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チャールズさん宅でのお手伝い作業、五日目。収穫期も後半、「これ、ひょっとしたら、今日で終わっちゃうかなー」というチャールズさんの言葉にハッとした、忘れていた。
(…私は、未だ、旅の途中…)
自己実現的なアレじゃなくて、事実、女子旅の途中だった。チャールズ家の居心地が良くて、ヒナちゃんとミムをクルッするのが楽しくてすっかり忘れていた。我々は路銀を稼いでいる、正にその最中だったんだった。
(恐るべし、桃源郷…)
桃なのに、うっかり、ウラシマの方になるところだった自分を誤魔化す。
「あー、えっと、じゃあ、私たち、作業が終わったら、今日そのまま町に下りますね?」
「え!いや、それはダメだよ!子どもだけなんて危ない。明日まではうちに泊まって行きなよ。」
「え、いや、でも、実は私達、旅の途中でして…」
「それでも!危ないから、明日の朝、僕が卸しに町に出る時に一緒に山を下りようよ?ね?そうすればいい。」
すっかり、完全に、冒険者ではなく子ども相手の扱いになってしまっているけれど、チャールズさんのお気持ちは非常に有難い。それに、確かに、今日の収穫作業の後では、結局、町で一泊しないといけなくなるから、
「…ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。」
「うんうん!そうしてそうして!君たちが来てから、マディの調子もすっごく良くって、君たちが幸運を運んで来てくれたみたいだね?本当、君たちには感謝だなぁ!」
「…」
見当違いに感謝してくれているチャールズさんには申し訳なくて黙っているけれど、私が運んだのは幸運ではなくご飯とおやつ…
(じゃなくて!HPとMP!)
しかも、それが効いたのかも実際は未確定。マディさんのステータスが見れるわけではないし、ここ二日はカロリーを気にして寝る前くらいにしか回復していない。それでも毎朝マディさんは元気だから、単に悪阻が治まった?だけなんじゃないかなーとは思うけど、その辺はユノバーじゃないとわかんないんだろうから、考えるのはそこで止めた。
「よし!それじゃ、残りあと少し、よろしくね!」
「はい!」
気合入れ直し、水色ハンドの操作力も向上しているから、やってやんよ!の勢いで挑んだ作業、本当にいつもより数時間は早く、お昼休憩のあと割と直ぐに作業は完了してしまった。
「後は、ボチボチ、残りは一人で収穫していく感じだねぇ」というチャールズさんの宣言、私とヒナちゃんの桃園生活が終わりを告げた。台車を引くチャールズさんの後ろから台車を押しながら、マディさんの待つおうちまでえっちらおっちらする。
あー、明日の今頃は、また街道歩いてんのかーなんて、のんきに、本当、緊張感の欠片も無く歩いていた、そんな時に─
「ッキャァァアア!?」
「っ!?」
「マディっ!?」
聞こえた悲鳴に総毛立つ。瞬時に駆けだしたチャールズさん、その後を追いながら祈った。
(何も、何も起きてませんように!)
だけど、嫌な予感は誤魔化しようもない。だから、せめて間に合って、私の力の及ぶ範囲であって─




