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2-11 Side Y

シノとヒナコが消えて五日─


ピンクのスライムを連れた顔の良い子どもなんて目立つ存在、直ぐに見つかるだろうというこちらの思惑は完全に外れ、五日経っても、二人の影さえ掴めていない現状、日に日に焦りの色を濃くしていくノアの様子に、とうとう、こちらが折れた。


「… ノア。」


「…」


名を呼んでも反応さえしなくなったノアに、嘆息する。正直、シノに対するノアの執着をなめていた。なめていたというか、勘違いしていたというか、


(…んなに、落ち込むほど大切にしてるとは思わねぇじゃねぇか。)


お気に入りのおもちゃ、失くしたら次のものを手に入れる。その程度の興味、執着だろうと思っていたのに。こんな姿を見せられ続けたら、こちらも認識を改めざるを得ない。


「…ノア、お前、ギルドに顔が効くんじゃないのか?」


「…ギルド?」


「ああ。…シノのやつ、金持ってないからな。金がなきゃ、稼ぐしかない。手っ取り早く稼ぐために、冒険者ギルドに登録してる可能性がある。」


「…」


逡巡するノアの表情が、痛みをこらえるように歪んだ、


「でも…、シノは、見つけられたくない、んでしょ?…そんな足がつくような真似、する?」


「あー。」


ノアの中で、シノがどういう評価なのかは分からないが、


「あいつは馬鹿じゃないが、その辺、抜けて、…考えが及ばないやつだからな。」


「…」


「無駄かもしれねぇが、念のため、当たってみてもいいんじゃねぇか?」


「…」


黙ったままのノアの手が、耳元の魔法具にのびる。指で弾いたそれを通じてどこかと会話をした後、こちらを向いた。


「…本部に、顔の効く知り合いがいるから、調べてもらってる。」


「そうか…」


「…ねぇ、ユージ。…君、もっと早く、…最初から気づいてたんじゃないの?シノが冒険者登録してる可能性。」


「…」


おっそろしいほど暗い目で見上げてくる男に、肩をすくめてみせる。


(気づいてたかって、んなもん…)


気づいていたに決まっている。


それでも、黙っていたのは、シノの意思、何をやりたいのかは知らないが、あいつが「そうしたい」と思った行動を尊重するため。その程度にはシノを信頼しているし、まぁ、大切には思っている。


少なくとも、


「…次、黙ってたら許さないから。」


「…」


目の前の執着男を少々、邪魔してやろうと思ったくらいには。









「…君が、シノちゃんの『ご主人様』、なの…?」


「…」


(おいおいおい、何だこれ?ってか、何した、シノ!?『ご主人様』って何だよ!?)


ギルド本部からの情報漏洩により、「アドルート」という町で「シノ」という名前のモンスターテイマーが新規登録されたという情報を掴んだのが昨日のこと。ゲイルホースという名の騎乗専用のモンスターを二頭、ノアが金にものを言わせて手に入れてから、およそ半日でたどり着いたその町。ギルドに紹介してもらった、シノの依頼主だったというチャールズという名の男は、会うなり、ノアを射殺さんばかりの視線で睨んできた。


「…」


「…シノは、どこ?」


「…君に、それを教えるとでも?」


「…」


沸々と、傍目にわかる怒りを煮えたぎらせているノアは、さっきからそれなりの威圧を放っている。にも関わらず、そのノアをゴミを見るような目で見る男の胆力に、少しだけ関心する。


(…いや、でも、流石に、そこまでの目で見られるほどのことは、多分、こいつもしてない、はず、多分…)


男に対峙するノアの背中を見ながら浮かぶのはそんな思い。口にすれば、恐らくシノやマリカにまた叩かれそうな気はするが、ここに至るまでのノアの憔悴を知っているだけに、僅かに同情心の方が勝った。


一歩、前に出て、ノアに並んで頭を下げる。


「…すみません。シノが何を言ったのかは分かりませんが、俺たちはあいつの仲間で、あいつを心配して探している最中なんです。知っているんでしたら、あいつの居場所、教えてもらえませんか?」


「…」


「お願いします。」


再び下げた頭に、男の視線がこちらへと向いた。


「…君は、…君がシノちゃんの『先輩』?」


「は?え、いや。先輩、では…」


「違うの?君も、その、こっちの彼のテイムモンスター、スライムなんじゃ…」


「っ!?」


(っっっ!?シッッッノォォオオオ!?)


男が、周囲を憚って小声で告げた内容、


(あいつ!あいつ!)


理解して、瞬時に沸騰した─


(早速、即行で正体バレてんじゃねぇかぁあぁ!!)


ここに居ないシノに吠え、見つけたらただじゃおかないと決めて、何とか頭を冷やそうと必死になる。今はこの場、目の前の男にどう取り繕うか。


そう考えていたこちらの動揺が伝わっでしまったらしい、男が申し訳なさそうに頭を下げた。


「あ、いや、その、違ったならごめんね。…それに、シノちゃんのことも、僕は誰にも言うつもりはないから、そこは安心して欲しい。」


「…ああ、そうしてもらえると…」


脱力し、目の前の男を観察する。「他言はしない」というその言葉は、どの程度信用できるものなのか。再び、ノアへと視線を向けた男の表情を読み取るために注視する。


「…君は、シノちゃんのことをどう思ってるの?君にとって、シノちゃんはどういう存在?」


「どういう、存在?」


男の言葉を繰り返したノアが、不快そうに顔を歪めた。


「それを、あなたに言う必要があるの?」


「…そう、別に、その必要はないけどね。…僕、僕たち夫婦にとって、シノちゃんは命の恩人で、友人で、…ちょっとだけ、自分たちの子ども、みたいな存在なんだ。」


「…」


「だからね、あの子が不幸になるのは許せないし、絶対に嫌だ。…だから、君に教えることは何もない。」


そう言い捨てた男が背を向ける。とりつく島もない拒絶。そのまま去っていく背中をノアは黙って見送った。


(…命の恩人、ね。)


シノが具体的に何をしでかしたのかまでは聞けなかったが、少なくとも、男がシノを守ろうとする気持ちは本物らしい。これなら、シノの正体から芋づる式に色々露見することはないだろうと、一先ずは安堵した。


(あとは…)


横を見る。


男の姿を最後まで見送っていたノアが、大きくため息をついた。


「…シノは、僕に怒ってるのかな…。僕から逃げたかったんだと思う?」


「いや…」


シノの気持ちを少しは知っている分、逆に何故、男があそこまで言い切ったのかがわからない。


(…ただ、あいつ、調子いいからなぁ。結構その場のノリで色々言ってそうだし…)


簡単に答えることも出来ず、言いあぐねる内に、


「…僕のこと、嫌いなのかな。」


「…」


迂闊には何も言えなくなってしまい、結局、黙り込んだ。助けを求めてマリカに視線を向けるが、完全にシノの味方であるマリカは我関せずの態度を貫いていて、ノアの姿を視界に入れようともしない。


思いっきり凹んで見せるいい年した男を前に、こちらの方が途方に暮れる。






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