2-5
『というわけです!』
ユージーには話した。マリちゃんの話、全部。包み隠さず、オブラートも、「え?何それ?美味しいの?無味無臭じゃん?」って、破り捨てて。
『…』
『…』
沈黙する茶色スライムと、モジモジする緑スライムをニヤニヤ眺める水色。途中、マリちゃんは、私を必死に止めようとしてたけど、残念!押さえようにも私には口がない!意識共有だから全く邪魔されることなく、全てをツマビらかにさせて頂いた。
今は、女子高生の可愛らしい恥じらいを、三十過ぎたおっさんがどう受け止めるのか、菩薩の気持ちで見守っている。
『…まあ、そう、か。まあ、なんだ、最初のあれは、さ?まあ、俺も悪かったし、その、お前がそんなに気にしてるとは思ってなかったから、その…悪かったよ。』
『…いいよ、もう。ユージは直ぐ謝ってくれたし。』
和解した二人が、モジモジしてるところ悪いけど、
『「最初のあれ」って、結局、何があったの?』
『『…』』
(あら?二人とも固まった。)
ここは、口を割るべきだろう年長者のユージーをじーっと見てたら、
『…俺が、マリカを襲った…』
『っ!?はい、ギルティ!!』
それはアウト!!こんな未開の地でもアウト!案件もの!ユージーの隔離を決めたところで、
『いや、でもさ、目が覚めて目の前にスライムが居たら、取りあえず戦うだろ?』
『!?え?眺めるけど!?』
『…逃げる。』
三者三様の選択肢だった。
まあ、ユージーの「襲った」の選択肢が、ギリ、許せる範囲だったのがわかって安心したけど。
『…だから、まあ、そういうわけで、最初ちょっと、険悪だったんだけどさ…。…マリカ、お前、俺に印象操作使ったのって、いつの話だ?』
『…一週間くらい前。ヒナちゃん用に、ユージが初めて外に草取りに行った日。…ユージが帰って来たの、出迎えた時に。』
『あん時か…。いや、でも、全然記憶に無い、っていうか、気づかなかった。』
マリちゃんの自己申告通り、ユージーにはやっぱり何の変化も無かった、少なくとも、ユージー本人に自覚は無いってことらしいから、
じゃあ、それって、つまり―
『ねえねえマリちゃん?具体的にどんな印象、ユージーに持ってもらおうとしたの?ねえねえ?ねえねえ?』
『っ!?』
『シノ!お前は、なんっか、デリカシー無いよな!?』
『なんで!?大事なとこだよ!』
『俺とお前の思ってる「大事」が違う気がするんだが…』
『で?で?マリちゃん、どうなの??』
これは、興味本位とかじゃないんだよ。大事なことだから、確かめておかないと。大事なことだから。
『…あんまり具体的に考えてたわけじゃないけど。ユージが外に出るの、私も手伝えたらって思って、でも私、最初、感じ悪い態度ばっかりとってた自覚あったから。「本当は私、そんなに面倒くさくないし、子どもでもないのに」って、言い訳みたく思ってた、と思う…』
『うーん…。いや、でも、やっぱ、よくわかんねぇ。一週間前、だろ?マリカの印象、変わったとか、特に無いんだよな。操作された方は自覚しづらいもんなのか?」
『違うよー!』
ユージーが、天然鈍感主人公みたいなこと言い出したから、アホかって思った。
『そうじゃないでしょう!元から、印象操作なんてしなくても、ユージーはマリちゃんのこと、子ども扱いもしてなかったし、面倒だとも思ってなかったってことでしょー!』
『え?…そう、なの?』
マリちゃんのビックリって反応に、ユージーがちょっと悩んで、
『ああ、うん、まあ、確かに、そう、かもな。…お前、へそ曲げたのだって結局、最初だけだったし。虫も、我慢して食ってるし。まあ、最初思ったほどガキじゃあないってのは、割とすぐ気づいたってか、前からそう思ってた、つーか…』
『…』
『…』
(…私は菩薩…)
漂う二人の空気に突っ込まないし、茶化さないよ。ただ、黙って見守るだ、
『…シノ、お前、ウザい。』
『!?何も言ってないのに!』
『空気がうざい…』
『理不尽っ!?』
ひどい!二人の関係改善の立役者!一番の功労者に向かって!でも、口にはしない、そんなウザいこと、口にはしないよ!ただ、全身波打たせて抗議はさせて頂くけど!
『…はあ、もう、いいや。』
ユージーが何かを諦めて、
『あー、マリカ。印象操作って、いつでも使えるのか?発動条件とかあったか?』
『わかんない。ユージの時は無意識だったし、鳥の時は必死だったから。』
『消費MPは?』
『5…』
『5か。…じゃあさ、MP全快したら、一度試してみようぜ。発動条件とか、効果範囲とか、確認しときたい。」
『ん…』
『…あと、次の狩りから、どういう風に使っていくか、モンスターにどういう印象持たせたらいいかとかも考えておいたがいいな。例えばだけどさ、逆に「俺に食われる」とか「身体が動かない」とか、思い込ませられたら、狩りが楽になんだろ?』
『…わかった。やってみる。』
そこから何やら二人で真剣に話し合い始めた内容に、少しだけ疎外感を感じて、頼もしいなーって思った。