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その後、一応、マリちゃんにも、「ユージーとケンカしたの?」「何があったの?」とは聞いてみたけど、「べ、別に!?」「な、何でもないから!?」と顔を赤く、…顔を深緑?にして照れていたから、「ああ、まあ、そういうことね」と甘酸っぱい気持ちになって、それ以上の追求はやめておいた。
次の日からも、ツンツンしながらユージーと出掛けて行ったから、やはりアオハル的なアレなんだろうなと判断して、いつか、娘の方から話してくれることを期待して待つことにする。
そんな気持ちで二人を送り出していた毎日、だったのだけど、話をしてくれたのは期待していた娘の方ではなく、息子の方だった―
『…シノ、話がある。』
『何?』
頭の上、「?」を描く。ユージーの視線が一瞬だけ、それを確かめて、
『…マリカのこと、ちょっと気をつけて見てやって欲しい。』
『マリちゃん?何で?』
『…アイツが寝てる時に、無意識なんだろうが意識が繋がることがある。』
『え…』
意識、意識共有。無意識ってことは一人言?みたいな?寝てる時ってことは夢?全然、気づかなかった。
『まあ、俺とマリカは外行く時とか、結構、意識繋げてるから。あいつと俺が繋がりやすいってのはあるんだろうけど。』
『…』
本当にそれが理由?繋げる頻度の問題?
無意識なら、それこそ、ユージーには気を許してるってことになるんじゃないかな?と思った。だから、頭の上の「?」を「ハートマーク」に変えようと、悪戦苦闘してみたんだけど、
『…あいつ、家族の夢見てる…』
案外難しくて、歪な形、出来損ないのハートが、
『いい夢の時もあるけど、…泣いてることの方が多い。』
ぺションと潰れた―
『…』
『…あいつも、まだガキなんだよな…。お前にも言われたけど、高校生なんて、まだまだ親に庇護されて当たり前の歳で…』
うん、そうだね。そう、思ってた。だけど、結局、私は気づいてあげられなかったんだ。マリちゃんの「悲しい」にも「寂しい」にも。
『シノ、お前がヒナコで手一杯なのはわかってるんだけどさ、マリカのことも、どっかで気に掛けてやっといてくれよ。』
『…ユージーが、マリちゃんに直接言ってあげれば良いんじゃない?「大丈夫か?」とかの一言でも。』
『…俺じゃ、キモいだけだろ?』
言って、「苦笑」してるみたいなこの男は、本当、イイオトコなのか、ただのヘタレなのか―
『まあ、それにさ?男の俺に夢ん中勝手に見られたとか、マリカだって嫌だろうが。』
『ふーん…』
(なんだ、マリちゃんのこと、そこまで気遣ってるんだ…)
話の中身は結構深刻、期待していたコイバナ的なキュンとはちょっと違ったけど、だけど、でも、やっぱり、コレは―
(うん!)
『マリちゃぁぁぁあああん!ちょっと、聞いてー!!』
『はっ!?な!ちょ!お前!シノ!待て!』
『待たなーい!』
『くそっ!お前、何でそんな足早い!?』
『「脚」作ってみたー!!』
『はあっ!?』
私の我儘ボディの下では、白鳥さんもビックリな勢いで、触手的な脚がワサワサ、チョコチョコ頑張ってるんだよ?
ユージーを振り切り、ヒナちゃんと遊んでくれていたマリちゃんには、勿論、速攻で全てをばらした。オブラートは当然のように、「え?何それ?美味しいの?ただのデンプンでしょ?」って、破り捨てて。途中で追い付いたユージーは、いつかのマリちゃんの二の舞になっていた。無力、全くの無力。
『ってことで、マリちゃん!ユージーに大事に思われてるね!』
『えっ!?』
『シノ、てめぇ!お前、本当、デリカシーとか!そういう!』
『あるヨー。私はデリカシー溢れるおかんだよー。』
『ねぇよ!』
『ちゃんと、ユージーの前で話したでしょう?意識共有でこっそり内緒話も出来たのに、敢えて、ユージーが追い付けるギリの速さでユージーを引き付けて。』
『余計たち悪ぃーわ!!』
まあ、いいじゃん?だって、ほら、マリちゃんがまた、深蒸し茶みたいになってるから。