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3-2



『…ユージ、その人に、何かした…?』


『…』


仰向けのまま目を閉じ、動かない男。恐る恐る、マリちゃんが口にした言葉に、ユージーの返事はない。代わりのように、ユージーの「眼」が開いて、


『…ユージー?』


『っくそっ!!』


『ユージ!?何するつもり!?』


直ぐに閉じられた眼、男の顔を包み込んだユージーに、マリちゃんの悲鳴が上がった。


『食うんだよ!こいつを!』


『何で!?だって、この人、人間だよ!?』


『うっせー!!わかってんだよ!んなことは!』


『ユージ!やめて!!』


『っ!全っ然、見えねーんだよ!こいつ!』


興奮したユージーの、焦ったみたいな、脅えたみたいな声。


『鑑定が全く効かねえ!そんくらい、こいつは強いってことだろ!?だったら、意味わかんねえけど、今のこれはチャンスだろーが!?こいつを殺して、食えば!』


『ユージ!やめてよ!お願い、やめて!!』


『じゃあ、お前は死んでもいいのかよ!?俺か、お前か、ヒナコかシノが!?こいつに殺されてもいいってのか!?』


『っ!それは!けど!でもっ!』


『お前らに食えとは言わねえよ!だから、大人しく、』


『待って待って。ユージー待って。』


皆の命が危険にさらされて、余裕を失ってヒートアップするユージー、


『ああっ!?』


そんな、みっともないくらい必死な姿が、


『シノ!お前まで邪魔する気か!?』


たまらなく、愛おしくなる―


『…落ち着け、ユージー。落ち着いて。気持ちはわかるけど、今のとこ、その人、動きそうにないし。とりあえず、一回離れて離れて。』


『ふざけんなよ!?お前!そんなことしたら!』


皆が死ぬって?それくらいなら、ユージーが「(ひと)」を食べるって?


(バカだなぁ…)


ほんと、バカな子だ。だけど―


『ヒナちゃんやマリちゃんの前で食べれるの?』


『っ!?」


『生きたままの人間、ドロドロに溶かして殺して消化するの、二人に見せれるの?』


『っ!シノ、二人連れて、』


『やだ。いつものユージーなら、そんなこと絶対にしない、言わない。…自分でも、頭に血が上ってるのわかるでしょう?』


『…』


『…取りあえず、本当そろそろ、その人から離れて。窒息しそうだし、離してあげてよ。』


黙って、だけどユージーが、男の顔からニュルニュル降りていく。


(はー、焦った…。)


まだ生きてるかな?抱えたままだったヒナちゃんを降ろして、男に近づき生死を確認する。うん、生きてる。良かった。


『…やらなきゃ、やられんだろが…』


ユージーの呟き、多分、ユージー自身にも言い聞かせてる言葉。


『うん。まあ、そうだね。そうなんだけど。でも、ユージー、嫌でしょ?』


『…』


『抵抗、あるでしょ?』


『…ここでこいつを生かして帰したら、次は本当に殺されちまうかもしれねーだろ…』


『うん、その可能性はあるよね。けどさ、今、焦って下していい判断じゃないと思うんだよね。…「人を殺して食べる」のって。』


『…』


『ご飯は美味しく食べたい…、いや、美味しくはないな、最近…』


虫だし。葉っぱだし。でも、


『だけど、一生抱えちゃうような罪悪感に苦しみながら食べたくはないじゃない?』


『…今ここでこいつを殺さなかったら、俺はきっと後悔する。』


『大丈夫大丈夫。』


そんなの、その時になってみないとわかんないんだから。その時は、一緒に後悔してあげよう。だから、ユージー、


『まだ、慌てるような時間じゃないし、断固たる決意が必要な場面でもない、でしょ?』


『…お前…』


よしよし、ちょっとだけ、ユージーの肩の力が抜けた。やっぱり長男だからかな?ユージーは本当に、責任感が強くて大変そうだ。


『んじゃ、取り敢えず、ユージーの心がグラグラするとまずいから、コレは私がお外にポイしてくるね?』


うちの子が闇落ちする前に、急いで男の身体を持ち上げようとしたら、


『…いや、ちょっと待て、シノ。その前に、そいつの持ち物、使えそうなもんはもらっといた方が…』


『…』


『…何だよ?』


『…冷静。途端に冷静。え、やだ、ユージーが恐い。』


でも、安心した。


『…うるせえ。基本だよ基本。』


『え?追い剥ぎが?何の?…普通にひくわー。』


『…』


『だが、それがいい!!』


「サムズアップ」してから、ウニョンウニョンを伸ばして男の懐をまさぐる。


『あ!何か、本が出てきた!ハンドブック的なのが出てきたよ!もらっとく?何の役に立つのか不明アイテムだけど、一応もらっとく?』


『お前…』


『うーん。後は、特にない、かな?残念。』


お財布らしきものも持っていない男の生活が、気の迷いレベルで一瞬、気にはなったが、


『よし!んじゃ、ちょっくら捨ててくる!』


エアーマットをイメージして、うすーく伸ばした身体に、空気を含む。なるべく平たく、男の身体が乗るギリギリの大きさで、弾力性はキープ。


(魅惑の低反発ボディを、なめんなよ?)


ユージーに手伝って貰って、男の身体を背中に乗せた。


『あ、ダメだ。やっぱり重い、無理。ユージー、足の方持って。』


『…』


黙って男の無駄に長い足を背中に乗せたユージー、


『シノ…さっきの、もう一人の子どもの方が外に居るかもしれねえから…』


『大丈夫!その時はこの人、盾にして逃げればいいから!』


『…』


『念のため、ヒナちゃんとマリちゃんは、ちゃんと隠れててね?隠れてるの探してまでどうこうしそうなウエットな感じの子じゃなかったから大丈夫だと思うし、この人の治療?もあるだろうから、追っかけられることは無いと思うけど。』


それでも念のため、マリちゃんにヒナちゃんを頼んでから、入口へと向かう。


たどり着いた入口、男を背中に乗せたまま、洞窟の外を確認。目に見える範囲に誰も居ないことを確かめてから、ニョロニョロと這い出した。


『この辺でいいかな?』


『…ああ、どうせもう、洞窟の場所はバレてるしな。あんま、あいつら置いて離れたくねぇし。』


ユージー了解のもと、草の背が低いところ、見つけやすい場所に、男をポイ。ってしたかったけど、いや、気持ち的にはポイってしたけど、それで目を覚まされても困るから、そーっとフワーッとニュルーっと地面に降ろす。


ついでに、一応、怪我してる可能性を考えて「回復(ごはんよー)」をかけておいた。恩だよ、恩。これは、恩を売ったんだよ。そこんとこ、気絶してても気づけよ?察しろよ?クールに言い残してから、ユージーと二人、来た道を戻った。







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