)
既視感のある分かりやすい絵に何となく感心して、捲った、次のページ。
「っ!?」
またしても、見たことのある―
だけど、これは、思い出せない前世の記憶から引っ張ってきたものではない。見慣れた粘性生物の足元から、人の足がチョロッと垣間見えている絵。
急いで周囲を確認した。ユージーは、呆けながらも図鑑は眺めていたらしく、ピシリと固まってしまっている。マリちゃんの視線も図鑑に固定され、ヒナちゃんは、
(っ!良かった!セーフ!)
読めない字に、リアリティを追及した可愛くはない挿絵。どうやら図鑑に飽きてしまったらしいヒナちゃんは、定位置で地面にお絵描きを始めていた。
(よし!やるなら、今!)
『あ!おい、シノ!?』
『食べる!』
『待て!なら、せめて読んでから!』
『ダメ!これは、ホントにアカンやつ!誰も幸せにならないやつ!』
『じゃあ、せめて捕食スキルの説明くらいは、』
『だめだよ!』
反射で叫んでから、一気に声を潜める。
『もし読んで、スライム的に安心出来るやつだったら「良かった」で終わるだけだけど!スライム的にバッドなやつだったら、どうするの!?』
『それは…』
『ハイリスク!ローリターン!』
『…シノさんに賛成。ヒナちゃんは、ヒナちゃんだから…』
マリちゃんも賛成してくれた、よしよし。
ヒナちゃんが、呼んだ?ってこっちに顔を上げた。それに手を振って、何でも無いよって言えば、またお絵描きに戻るヒナちゃん。可愛い。
『まあ、仕方無い、か。』
渋々だけど、納得してくれたユージーに、該当ページを溶解した図鑑を押しつ、…進呈した。ぐいっと。
『うん!この図鑑はユージーにあげよう!進化だっけ?好きなだけ読み込むがいい!』
『…』
他にも有害なページがあるやもしれん禁書。子どもにはまだ早いやつだ。ユージーには、思春期に培ったであろう能力を遺憾なく発揮して、ヒナちゃんに見つからないように隠しといてくれって頼んだら、俺、データ派だったからって答えが返ってきた。なんだそれ。




