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3-3 Side N



ユルユルと遠ざかる気配、弛みそうになる口元を引き締める。


まだ…、あと、もう少し―







完全に消えてしまった二つの気配と入れ替わるように近づいてきた気配。馴染みのそれに、ゆっくりと身体を起こす。


「…服が、無事のようだな?」


「うん、消化され損ねちゃった。」


「…殺してしまったか?…割に、機嫌がいいが。」


「いや、殺してないよ。やられたふりして倒れてみたんだけどね?茶色の、異様に体格いいのが居たでしょ?あいつに体当たりされて!」


思い出すだけで笑ってしまう。まさか、スライムに、あんな攻撃を受けるなんて。


まとわりつき、絡み付いて動けなくするか、呼吸を奪ってから、消化、溶解してくるのがスライムの基本。それが、まるでこちらを追い払うように―そう、あれは正しく牽制、こちらを押しやろうとしていた―体当たりで挑んできたスライム。鋭い牙も、爪ももたない低級モンスターなりの精一杯の足掻き。


そう思うと、スライムというのはなんて弱くて、憐れな生き物なんだろう。本当、笑ってしまうくらいに―


「…やられたふりして待ってたらさ、一瞬だけ、消化されるかなぁ?って動きを見せはしたんだ。けど、結局、最後まで攻撃らしい攻撃もしないで、最終的にここまで運ばれて、置いてかれちゃった。」


「…確かに、妙、ではあるな。」


「でしょー!しかも、運んでくれた子が、あ、普通の水色の子ね?その子の背中、スッゴく気持ち良かったんだよね!今まで、スライムって消化してくる時のあの何とも言えないピリピリ感が最高!って思ってたんだけど、」


「…」


「ちょっと考えが変わったなぁ!何て言うの?包み込まれるような心地よさ?身体が、沈みそうで沈みきらない?みたいな?うーん、あれは、癖になりそう。」


「…何でも良いが。ならば、今後は態とスライムに消化されるのは止めてくれ。…お前の趣味に、毎回、服なりなんなりを用意して付き合わなければならん我の身になってみろ…」


外見にそぐわない老成した表情で、深く嘆息するブラウに笑う。


「だから、最初っから一人で裸で行くって言ってるでしょう?」


「止めろ。そんなところを人に見られたらどうする。…また、不名誉な謗りを受けることになるであろう?」


「うーん?僕は気にしないけど?」


「…ノア、お前はもう少し人目を気にしろ。」


苦い顔を浮かべっぱなしのブラウとは、自身が産まれた時からの付き合い。ガルシアの直系と代々主従契約を結んできた長命の竜は、自身が産まれると同時、後継の契約者にこの身を指名した、らしい。


実際、先代契約者であった祖父が亡くなると直ぐ、自身が六つの時に、ブラウとは相棒兼主従となった。テイムモンスターと言うよりは保護者としての意識が強いらしい竜には、気付けばいつも小言ばかりを聞かされている気がするが。


(まあ、それも、僕が「いい加減」だから、なんだろうけど…)


やりたいことはやりたいし、やりたくないことは、基本、やりたくない。それでも、与えられた「お役目」、義務は果たしているのだから、後は好きにさせて欲しいと思う。


「ああ、そう言えば、置いてかれる時、最後に水色の子に何か魔法?かスキルを使われたっぽいんだよね」


「毒か…?」


「いや、回復系の何かだと思う。体力が減ってなかったから、確かじゃないけど。魔力の気配がそっち系統だったから。」


「スライムが?回復系とは、珍しいな。」


「うん、だよね。…テイム、しちゃおうかな?」


何となく、意識する間も無く口をついた言葉は、自分で言って、スゴく良い考えのように思えてきた。


けれど、まあ、僕の「良い考え」は、


「相手はスライムだぞ?」


大抵、ブラウに反対されてしまう―


「我との種族差が有りすぎる。レベルも乖離し過ぎておるからな、相性が悪いなんてものではない。無理にテイムすれば、間違いなく死ぬであろう。」


「うん、まあ、そうだよねぇ…。…じゃあさ、ブラウ、僕との契約、解除する?」


「…ノア、冗談でもそういうことを口にするな。」


「はいはい。」


こちらの軽口に、今までで一番不機嫌な声を出したブラウの苦言に、気のない返事を返せば、


「そもそも、だ。ノア、お主、先ほどのスライム達に警戒されているのであろう?好意どころか敵意を持たれている相手、上手くいく道理がない。」


「だよねぇ。あれだけ警戒されちゃうとなぁ。おまけにブラウと契約したままじゃ、それこそ積極的に、死ぬ気でテイムされてくれる子じゃないと。皆、ブラウのせいで逃げ出しちゃうもんねぇ。僕、これでも、職業『テイマー』なんだけどなぁ?スライムさえテイム出来ないテイマーって、本当、どうなんだろう?」


「…ノアには我がおる…、それで構わんだろう?」


己の意思で結んだ契約ではないことに対する引け目か。血で受け継がれる契約に縛られた最強種、ブルードラゴンの情けない声に失笑した。


「はいはい。まぁ、今のところは、諦めるしかない、かな?取りあえず、あの子達に好かれるように差し入れでもしてみようっと。レベル差は、まあ、難しいとこだけど、少しでも上がるまで待ってみようかなぁ。」


「…それでノアの気が済むのなら、好きにすれば、」


「あ!ギルドに言って、ここら一帯立ち入り禁止にしてもらおう!あの子達が他の人間に狩られたり、持ってかれたりするのは嫌だからね。」


「…」


念のための予防措置。こんな、何の旨味も無い狩り場に、態々スライムを狩りに来るような酔狂な人間は居ないと思うが。駆け出し冒険者が、偶然に訪れる可能性はある。


「あと、ギルドで思い出したんだけどさ、ギルド行ったら、『モンスター図鑑』再発行してもらわないと。」


「何…?」


「さっきの子達に図鑑持ってかれちゃったんだ。本当、面白いでしょう?」


肩をすくめて笑って見せれば、マジマジと見つめられ、


「…ノア、剣は?『カグサタス』はどうした?」


「あ。そっちは、普通に忘れてきちゃった。」


「…名匠ベルノルトが打った魔力剣、この世に二つと無い名剣だぞ?」


「うーん。まあ、次、あの子達に会う時に忘れてなかったら回収するよ。」


まだ、何か言い足りなさそうなブラウの視線は無視して、歩き出す。久し振りに出会えた、胸がワクワクするような感覚。彼らが直ぐに死んでしまいそうな不安はあるけれど、折角見つけた不思議な生き物達。暫くの間は、これで退屈しなさそうだという予感に、知らず、足取りが軽くなる。








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