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3-4



ごみ捨て行ってきたよー!という軽いノリで戻った洞窟。ホッとした様子で岩陰から出てきたマリちゃんとヒナちゃんの横を、ユージーがニュルニュルと通り過ぎていった。まだ少し、ご機嫌斜め。もしくはあれだけ取り乱した姿を見られて気まずいのかもしれない。暫くそっとしておこうと見送ったユージーの代わりに、マリちゃんがニュルニュルと近づいてきて、


『…シノさん。ありがとう。』


『ううん!全然大丈夫。ユージーも手伝ってくれて、そんなに重くなかったから、余裕だったよ?』


『それも、だけど…』


『?』


おや、何か、マリちゃんの声も暗い。やはり、先ほどのユージーの行動、剣幕が恐かったのか、落ち込んでしまったのかと心配になってしまったが、


『…ユージを、止めてくれてありがとう。』


『うん?』


『ユージが、さっきの人、食べるって言った時に、私、ユージにそんなことさせたくなかった。』


『マリちゃん…』


『だけど、今までユージがやるって言ったことって、いつも正しくて。虫とか、蛇とか蛙食べて、ユージ、本当に大きくなったし、狩りの時は、いつも身体張って庇ってくれるし。』


『…』


『だから、私、やめてって言いながら、本当はユージが正しいのかも、止めるのは間違いで、これは私の我儘かもしれないって思ったら…。本気で、止めれなかった。』


細かくフルフルし出したマリちゃん。スライムな私達は、悲しみや苦しみを分かりやすく涙を流して伝えられないから、本当に厄介だ。


『シノさんが…、シノさんが、止めてくれて良かった。でないと、私、ユージに、スゴく嫌なことさせちゃうとこだった。シノさん、ユージを止めて、くれて、ありがとう。本当に…』


『うんうん。マリちゃんも、恐かったのに、頑張ったよ。』


あの咄嗟の状況で、自分のことではなく、人のこと、ユージのことを色々考えられるマリちゃんは、うん、やっぱりイイコ。伸ばしたウニョンウニョンで、頭を撫でる。


暫く、無心にそうしていたら、背後から掛けられた小さな声。


『…シノちゃん、あのね?』


『ん?ヒナちゃん?どうしたの?』


『さっきの人ね、「恐くない、大丈夫だよ」って、言ってたよ?』


『!?』


ヒナちゃんの発言に、核が停止しそうになった。いや、だって、そんな、ヒナちゃん、


『…さっきの人達の言葉、分かったの?』


『うん、分かった。』


そして、それを素直に認めちゃうのかぁ―


ヒナちゃんの足元に、思わず視線が行ってしまう。


(そっか。そうだよなぁ。ヒナちゃん、「人」っぽいもんなぁ。分かっちゃっても、不思議じゃない、けど…)


『…よし!』


『?』


『ヒナちゃん!この事態はシノちゃんの手には余ります!ということで、ユージーに、ユージーに報告しよう!そして、判断を仰ごう!』


まだ少し、良く分かってない風のヒナちゃんと、時間が経つと余計、接しづらくなること請け合いのマリちゃんを連れて、ブレーンの元へと向かった。


洞窟の隅、壁際で微動だにしない茶色は、壁に同化しようとしているのだろうか?残念ながら、質感的に完全に失敗してしまっているが。


『ユージー、ちょっと、話ある。大事な話。』


『…何だ?』


改まれば、少しの()の後、返ってきた返事。


『…ヒナちゃんがね、あの男の言葉、分かったって。』


『!?』


ユージーの視線?が、ブルンとヒナちゃんを向いた。その視線に、コクリと小さく頷いたヒナちゃん、


『あのね、あの人ね、ヒナ達を見て、「スライムだ」って喜んでた。あと、「恐くないよ」って言ってたし、ヒナ達恐くないように、剣捨てて、男の子に「外に行って」って言ってたよ。』


『…』


与えられた情報もそうだけど、「ヒナちゃんは異世界の言葉が分かる」という事態をどうするか、どう、処理するつもりなのか、ユージーに丸投げして、見守っていたら、


『…ヒナコ、凄いな。よくやった。ちゃんと聞いてて、偉いな。助かった。』


『っ!うん!』


誉めた。ユージーがヒナちゃんを上手に誉めた。何でわかんの?とか、私達は分かんないんだけど、とかの突っ込み無しに。


そして、そのユージーの言葉にヒナちゃんが、メッチャ喜んでるから、うん!これが正解か!


『ヒナちゃん、ありがとう!シノちゃんもお礼言っとかなきゃだね!ヒナちゃんのおかげで大助かり!』


『うん!』


素直、嬉しそう、可愛い。


ユージーが良い仕事をしてくれて良かった。そして、ユージー自体も、だいぶ復活したみたいだから、もう、つついてもいいのかな?


『それで?ユージーは壁見て何してたの?』


『…壁じゃねぇよ。』


そう言って、少し身体をずらしたユージーの向こう側、壁との間にあったのは、


『ああ。さっきの金髪やろ、…金髪のお兄さんが、捨てて行った剣か。』


『…「鑑定」してみたら、「魔力剣」っていう種類と、「カグサタス」って銘が見えたから、そこそこ良いもんなんじゃないかと思う。』


『へー。でも、流石に私達には使えないんじゃない?持つくらいは出来るけど、それで切るのは無理だと思う。』


『使うんじゃなくて、』


『え?』


『食う。』


『…』


そうだった、悪食ユージーに、それ以外の選択肢があるわけなかった。


『…食べれる、の?』


『分かんねぇがやる。それで少しは強く…、ましになれんなら、やるしかねぇ。』


そう言って、剣ににじりよったユージーが、鞘ごと、剣を溶かし始めた。


『っ!?コレ、やばいな…』


言いながらも、ユージーは、溶かすのを止めない。


『食えないことはないが、なんっか、きつい。…魔力、のせいか?吐き気?ってか、胸やけっつうか。…まあ、何回かに分ければ、』


『…私も食べる。』


『マリカ…?いや、これ、本当に、結構…』


ユージーの躊躇いを無視して、「食べます」宣言をしたマリちゃんが、ユージーの反対側、剣の柄?の部分から溶かし始めた。途端、


『っ!?』


『マリカ、お前、あんま無理すんな…』


『…食べる。』


ブルリと大きく震えたマリちゃんの身体。消化も、一端止まってしまったけれど、また、意を決したように、少しずつ、少しずつ、柄を溶かし始めて―


そんな二人の、真剣な様子を眺めていたら、不謹慎だと思うし、二人に悪いと、そう思う、思うのに、それでも、どうしても、言わずにはいられなかった―


『…ポッ○ーゲーム。』


『!?』


『シノ!?てめぇっ!?言うなよ!思い付いても言うな!』


『あ!その言い方は、やっぱり、ユージーもそう思ってた?』


『っ!?』


二人の距離を縮めるのがお菓子じゃなくて刃物ってところが、異世界らしい殺伐さを表してるけど、やはり往年の合コン代表ゲームの名に相応しく、マリちゃんとユージーの仲は縮まってるんじゃないかな?


微笑ましい気持ちで見守った。


まあ、残り三分の一程で、「後はシノが食え」とのユージー命令で、ゲームは破綻してしまったんだけれど。


後、剣はやっぱりヤバイやつだったらしく、剣を食べた私達は、一気にレベル5まで上がった。







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