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『お帰りなさい!!』
(良かった!良かった!!)
無事に帰ってきた二人の姿、ユージーが若干、縮んだ気もするが、それでも自力で帰ってきてくれた姿に眩暈がするほど安心して、二人に飛び付こう、としたんだけど、
(…あれ?)
二人の間に漂う微妙な空気。二人とも黙ったままの違和感に、飛び付くのを躊躇する。
『…』
『…ヒナコに、食わせて。』
『!ありがとう!』
ユージーが、背中に乗せて運んで来てくれた黄色の果物。洋梨か、花梨のようなそれを受け取った。
『ありがとう!ありがとう!ユージーもマリちゃんも!本当にありがとう!』
『…』
『…ああ、いいから、それ早くヒナコのとこ持ってけ。』
『うん!』
元気の無いマリちゃんは気になるけれど、今は先にヒナちゃんだという思いで二人の前を離れる。乗せれるだけ乗せた黄色の果物を持って、ヒナちゃんのところに急げば、力無く横たわるヒナちゃんの姿。最近はずっとその状態のヒナちゃんに近づいて、声をかける。
『…ヒナちゃん、果物だよ?食べれる?』
『…』
小さく、プルプルと震えた身体が、ゆっくりと持ち上がって、こちらを向いた。
『…食べてみて?』
スライムの傘部分に渡した果物が、地面の方に、傘の下の方から中へと消えていく。耳を思いっきりすますと、聞こえてきた小さな咀嚼音。
(良かったー。食べれてるー…)
無事に飲み込めたみたいで、ちゃんと食べてくれてるみたいで、本当に本当に良かった。安心した。安心のあまり、目は無いけれど、泣いてしまうかと思った。それくらい、嬉しくて、
『ヒナちゃん!まだいっぱいあるからね!ユージーとマリちゃんが取ってきてくれたんだよ!後でお礼言わなくちゃね!あ、残してもいいよ?食べれるだけ食べて、残りは後で食べようね!後は、後は、』
興奮して次々と渡してしまった果物。三つ目を渡そうとした時点で、ヒナちゃんがプルプル首を振った。
『…お腹、いっぱい。』
『!そうか!そうだね!いきなりいっぱい食べるのは無理だよね!いいよいいよ!お腹空いたらまた食べようね!』
『…うん。…ねむ、たい。』
『寝よう!寝て!寝て元気になろうね!元気になって、またご飯食べようね!』
『…』
コックリと頷いたヒナちゃんの身体がゆっくりと倒れていき、直ぐ様、小さな寝息が聞こえだした。
(疲れてる、んだろうなー。)
こんな小さい子が、こんな場所で。よく頑張ってるよねと思う。自分がスライムになってしまったせいか、時々、忘れるというか、鈍くなってしまっている。こんな場所、こんな生活、六歳の子に耐えれるようなもんじゃないのに―
ずっと聞いていられそうな可愛い寝息を聞きながら、ヒナちゃんの生活向上についてアレコレ考えていたら、何か聞こえてきた。
『?』
(怒鳴り声?)
敵が来た、ならもっと大きい声、意識共有で知らせてくるはず、だけど、ケンカ?ユージーとマリちゃんが揉めてる?
どれどれ、これは「おかん」として様子を見に行かねばと、ニョロニョロ移動を開始する。駆けつけられないのは仕方無い。
ニョロニョロたどり着いた場所では、緑と茶色のスライムが緊迫感漂わせながら対峙していた。流石に細かい表情までは読み取れないけど、見つめあってるわけじゃなさそうだと判断する。とうとうそこまでスライムの表情を読めるようになったことを、彼らの母として誇りに思うべきか―
『ユージー、マリちゃん、どうしたの?ケンカ?』
『…悪い、五月蝿かったか?ヒナコに聞こえないようにしてたつもりだったんだが。』
『大丈夫。ほとんど聞こえなかったし、ヒナちゃんは寝てるから。』
『そっか…』
『それで?何があったの?』
『…こいつ、自分のスキルを隠してやがる。』
『…』
(ああ、なるほど。)
お互い手の内は見せ合おうねっていう約束を、マリちゃんが破ったからユージーは怒っている、と。後ろめたそうなマリちゃんの反応を見る限り、マリちゃんも悪いことしたって思ってる、のかな?
(これは、難しいなぁ。)
悪いことだって分かってて、それでも言えないっていうのはー
『俺は最初に言ったよな?全員の命に関わることだからってな?…隠してねぇで、さっさと話せ!』
『嫌って言ってるでしょ!そんなに知りたいんなら、勝手に「鑑定」でも何でもして見ればいいじゃない!』
『それじゃあ意味がないから言ってんだろうが!これから先もずっと、俺が一方的にお前を覗くのか!?俺達はチームなんだよ!お前が自分から言わなきゃ、意味がねえ!』
ユージーの言いたいことはわかった。でも、ヒートアップするのはマズイから、二人を止めることにして、
『まあまあ。ユージー落ち着いて。』
『はあっ!?俺じゃないだろう!?こいつが!』
余波を受けた。
『ユージー、マリちゃんだってお年頃なんだからね?見られたくないものの一つや二つ、』
『俺らは一蓮托生なんだぞ!こいつの隠し事のせいで、勝てる戦いも勝てなかったらどうする!?死ぬんだぞ!』
茶化して怒られた。
わかってるよー。わかってる、けど、そんだけキレられたら、普通、ビビるわ。話せんわ。話したくない理由すらも話せんわ。
プルプル全身怒髪天状態のユージーは置いておいて、
『マリちゃんは、どうしても話せない?話したくない?』
『…』
迷ってるっぽい、んだけどなぁ。
『じゃあ、私にだけ、こっそり教えてくれるっていうのは?どうかな?』
『…おい、それじゃあ意味無いだろう。』
『私が判断するよ。判断して、ユージーに言わなきゃいけないことだったら、ちゃんと伝える。』
ユージーが、苦虫を噛み潰したみたいな気配を…って、虫、余裕で食べるくせに。
『…わかった、シノさんと話す。』
『…勝手にしろ。』
マリちゃんの答えがやっぱり許せないらしいユージーがニョロニョロ行っちゃうのを見送った。
『…』
『…さて、と。』
それでは、マリちゃんの話を聞きましょうか-?