1-1. ここはどこ?私はスライム?状態での目覚め
その日、世界中で刈り取られた命のいくつか、全体としてはホンの一つまみ、数にして十数の魂が、輪廻の輪を外れ、世界の壁を越えた―
地面?私、地面に転がってんの?
身体の下には、土の感触、目の前には、巨大なピンクのプニプニ。こういうの、動画投稿サイトで見たことある。面白実験系で作ってるのを何度も。
(あー懐かしいなあ)
――ちゃんと――くんと一緒に笑って驚いて、――さんに、またそんなものばっかり見てって怒られて。
それにしても、どれだけの量があるんだ、このスライムは。視界いっぱいのスライムをボケーッと眺めていたら、
(えっ!?)
スライムが、分厚いカーテンみたいに持ち上がって。
(足!?)
え、子どもの足?素足で地面!?何で!?
ガバって起き上がった、つもりが、
(…あれ?)
視界が変わらない?高くならない?
「…」
「…」
『え?』
(あれ?声が…)
何から、驚けばいいのか。
目の前に、自分と変わらない背丈のピンクスライムが、プルプルしていること?それとも、驚いてあげたはずの声が、出なかったこと?
『えーっと…』
混乱の極み。目の前のスライムに襲ってくる気配が無いからいいようなものの。どうしていいかわからずに、目の前のプルプルと見つめ合うこと、暫し、
『お、起きたか?』
『っ!!』
ビックリしたビックリした。急に背後から聞こえた声に振り返って、
『っ!!』
またビックリ!今度は、黄色のスライム!
『あー、待て待て。慌てるな、ビビるな。』
『っ!?』
(しゃべってる!?)
というか、聞こえてくる?これは、この目の前の黄色スライムの声、なんだろうか?プルプルしてるけど、目も口も鼻も無い生物だから、ちょっとよくわからない。
『聞こえては、いるよな?聞こえてんだったら、返事してもらえるか?』
『…私に、言ってますか?黄色スライムさん?』
『お。やっぱ通じてんのか。そうだよ、あんたに言ってる、水色スライム。』
『っ!?』
なん、だと―
いや、スライムがすごくフレンドリーに話しかけてくる時点で、気づくべきだった。スライム語がわかるんだから、そりゃもう、私も、十中八九スライムだろう。覚悟を決めて視線を下げる。
『…本当だ。水色だ。』
『おー。王道中の王道だよな。ちょっと粘度低くてバブル気味な気もするけど。』
下げた視界に見えた自分の身体も、色は違えど他の二人…二匹と同じ。まごうことなきスライム。
『…おかしいなー。私、何でか自分のこと人間だと思ってたんだけど…』
『あー、その話はちょっと待て。まとめて話そう。あっちに、もう一人いんだよ。』
『もう一人?』
『ああ。あんた以外に、俺を含めて三人。まとめてここに転がってた。』
『ここ?そう言えば、ここって?』
どこなんだろう?周囲を見回してみる。薄暗がり。むき出しの土の地面と、土の壁。わかるのはそれくらい。場所を特定出来そうなものが、何もない。
『わからん。屋外、洞窟だろうってことぐらいしか。』
『…何でそんなとこに。』
『さあな。…いや、何となく嫌な予感はしてるが。そういう話もしたいから、あっちで縮こまってんのと合流しよう。』
『…了解です。』
何もわからない状況。敵意のなさそうな言葉に頷いた。前を、ニュルニュルと移動し始めた黄色のスライム。ピンクのスライムがそれに続いて、
(って、えー!?)
なにか、何だろう?黄色スライムはナメクジみたいだと思ったのに。ピンクスライムは傘だけのクラゲ?それが、トコトコ歩くみたいに移動してる。高さも倍くらいの縦長になってるし。
(…いけるか?)
私も、どうせならナメクジよりはクラゲがいい。あっちのが可愛い。流れるに任せていたボディに気合いを入れ、シュッとしてみる。気持ち、背が高くなった気がする。でも、
(…スタスタは無理。やっぱ、ニュルニュル)
諦めて、地面を這う。そっと持ち上げた足…はないから、身体の裏、土やら砂やらの汚れが付かないことにちょっと安堵して、二人を追った。
黄色とピンクが待っていた場所。大きな岩の下の隙間に、ソレが見えた。
『…緑?』
『おお、そう。緑スライム。いじけてこんなとこに逃げこんじまってよー。おい、ジョシコーセー、出てこい。水色の、目ぇ覚ましたから。』
『…ウザい。別にいじけてないし。』
『面倒くせー奴だなー。』
気安い、悪く言えば粗雑な二人のやり取りに、口を挟む。
『二人は、お知り合い?』
『はぁ!?こんなおっさんと知り合いなわけないじゃん!?』
『…最初に目ぇ覚ましたのが俺らで、まあ、ちょっとお互い第一印象最悪なだけだ。気にするな。』
え?気にしなくていいの?スゴい勢いで否定してきた緑スライムに対して、黄色スライムの対応がおざなり過ぎる。
『はー。もう、面倒くせぇから、マリカ、お前はそこで話聞いてろ。』
『うっさい。命令すんな。』
あ。黄色、緑を無視した。
『で、水色、お前、ここに来る前の記憶、どこまである?』