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『…なに?ユージー?「透視」スキルにどう言い訳出来るっていうの?弁明?出来るなら聞くけど?』
『…いや、俺も取りたくて取ったわけじゃねぇし。お前らだって、そうだろ?』
『ふーん?』
それは、本当に心からの言葉、嘘偽りの無い言葉だと言えるか。僅かにでも「ラッキー」と思わなかったと言えるか。小首傾げて、一生懸命お話聞こうとしているヒナちゃんの目を見て言えるのか。という思いを込めて、ユージーに流し目を送れば、
『どのスキルも、「開眼」が発動条件だし…。そういう…、お前らが考えてるようなことには使わねえよ。』
『ほーん?』
『お前!話聞く気ねーだろ!?』
うん。最早、ただの惰性、止めどころの分からない悪ノリだったりする。
『ああ、もう、俺のことはいい。お前らの、シノのスキルとか、相変わらずなネーミングの割に使えるだろ?そういうことを話したいんだよ、俺は…』
からかい過ぎたらしい。心持ち潰れてしまったチョコプリンに、マリちゃんが大袈裟にため息をついて見せ、
『…仕方ない。今回は見逃す。』
『マリちゃんが、そう言うなら?』
乗っかってみたら、チョコプリンが力なくフルフルと首を振って、復活した。高さを取り戻した。打たれ強いのはいいこと。
『…シノ、お前のスキル。エクストラの「この子のためならなんたら」っていうやつは、相変わらずグレイアウトのままか?』
『うん。無理。詳細も開かない。』
『じゃあ、スキルが増えたタイミングは分かるか?俺の場合は、レベルが1上がる毎に、スキルが増えんだが、シノとマリカはそれじゃ、数が合わないよな?』
『私の場合は、レベルが5に上がったタイミングで、二つ増えたよ?』
『…私も。』
『ふーん。スキルの習得条件は各々、多分、称号で違うってことか。だとしたら、レベル上げする優先順位をつけた方がいいのか?せめて、スキルツリーがわかりゃなぁ…』
意識共有で一人言を言い始めたユージー。
『おーい、ユージー?』
意識を引っ張ってみれば、
『ああ、すまん。じゃあ、まあ、それは置いといて、シノの速度強化と物理防御強化については、どっちも後で確認しよう。持続時間とか、』
『「遅刻するわよ」と「いってらっしゃい」、ね?』
『…』
何だよ。正式なスキル名称なんだから、ちゃんと呼んで欲しい。
『…あと、マリカの「フォロワー数上限が増える」ってのも、増えたから何だって話で良くわかんねえけど、MPが増加したから、印象操作が出来る回数は増えたな。一度に複数を相手に出来るのもデカイ。狩りが捗りそうだ。』
『うん。』
ユージーが嬉しそうに言って、マリちゃんが嬉しそうに答えてる。
「あとは、印象操作がかかる時とかからない時の違い、これも出来れば検証したい。…俺の推測で言えば、相手とのレベル差によってスキルの成功率が違ってくるんじゃないか、とは思ってるんだが…』
『つまり??』
『自分より、遥かに強いやつには、スキルがかからない。…俺の鑑定にしてもそうだが、あの金髪男には全く効かなかった、だろ?』
『なるほど。』
実力の乖離した相手に、自分の「技」が効かないというのは普通にあり得そうだと思って頷いた。
『後は、マリカ、「ブラッディクロウ」、森で襲ってきたカラスのこと、覚えてるか?』
『うん。』
何やら二人だけの会話にマリちゃんが頷く。
『これは未だ不確定過ぎて、断定は恐いんだが…。あいつ、前に俺を襲って、マリカに印象操作をかけられた個体、なんじゃないかと思うんだよ。二度目の襲撃で俺を狙わなかったのは、「俺は食えない」って印象がまだ残ってたからじゃねぇかって。』
『…時間が経っても、スキルの効果が消えてないってこと?』
『消えない、もしくは、持続時間がかなり長いって可能性がある。だとしたら、具体的にどれくらいの時間持続されるものなのか、これも調べてみたいな。…害の無い印象で、自分で計ってみるか…?』
何事か悩み始めたユージーの意識が、ブチブチと細切れで流れてきて、
『あ。あと、カラスと言えば、あれだよ。「身体動かなくなる」って印象操作は、一瞬しか効かなかっただろ?」
『うん。』
『あのカラス、レベル自体は1しかなかったから、レベル差でかからなかったってことは無いと思う。以前と同じ個体だとしたら尚更、一度はかかってるんだしな。』
『…私が弱い、スライムだから?』
『種族差ってことか?まあ、あり得なくはないが、種族で言えば、あのカラスも大したことなさそうだったんだよな…。後は、「印象」ってとこがポイントなのかもしれない、とは思ってんだけど…』
『どういうこと?』
一人で黙って考え込みそうになるユージーをつつく。
『…操作出来るのは、あくまで印象。相手に「そりゃ絶対違う」って悟られたら、効果が無い、ってところか?』
『なるほど?』
自信無さげなユージーの答えに、こちらも、良く分からないまま相づちを返す。
『…よし、マリカ、ちょっと俺に印象操作かけてみろ。あー、あり得ないことなら何でもいい、「シノは絶世の美女」とか。』
『え…』
『やってくれ。もし万が一、本気でかかっちまったら、「ただのスライムだ」ってかけ直してくれればいいからさ?』
『…わかった。』
『…』
気まずそーに返事したマリちゃんが、恐らくスキルを使った。ユージーがこちらを見つめる。じーっと、じーっと見つめて、
『よし、オーケー、大丈夫。ただのスライムだ。』
あっさりと告げて満足そうにしている。
(何だ…。何だろう…?)
「印象はあくまで印象。洗脳は出来ないよ」って実験だったのはわかる。わかるんだけど、え?なに、この、そこはかとない屈辱感。




