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3-5

眼福眼福と思いながら眺めていたら、隊長さんが近づいてきた。


「…これは、凄いですね。」


「え?」


笑いながらだけど、アワアワな光景に本当に感嘆しているらしい隊長さんにちょっと焦る。


「えーっと?…洗浄って、珍しいスキルなんでしょうか?」


「なんと、これは洗浄スキルでしたか。」


「え?」


「洗浄スキル自体はありふれたものですが、どれも発動時に発光するのみ。このような光景は初めて目にしました。」


「…」


地味に、やり過ぎたらしい。


(…まあ、攻撃魔法じゃないですし?)


それに、本当の泡ではなく、単なる視覚的なオプションだから。これくらいはアリだと思う。ヒナちゃんが、お友達とキャッキャウフフしてるんだから、問題ない。


(ん?あれ?)


キャッキャウフフしてない子が一人いた。他の子達が遊んでるのを、ジーっと見ているだけの、六歳くらいの女の子。


(はいはい、オーケーオーケー。)


オカン歴半年の私には分かる。余裕。これは、あれだ。「私も皆と遊びたい。でも、アワアワ怖いし、みんなと仲良くできるかどうか…」っていうシャイガール。だから、声をかけてみた。公園で会った子どもに声をかける近所のおばちゃんの気持ちで。


「入ってみるー?怖くないよー?アワアワ、痛くも怖くもないからね?」


「っ!?」


「…おっと?」


逃げられてしまった。脱兎のごとく。スマイルが似非過ぎたのかもしれない。近所のおばちゃんじゃなく、誘拐犯みたいだったんだろうか。逃げ出して、母親らしき人にしがみついてしまった女の子の後姿を、未練がましく見つめてしまう。


「…許してやってください。」


「はっ!え!?」


横から聞こえた隊長さんの声、「許すって何だ?」と思って振り向いたら、凄く、痛ましげな視線を母娘に向ける隊長さんがいた。


「あの親子は、一度、奴隷として売られた過去がありまして。」


「奴隷…」


あまりのパワーワードに、血の気が引くなんてもんじゃなかった。


(だって、あの子、どう見ても、小学校低学年くらい…)


奴隷制度なんてクソみたいな制度が文化としてあるんだとしても、子どもが、あんな小さな子が―


「…夫を亡くして困窮していたところを騙されたようで、我々が見つけた時には、既に奴隷紋を押された後でした。」


「…」


「一度押された紋は、永久に消えませんからね。…あの子、ルディも、それを見られたくないんでしょう。身体を洗う時でさえ、決して肌を見せようとはしません。」


(死ねばいいのに…)


子どもに、そういうことが出来る奴ら、全員―


一生消えないソレを背負っていかなければならない女の子と、その子を一番大切に思っているだろう母親の気持ちを考えると、心底、泣きたくなってくる。


(けど、まぁ、私の涙なんて、何の足しにもなんないから…)


「…ルディちゃーん!いくよー!」


「っ!?」


でっかい、でっかい、シャボン玉を作ってみた。アワアワじゃなくて、クリアに輝く大玉を一つ。と言っても、これも視覚的なものでしかないので、


「大丈夫ー!服濡れないし、目も痛くないし!」


「!」


怯える様子のルディちゃんを、お母様ごとシャボン玉の中にご招待。「え?え?」となってる二人に気づいた子達が、キャーキャー言いだした。


「すっごい!シャボン玉!すごい!」


「大きい!やって!こっちにもやって!」


熱烈なリクエストを受けてしまったら仕方ない。洗浄スキルVer.4として開発されてしまったシャボン玉をあちこちに飛ばす。大した強度の無いシャボン玉は、元気いっぱいの子ども達に破壊されまくり。あっちでパチンこっちでパチンしているけど、どうやらそれが楽しいらしい。


(…お?)


お母さんの手を引きながらではあるけれど、再び近づいてきたルディちゃんにも、特大シャボン玉を飛ばしてみる。ついでにアワアワも。


(大丈夫だよー、お洋服のままでも濡れないからねー。綺麗になれー。)


慌てるお母さんの横で、ルディちゃんがキャッキャしだした。


(…よし!)


謎の達成感に浮かれてスキル連発しまくってたら、いつの間にかMPが枯渇寸前だった。シャボン玉って怖い。









お風呂の後はお食事タイム。「食事の用意が出来たよ!」という肝っ玉母ちゃん系のおば様の一言で、子ども達はあっという間にアワアワから飛び出していった。謎の敗北感を感じながら、ヒナちゃんと一緒に皆と同じ食卓につく。


(食卓っていうか、地べただけど。)


車座に座る皆の元に、次々に回されてくるお食事。何かのスープと、美味しそうなステーキ的なお肉。味覚の無いスライムの視覚をとっても楽しませてくれるメニューに、テンションが上がる。


配膳が終わり、全員が腰を下ろしたところで、隊長さんが両手を組み合わせた。同じポーズを取る皆さんに倣い、手を組んで、ちょっと頭を下げた格好で周囲をうかがう。隊長さんのよく通る声が響いた。


「今日、この日の糧を与えてくださったアシュスの神々とシノさんに感謝を。」


「「「感謝を」」」


(え…?)


残念ながら、皆さまに合わせて復唱するタイミングを外した私はアシュスの神様に感謝出来ていないんだけど、いや、それよりも―


「サンドワームのステーキなんざ、何年ぶりだ!?」


「美味しいー!」


「美味い!メチャクチャ美味い!」


(…え?)


さっきまで、ヒナちゃんと一緒にシャボン玉でキャイキャイしてた子達の歓声が、あちこちから聞こえる。「美味しい」って。でも、その、ちょっと前にチラッと聞こえた単語と、隊長さんが神様と一緒に並べてくれた私への感謝とやらを考えるに―


(…つまり、これは…?)


視線を落とす。目の前には、美味しそうにこんがり焼けた分厚いステーキ肉―









思わぬ苦難の旅になってしまったキャラバンの皆様との旅も、丸一も経たずに終わりを迎えた。最寄りの街、そのギルドの前で、隊長さん達に別れを告げて、頭を下げる。


「ありがとうございましたー。本当、助かりました。あんな大荷物、ギルドまで運んでもらっちゃって。」


「いえ、それは本当に構わないのです。ですが、本当に、よろしいんですか?その、彼らの懸賞金を…」


「ああ、いいですいいです。もし、懸賞金ついてたら、代わりに貰っちゃってください。」


「しかし、彼らを捕まえたのは…」


「運んでくださったのは皆さんですし、私、実は結構急ぎの旅でして。正直、懸賞金が出るまで待ってられないんですよねー。」


「…ありがとうございます、シノさん。本当に。何から何まで…」


「いやいやいやいや!お互い様です!こういうのはお互い様ですから!」


また、隊長さんに仰がれそうになったので制止する。


(もう、ぶっちゃけ、本当に、待つ時間が惜しいだけで…)


懐がそこそこ潤っていて、目的地への旅を急ぐ現状、出るかどうかも分からない懸賞金なんて待ってられない。だから、「本当に要らないんですー、困るんですー」と繰り返すことで納得してもらった隊長さんと、キャラバンの皆さんと、今度こそ、本当にお別れをして、手を振り合った。


町を出て、また二人旅になったところで、速度強化(遅刻するわよー)を唱える。かなりのシャカシャカスピードで、「これなら、一月でみんなの所に返れるかも?」と、気分よく進んでいた先に、不穏な影が現れた。人気が無くなった街道、左右に雑木林の広がる細い道、薄暗がりの中に現れた人影に、凄く凄く、嫌な予感がした。だって、天丼は二回までって決めているのに、近づいて来る人達があまりにも既視感のある様相で―


「おい、餓鬼。命が惜しかったら、金目のもの、」


「もう!またーっ!?」


流石にキレるかと思った。





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