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2-6

(っ!?嘘、でしょう!?)


見えた家の前、玄関扉の前に立ちふさがるようにして立つのは三メートルはありそうな灰色の熊、その足元には、地面に座り込んでしまっているマディさんの姿。右手で抑えている左肩からは赤い血が─


「うぉぉぉああああっ!!」


「チャールズさん!?」


マディさんの姿に、叫びながら巨大熊に突進していくチャールズさん、その背中に手を伸ばす。だけど、届かない。巨体が、チャールズさんを振り返った。その視界に向かってくる獲物の姿を捕らえ─


(っ駄目!そんなの駄目だから!!)


振り上げられる鋭い爪、それに武器さえもたずに対峙するチャールズさんの背中が見える。マディさんを守るためだけに、文字通り、決死で。本当、もう、そんなの─


「止めてよー!!!」


最大出力で放った水流、狙いたがわず、巨体の顔面を直撃する。それでも、巨体はグラつきもしない。ただ、ブルリと毛皮を濡らした水を払って─


「っ!チャールズさん!マディさんとヒナちゃんを連れて中に!」


「シ、シノちゃん、でもっ!」


「いいから!早く!ヒナちゃんも!チャールズさんのところに行って!」


言いながら、全員に物理防御強化と速度強化をかける。動きの速くなったヒナちゃんがチャールズさんの元へ向かうのを視界の隅で確認しながら、熊へと一歩近づく。


その一歩に、熊の視線が揺れている。目の前の獲物と、現れた、煩わしい獲物の間で。


「ほら!さっさとこっち来なさいよ!ボーっとしてたらまた水浸しだからね!」


熊の気を引くため、もう一度、水流を放つ。今、私が出来る最大限の強さで。多分、人間相手なら、首の一つくらいは折れてるはず。だけど、そんなのものともしない熊はまた、本当に煩わしそうに水を払うだけ。その見慣れた灰色の毛皮に舌打ちしたくなる。過去、何度か目にしたことのある相手。その毛皮だけ、なら。


(…ロックベア。)


魔法耐性が以上に高く、毛皮を硬化させることで物理攻撃さえも弾いてしまうという、単独でA級の強さを持つモンスター。実際、私の水流をものともしていないし、試しに足元に放ってみた火球は、その毛一本さえ燃やすことなく掻き消えた。


それでも、この中で最も「面倒」だと判断されたのか、熊のターゲットが完全に私へと向いたのを感じる。にじり寄る姿に、その視線をそらすことなく後退する。


「…チャールズさん。次、水でそいつの視界塞ぐんで、その隙に三人で中、入って下さい。」


「でも…」


「お願い。皆を守りながらは無理。」


「っ!わかった。」


「…行きます。」


宣言と同時、大量の水を、ひたすらに熊の頭上から降らせ続けた。煩わし気に水を払う熊が、滝のようなそれから逃れるように躍り出て、こちらへと襲い掛かる。


(っ!)


衝撃に構え、胸の前でクロスした腕。振り下ろされた熊の前足の衝撃で、身体が吹っ飛んだ。


(っ!これ、無理!)


痛くなはい。痛くはない、けど、前足の一振りで数メートルは飛ばされた。叩きつけられた地面、何とか身を起こしてみても、目の前には立ちふさがる巨体。圧倒的な力の差に、何をどうすればこいつを倒せるのかがわからない。


(…毛皮は無理、なら、目とか口の中?)


可能性としては、それくらいしか思い浮かばない。ただ、そんな一点を狙えるほどの自信はないから、


(っ当たれ!)


熊の顔半分を覆うサイズの火球を飛ばす、でも─


(っ!ああ!もう!)


目の周囲ごと焼こうとした炎は、着弾と同時に掻き消える。


(全然、ダメ!)


それでも、せめて皆からは引き離したくて、背を向けて走り出そうとした、瞬間─


「っグッ!?」


(しまった!失敗した!)


背中にぶつかる衝撃、前足か、体当たりか。踏ん張り切れずに、吹っ飛んで、地面を滑る。急いで振り返れば、目の前にせまる四つ足、前足が、身体の上に乗る。大きく開いた口が目の前に迫って、


(っ!)


一か八か、今度は口の中。いつか、スイカを焼いた時くらいの高温で、


「行っけ!」


練り上げた火球、目の前、喉の奥まで見えそうなほどに迫ったそこに放り込んだ。


(っ!ああ、クッソ!)


ジュッと一瞬だけ音を立てた炎は、けれど、次の瞬間には見事に掻き消えた。と、同時。目の前に迫る鋭い牙、真っ赤な闇に飲み込まれた─






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