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4-5

血の気が引いた─


自身の罪を暴かれて、頭が真っ白になる。


私はあの時、確かに、ヒナちゃんに─


「面白いことをするな、と思っていたんですよね。」


「…」


「スライムであるあなたがスライムを食べさせる。…あの娘の成長を願いつつも自身の身を与える勇気はなく、あのような形で『餌』を与えるつもりでしたか?」


「…うる、さい。」


うるさいうるさいうるさい─


「自身の代わりに同種族のモンスターを餌にする。…あなたの愛情は、とても歪で面白い。」


「っ!」


うるさいうるさいうるさい─!


(お前に、お前に何がわかる!)


悩んで、馬鹿をして、その罪を認めて。


だけど、きっとまた、私は同じ悩みを繰り返すと自覚している愚かさを。それでも、正解の分からないこの問いを、自ら放棄することだけはしないと決めている。


(私だって、本当はもっと上手く、もっとちゃんと、ヒナちゃんを守りたいに決まってるじゃないっ!)


もっとちゃんと、ヒナちゃんの()()()()に─


「ああ、そうだ。」


「…」


「あのスライム擬きに、餌としてスライムを与えてみましょうか?」


「っ!?」


「成長すれば、或いは擬態が解ける可能性もある。…あなたも、そう考えて、」


「…黙れ。」


「おや?あなたも賛成してくれるかと思いましたよ。始めたのはあなた、私はあなたの望みを、」


「うるさい。()()()()、」


() () () () よ─


冷えた感情。身体から、魔力がごっそりと抜けていったのを感じる。


「…」


「…」


男の体がかしいだ。


目を閉じた体がゆっくりと崩れ落ちていくのを、最後まで見届けずに部屋を飛び出した。


薄暗がりの廊下には幾つかの扉、一つ一つ開け放ちながら、ただ一人の姿を探す。部屋の中には幾つものケージ、檻のようなものが。その中に居る女性達の怯えを見ながらも、立ち止まれない。


『ヒナちゃんヒナちゃんヒナちゃん…』


ずっと、呼び続けてる。返事が無い。駆け込んだ、一番奥の部屋。


「っ!ヒナちゃん!?」


ベッドの上に眠る小さなピンクの身体。


「ヒナちゃん!」


駆け寄って抱き締める。身体は温かい、動いてる。怪我は無いか確かめながら、回復をかけていく。それでも目を覚まさないヒナちゃんを強く強く抱き締めて─


(ごめん!ごめんね、ヒナちゃん!)


心の中、ひたすらに自分の愚かさを謝り続けた。


「…ん。」


「っ!」


回復が効いたのか、腕の中の温もりが身動ぎし出す。


「…シノ、ちゃん?」


「ヒナちゃん!ヒナちゃん!ヒナちゃん!」


「シノちゃん、苦しい。」


「ごめんね!ごめんね!ごめんね!」


謝って謝って謝って、それでも、自分で自分が許せないから、感情の持っていき所がなくて爆発しそうになる。


「シノちゃん、怪我してない?」


「うん!してないよ!」


「ヒナは、お留守番の約束、」


「うん!シノちゃんが帰ってくるの遅かったからだね!…ごめんね、恐かったよね?」


「…恐かった。」


「っ!」


小刻みに震えるヒナちゃんを抱き締めて、絶対に、もう、絶対に二度とヒナちゃんをこんな目に合わせるような真似はしないと誓った。


こんな馬鹿な真似は、もう二度と─


「っ!?」


「シノちゃん?」


『ヒナちゃん、何か、誰か、こっち来る…』


複数の人の気配、廊下を走る音に、何かを叫ぶ声のようなものまで聞こえてきた。


(アイツの仲間…?)


近づいてくる不穏な気配に、ヒナちゃんを背後に庇う。


(一瞬で、意識奪って逃げ出せば…)


人数にもよるが、部屋に入ってくる瞬間を狙えばいけると算段し、侵入者に備える。部屋の前で立ち止まる足音、扉が勢い良く開かれ─


「動くなっ!」


「っ!?」


(誰?アイツらの仲間?)


飛び込んで来た人物の姿に、虚をつかれた。身なりのいい、お嬢様然とした服装の女の子、下ろした金髪に紅い瞳。何処か既視感のある─


「あら?ここにも監視は無し?居るのはあなた達だけ?」


「…」


こちらの姿を認識し、小首を傾げた女の子が、無警戒に近づいてくる。


「っ!」


「ああ、勘違いしないで。私は誘拐犯どもの仲間ではないから。あなた達を助けに来たのよ?」


「助けに…」


その言葉に、思い出した。


「じゃあ、あなたがギルド本部から来る予定の…?」


「あら!ひょっとして、あなたがゴートギルドの協力者さん?ギルマスが話してた?」


「はい、…一応。」


その協力を放ってきたので、もはや協力者とも言えないけれど。


「そう。ギルマス達は、あちらの部屋で捕まっている子達の保護に当たってるわ。私は、誘拐犯どもの制圧に、…のつもりだったんだけれど、どこの部屋も藻抜けの空。」


「…」


「まあ、居たのは居たんだけれど、そいつらは何故か全員ぶっ倒れてるし。」


「…」


「…あなたがやったの?」


「はい…」


逃れようの無い鋭い視線に頷いた。


「そう。…あなたが、ね?」


「…」


値踏みするような眼差しを黙って受け入れていれば、


「えっ…?ちょっと、何、あなた、スライムなの?」


「っ!?」


前触れもなく、唐突に、正体を言い当てられたことに動揺する。


(っ!マズい…!)


退路を─


逃げ出そうとして、彼女の背後に向けた視線、瞬時に気づかれ、制止される。


「待って、待ちなさい!あなた、これ、え?ブラウ様の魔力、あと…、あら?え?ひょっとして、あなた、ノアのテイムモンスターなの?」


「…」


彼女の口から出た、二人の名前。その目に見えるのは純粋な驚きだけ。そこに、悪意や嫌悪が見えないことに覚悟を決めた。


「…ノアの、テイムモンスターです。シノと言います。」


「まぁっ!」


目を丸くして驚いた彼女に、先ほどとはまた違う眼差しで値踏みされる。


「これは!そうね、なかなか…。ブラウ様がご心配されるのも納得がいくというか。」


「あの…?」


「ああ、ごめんなさい。名乗るのが先よね?私はエスカ・ガルシア。あなたのマスターである、ノア・ガルシアの妹よ。」


「!?…ノア、の。」


「ええ、そうよ。…私も、まさかこんなところであなたに会うとは思っていなかったわ。」


暫し、二人して呆けたように見つめ合って─


「…お兄様に、連絡を入れないと、ね。」


先に動いたのはエスカだった。


「あなたのこと心配し過ぎて、頭がおかしくなっちゃってるから。」


「…ノアが?」


「そうなの。あの馬鹿兄ったら、あろうことか私のブラウ様に…」


言いながら、右耳に下げたリングに手を伸ばしたエスカが、ふと、何かに気づいたようにその手を止めた。その視線が、こちらをジッと見つめる。


「…いえ、そうね。やっぱり、連絡は帰ってからにするわ。」


「え?」


「あなたには自分の仕出かしたことを自覚して貰わないといけないし、馬鹿兄には反省が必要だから。」


「反省…」


「そ。さぁ、じゃあ、行くわよ!」


「えっ!?わ!ちょっと!?」






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