3-1 初異世界人が色んな意味でレベル高過ぎた
「わー!見てよ、ブラウ!スライムがこんなに!」
『『『!?』』』
人間、突然過ぎると、本当に思考が停止するんだなって思った。スライムだけど―
ユージーとマリちゃんが一狩りから帰ってきた、午後のまったりタイム。ご飯を食べたヒナちゃんが、コックリコックリ船を漕いでる姿を肴に、ユージーが狩ってきた蛙の足をモグモグしていた時。
突然、ほんと、何の気配も、足音さえもさせずに現れた二人組。背の高い二十代前半くらいの男と、十歳くらいの男の子。
「はは!すごい!面白い色の子までいる!」
聞いたことのない言葉ではしゃいだ声を上げているのは、年上の男の方。サラッサラの金の髪を一つにくくって赤い瞳をキラッキラ輝かせて、子どもみたいな表情で凄く楽しそうに笑ってるのが、滅茶苦茶恐い。何で恐いのかなんてわかんない。けど、この人は恐い。
男の隣、男を冷めた目で見てる男の子の方は、お人形さんみたいに綺麗な顔。銀のボブヘアが、凄く似合ってる、碧の瞳も綺麗。なのに、この子も、恐い。すごく、恐い―
思わず、ジリッと動く、目を覚ましたヒナちゃんの方へ。マリちゃんも寄ってきて、その前に、ユージーが、皆の壁になるように立ちはだかった。
「あれ?怯えられちゃってる?大丈夫だよ?恐くないから、ね?」
男が詰めた一歩、ヒナちゃんにギュッと身を寄せる。
「うーん?可笑しいなあ?魔力、目一杯抑えてるんだけどなあ?」
ヘラッと笑った男が、腰の剣に手を掛けた。ユージーが、身構えたのがわかる。
「剣のせい?魔力が漏れてるのかな?」
唐突に、鞘ごと剣を放り投げた男。投げられた剣が、洞窟の隅、ガシャンと音を立てて地面に転がった。
「…ノア、武器はもっと大切に扱え。」
「はいはい。」
何かを言った男の子が恐い表情を浮かべて、けど、男の方は男の子を振り返りもしない。身を屈めて、じっと、じっと、こっちを見てる。
(…「観察」、してる。)
何かを期待して、楽しそうに―
「あー、でも、これでもダメかー。」
男が身体を起こして、男の子を振り向いた。
「ブラウ、外に出ててよ。ブラウのせいで脅えちゃってるのかもしれないから。」
「…」
男が、追い払うように、男の子に向かって手を振る。男の子は凄く嫌そうな顔をして、だけど結局、こちらに背を向けた。そのまま洞窟を出ていく様子に、ちょっとだけ、ホンのちょっとだけ、期待した。のに―
「はい!ほら!もう大丈夫!恐いドラゴンは居なくなったから!ね?もう、無力な人間しかいないよ?」
男の目に、狂喜が増した。
(何、コレ、恐い…)
ヒナちゃんを、ギュッと抱えたまま、ズルズルと後退する。
「あー!ちょっと待って!待って、逃げないで!襲ってよ!襲って?ここは襲ってくるとこでしょう!?」
(ヤバイ。何か、コイツはヤバイ。)
ヒナちゃんを抱えて一か八か、ダッシュする。そう決めたところで、
「あーもう、仕方ないなあ。じゃあ、軽く攻撃するからさ、そっちも逃げずに本気出して?ね?」
『『『!?』』』
男の手の中に、手品みたいにフワリと炎が現れた。
(魔法だ。)
瞬時に理解する。スライムやスキルが存在する世界、きっと有るだろうってユージーが言ってた。
(まずい。どうしよう。逃げれる?)
迷ったところで聞こえたユージーの声。
『…マリカ、印象操作。「ここには何も居ない」って思わせろ。』
『…わかった。』
「?」
一瞬の間、多分、マリちゃんがスキルを使った。男が、あれ?って顔をして、それから、
「…へぇ~?」
壮絶に、笑った―
「今の、何?催眠系?精神魔法?スライムがやった、わけないよね?ってことは、」
男の楽しそうな声、笑った顔と裏腹に、暗い暗い瞳の色、濁った血の色が、ヒナちゃんに向けられて、
「…お前が、やったの?」
『『っ!?』』
身体を、思いっきり伸ばして、ヒナちゃんを包み込む。
視界の端、ユージーが男に向かって転がったのが見えた。
『ユージ!?』
マリちゃんの悲鳴。
「ん?あれ?これ、攻撃?」
男の呟き。それから―
「あ、じゃあ、やられるね?」
突然、倒れこんだ男。目を閉じて地面に手足を投げ出す。
(なに?なに?なに?)
一体、なに?何が起きてる?男の行動、意味がわからずに硬直した。
倒れた男の上、じわりと這い上がったユージーが、その身体をじっと見下ろしている。




